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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
63/184

シャマタル独立同盟の決断

 リョウたちの元へフェローからの使者が来る少し前の話。


 シャマタル独立同盟首都。

 フェローは有力者たちを集めて会議を行っていた。

「今から大陸連合へ使者を送ろう。我らも連合に参加するのだ!」

 一人の男が発言した。

 男に冷たい視線が集まる。

 しかし、男がそんな提案をするのも無理はない。

 男の名前はリアンズ。フェーザ連邦と隣接する地域の統治をしている。もし、イムレッヤ帝国側の味方をすれば、フェーザ連邦が攻めてくる。そう考えていた。

「リアンズ殿、落ち着かれよ」

 アレクビューが口を開いた。療養の甲斐があり、最近は少しだけ顔色が良くなった。

「今のフェーザ連邦に二正面作戦をするだけの戦力も指揮官も存在せん。仮に攻めてきたとしても第七連隊(今はローラン連隊と呼ぶものも多い)で十分に戦えるじゃろう」

 ローランは自らの連隊に加えて、緊急時に周辺の兵力を統合、指揮する権限を新たに与えられていた。

 動員可能兵力は一万前後である。これは実質、師団長の地位だった。 

「ワシは連合へ参加すべきでないと考える。三十万の超大軍に我らが加わったところで貢献できるとは思えん。この戦争がもし、連合軍勝利で終わった時、最も弱い立場になるのは最も遅く参加し、最も少数の我らじゃ」

「私も叔父様の意見に賛成です」

 フェローが続く。

「イムレッヤ帝国は味方が欲しいはずです。ここでシャマタル独立同盟が援軍を送れば、イムレッヤ帝国に大きな貸しを作ることができるでしょう」

「その貸し、回収できるのか? 共倒れではないか? それに何を送る? 最近、製鐵可能になった駄鉄の武器か? それとも兵か?」

 一人の男が言った。

「どちらでもありません、いえ、その二つは送りますが、主は他にあります。この戦争、必ず勝っていただかなければなりません。そう考えた時、最も送るべきは劣勢を跳ね返す策を生み出せる者だと思いませんか」

 皆、ざわついた。それが静まるのを待って、フェローは言う。

「私はファイーズ要塞に駐留する全兵力をイムレッヤ帝国へ遠征させることを進言します」

「馬鹿な、それではイムレッヤ帝国方面が無抵抗ではないか!」

 現在、ファイーズ帝国方面に駐留するまとまった兵力はファイーズ要塞駐留軍のみである。

「これだけ見せれば、イムレッヤ帝国も我らを信頼するでしょう」

「フェロー議長、あなたは国一つを賭けごとの皿に乗せるつもりか!」

 フェローは当然の罵声を浴びた。

 しかし、フェローは怯まなかった。

「皆さんは何か誤解なさっている。国の危機はイムレッヤ帝国に勝利したことで去った思っているのでしょう。それは違う。今が分岐点です。シャマタル独立同盟は国力を削がれました。そこから復活しつつあります。駄鉄という新しい資源を軸に。ですが、どうでしょう? 駄鉄が大量にとれる小国など、大国からすれば、いい餌です。このままではいずれ大国に食いつぶされる。そうならない為に裏切らない協力者、味方が必要です。イムレッヤ帝国が侵攻した際にフォデュース将軍とその麾下の者たちだけは民間人への危害を固く禁じていた。イムニア・フォデュースという人物は信頼に足るだけの人格と実力を持っていると私は判断します。これはシャマタル独立同盟が生き残る唯一の方法だと思います!」

 普段、強い言葉を使わないフェローが力強く言った。

 静かだった。

 それが答えだった。



「叔父上、申し訳ありません」

 アレクビュー以外が退出した後、フェローが呟く。

「何を謝る? お主は自分の信じることをやったのじゃろ。それにあの青年になら任せられる。…………それを望んでいるかは別じゃがな」

「で、あれば、リョウ殿を戦場へ立たせる私の判断は何と酷いことでしょう」

「否定はできん。じゃが、お主一人で抱えることではない。年を取ることをここまで悔しいと思うとはの。この身では代わってやることは出来ん。クラナとあの青年に任せるしかないの。なに、フィラックやアーサーンもおる。心配は無用じゃ」

「私は安全な後方で偉そうなことを言ってばかりです」

「それがお前さんのお仕事じゃよ。皆がファイーズ要塞駐留軍の出撃を許可したのは、お主の功績じゃ」

「若者たちを戦場へ送り出すのが功績ですか。まったく私はろくでもない人間ですね」

 フェローは自嘲する。

「何、人にはそれぞれ、異なる戦場があるということじゃよ」

 アレクビューは沈むフェローを励ました。


 

