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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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シャマタル独立同盟、大戦参加へ

 半月後、ファイーズ要塞正面門の外。ファイーズ要塞軍は出発の準備を終えていた。

 首都から援軍、さらに新兵を含めたファイーズ要塞軍は、約三千。良く言えば、身軽であった。

「たった三千で大陸大戦に参加か。後世で笑い者されなければいいがな」

 アーサーンが言う。

「この三千騎が大戦を決した、と言われるかもしれないわよ?」

 ユリアーナが返した。

「なんで当然のようにいるのですか?」

 アーサーンは呆れ顔だった。

「首都からの援軍よ」

「あなたはフェーザ連邦方面に居たはずですよね? あちらはいいのですか?」

「私はフェーザ連邦出身よ。あの国のことなら分かっているつもり。もうシャマタルに手を出す余力なんて残ってないわ」

 連隊規模のファイーズ要塞軍に強みがあるとすれば、優秀な指揮官の存在である。

 三個大隊の指揮官はアーサーン、ユリアーナ、クラナの三人である。

 アーサーンとユリアーナの指揮能力は疑いようがない。

 そして、クラナ大隊の実質的な指揮官は…………

「まさか、この年でイムレッヤ帝国に帰ることになるとはな」

 フィラックが言う。

「あなたまで何故いるのですか?」

 アーサーンはまた呆れ顔になる。

「気にしないでくれ。ただの墓参りに行くだけだ。シャマタル独立同盟とイムレッヤ帝国が友好を築いている間にな。老体だが、出来ることはしよう」

「全く、規律というものは何処にいったのですかな? フィラック様はもう少し堅いお方だと思っておりましたが…………」

「近頃の出会いで少し柔軟になっただけだ」

「そうそう、だから私の同伴も認めてくださったのですよね?」

 ルパが言う。

「…………もういいです」

 アーサーンは諦めた。

「ちょっとなんでルパちゃんが!?」

 クラナは露骨に嫌そうだった。

「クラナ様を一人にしていると怠けると言うことがよく分かったので。リョウさんから聞きましたよ。お酒は考えずに飲むし、体のことを一切考えていなかったようですね」

「リョウさんの裏切り者! そ、それは戦争中だから仕方なかったのです」

「それから少し目を離したら太っていましたよね?」

「うっ…………」

「クラナ様は管理しないと駄目だとよく分かりました。それに今回は遠征です。慣れない土地で体調を崩すこともあるかもしれません。あなたのことをよく知っている私がいた方が都合が良いと思います。薬はたくさん用意してありますから」

 ルパは微笑みながら、背中に背負った袋をポン、と叩いた。

「急に胃が痛くなってきました…………」

「おなかが痛いのですか? では、薬が必要ですね!」

 ルパは楽しそうに言う。

「いらないです!」

 クラナは逃げた。

「フィラック様、かなり独特の娘さんをお持ちなのですね」

 アーサーンはルパに視線を向けていた。

「そうだな」

「娘さんは…………いえ、今は止しましょう。私もそうだが、事情がなければ、ここにはいないでしょうし。しかし、いずれは話をしてみたいものです」

 アーサーンは昔を懐かしむようだった。

「実はアーサーン殿のことはルパに話してある。この遠征の最中、話す機会はあるだろう」

「お気遣い、感謝します」

「それにもう一人、お主らと関係の深い方もいるだろう。いつ現るかは分からないが」

「ヤハラン殿ですか。まったく極北の地でこういった巡り合わせを体験すると捨てた神の存在を信じたくなります」

「それではあなた、気を付けて行ってきてくださいね。ルパやクラナちゃん、リョウ君のことをお願いしますよ」

 フィーラが言った。フィラックたちの見送りに来ていた。

「フィラック様のご婦人は、さすがに同行しないのですね」

「行きたい感情はありますけど、私はちょっと体が弱いんですよ。アーサーン様、うちの夫をよろしくお願いします」

 フィーラは深々と頭を下げた。

「私で良ければ、微力を尽くしましょう。さてと…………」

 アーサーンはクラナに視線を移した。

 何だかよく分からない粉末を飲まされそうになっていた。

「クラナ司令官、準備、すべて整っています。号令をお願い致します」

「は、はい! ルパちゃん、悪ふざけは終わりですよ!」

「残念です」

 ルパは薬をしまう。

 クラナは兵士たちの前に立った。大きく深呼吸をする。

「全兵士に告げます。これより私たちはシャマタル独立同盟初の遠征に、そして乱世開始以来初めての大陸大戦に向かいます。恐怖や不安がないと言ったら、嘘になるでしょう。それでも私たちはシャマタル独立同盟に未来のため、戦います。私たちは大陸大戦の最前線に行くのではありません。シャマタル独立同盟防衛の最前線に向かうのです!」

 クラナの演説に、兵士たちは喊声で答えた。

「なんだか、慣れてきたんじゃないの」

 演説を終えたクラナに、リョウは小声で話しかける。

「そ、そんなことありません。鼓動は早くなっていますし、足は震えています」

 クラナは顔を紅潮させながら言う。

 シャマタル独立同盟ファイーズ要塞軍は大陸大戦参加の為、まずはイムレッヤ帝国北部に駐留するカタイン軍のと合流を目指し、シャマタル独立同盟を出発した。

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