 ――――時間は戻り、フェローからの使者が来訪後のファイーズ要塞、ファイーズ要塞統合作戦本部軍議室。

 フェローの名前で、正式にファイーズ要塞軍出撃の命令が届く。

「さて、働きたくないけど働こうかな」

 リョウは呟く。

 アーサーンが発言する。

「一つ、解せないことがある」

 アーサーンが発言する。

「大陸連合になぜシャマタル独立同盟は誘われなかった? イムレッヤ帝国との確執、劇的な勝利。近年、ここまでイムレッヤ帝国に、そしてあの金髪の天才に勝った国はないぞ。我らは評価されて当然ではないか?」

 別にアーサーンは大陸連合に加わりたい訳ではない。これは単純な疑問だった。

「確執は今までの帝国に対してです。イムニアはシャマタル独立同盟に対して友好的です。そして、シャマタルも今のイムレッヤ帝国に対して協力的でした。だから僕たちを仲間に誘うことは危険がある。そう判断したんでしょう、あの男は」

「あの男」そう言った時、リョウの言葉に力が入った。

 クラナはそんなリョウを見たことがなかった。

 イムレッヤ帝国の老将エルメックや金髪の天才イムニアと対峙したときでさえ、感情の起伏はあまりなかった。

 しかし、今回に関して「あの男」などと言い、名前を出すのも嫌った。

「リョウさんはこの連合を仕組んだ方を知っているのですか?」

 クラナの勘は当たっていた。

 リョウは言葉に詰まり、少し躊躇ったが、言うべきだと判断した。

「ルルハルト…………この連合を作ったのは恐らくルルハルトだ」

 ルルハルト、その名前はシャマタルにも届いていた。

 二十半ばで、関わった戦いは全勝。イムレッヤ帝国のイムニアと並び称される天才である。

 しかし、その性格はイムニアと正反対だった。

 イムニアが正面からの戦勝に拘るのに対して、ルルハルトは奇策を多用する。イムニアが民間人に危害を加えないの対して、ルルハルトは陽動や挑発のために躊躇いなく、街や村を襲う。

「中々の知将だと聞くが、リョウが恐れるほどなのか?」

 アーサーンからすれば、リョウも恐ろしい知略の持ち主だ。ルルハルトに劣るとは思えなかった。

「僕ではルルハルトに勝てません」

 それなのにリョウはあっさりと敗北宣言をした。

「言い切る根拠を教えてくれ」

「イムレッヤ帝国との戦いで僕は火計を使って、フェルター軍団を押し返しました。首都へ迫った皇帝軍に毒を盛って、その軍を無効化しました」

「それは恐ろしい策だと思うが?」

「ルルハルトならフェルター軍団も、皇帝軍も全滅させていたと思います。全滅とは軍隊で言う全滅ではありません。本当の意味での全滅です」

 場の空気が凍った。

「どうしてそう思える?」

「机上であれば、僕も同じことが出来るからです」

 軍議に参加した者たちが息をのんだ。

「でも、僕はそこまでひどいことは出来ない。人道や道徳心がそれをさせません。ルルハルトは違う。敵に最も損害を与える策を思いつき、実行出来る。味方を捨て駒にすることを躊躇わない。民間人を殺すことを躊躇わない。だから、僕では勝てません」

「でも…………」

 クラナが口を開く。

「ルルハルトさんは、そんなことをしていては孤独だと思います。勝っている内は味方も付いてくるかもしれませんけど、苦境に立てば、味方から裏切られます。どんな知略を持った方でも、動かせる兵がいなければ、戦えません。リョウさん一人で無理でも、私が、私たちがいます。それでも勝てませんか?」

「それで勝てない、と言ったら、みんなたちに失礼だね」

「私たちには私たちのやり方があります」

「その通り。僕らは助け合える。ルルハルトが鬼道を行くなら、僕らは王道を行く。それに今回は頼もしい味方がいる」

「イムニア将軍ですね」

「そう、イムニアは覇道を行く者だよ。僕らが手を組めば、良い勝負になると思うんだ」

「勝ちましょう。ルルハルトさんに!」

 クラナはリョウを励ます。

 ファイーズ要塞軍は、シャマタル独立同盟軍成立以来初の遠征の準備に取り掛かった。

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