表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
56/184

大陸連合軍

 イムレッヤ帝国帝都、統合作戦本部軍議室。

「皆、内乱が終わり、一息つきたいところだろうが、すまない」

 軍議の初めにイムニアが言う。

 軍議室に招集されたのは、カタインを除く大将軍、エルメック、ミュラハール、フェルター、ガリッター、アンスーバの五名と総参謀長のウルベルであった。

 さらにリユベックが軍議に加わる。

「内乱が呆気なく終わり、物足りないと思っていたところです」

 フェルターが言う。

「閣下、我が軍団に出撃をお命じてくだされ。フェーザ連邦など完膚なきまでに粉砕して見せましょうぞ!」

 フェルターが興奮気味に言う。

「待て、弱体化したとはいえ、フェーザ連邦にも底力というものがあるだろう。甘く見ては手痛い目に遭うのではないか?」

 ガリッターが発言した。

「なんだと!? ガリッター殿は俺が負けると言うのか!」

「そうは言っておらぬ。しかし、勝ったところで多大な損害を出しては意味がないと言っているのだ。閣下、どうでしょう。ここは二個軍団、動かしては?」

 冷静な言葉を使っているが、ガリッターも本質は好戦的な武人である。フェルターと同じく新たな戦場を探していた。

「ホホホ、若者は血気盛んでいいのう」

 エルメックが暢気に言う。

「まさか、エルメック様も出撃なさりたいと言うのですか?」

 ガリッターが少し嫌そうな顔で尋ねる。

 もしエルメックが出ると言えば、それに異を唱えられるのはイムニアとリユベックだけである。

「いいや、ワシは遠慮しておこう。若者と違いワシは此度の遠征だけで疲れた。そちらの二人はどうじゃ? 武功を立てる好機じゃぞ?」

 エルメックはミュラハールとアンスーバへ視線を向ける。

「私は今でさえ、過分な地位を頂いております。閣下の指示に従うつもりです」

「私もミュラハール殿と同意見です。閣下の指示に従いましょう」

 二人は即答した。

「決まりだな。閣下、我が軍団とガリッター殿の軍団に出撃の下知をください」

「フェルター、やる気になっているところを申し訳ないが、出撃は許可できない」

 イムニアは冷静に言った。

「なぜです!? それでは誰がフェーザ連邦迎撃の指揮を執るのですか? …………まさか、閣下自ら?」

「違うな、今回のことはフェーザ連邦などという小物に勝つか負けるかなどという単純なものではない」

「どういうことですか?」

 これにはミュラハール、ガリッター、アンスーバも首を傾げた。

 イムニアから事情を知らされているリユベック、ウルベルは無反応。

 エルメックは経験からか、それとも独自の情報網からなのか、今大陸に起きていることを把握しているようだった。

「すぐに分かる。今はフェーザ連邦の侵攻経路の街や村への退避勧告だけで良い。下手に戦う必要はない」

「なっ!? 逃げるというのですか!」

「逃げる? 違うな。この大戦を勝つためにはそれが最善策だ」

「大戦?」

 フェルターには分からなかった。

「軍議中に失礼します! 一大事です!!」

 真っ青な兵士が軍議室へ入ってきた。

「言って見ろ」

 イムニアは兵士に発言を許可した。

「ベルガン大王国・ローエス神国も挙兵しました!」

「なんだと!?」

 フェルターが声を上げた。

「これは困ったの。三ヶ国の挙兵は偶然ではないじゃろ。最も厄介なのは、ローエス神国の挙兵じゃな。大陸の中央に位置するローエス神国が挙兵し、通行の自由を与えたとなれば、侵攻経路は絞りきれん」

 エルメックはさらに続ける。

「それにじゃ、どうも今回の挙兵はこの三ヶ国だけではない気がするの」

「なっ!? しかし、残るのは…………」

 フェルターは驚く。

 軍議の内容が対フェーザ連邦迎撃から三ヶ国をどこで食い止めるかに移り、半日が過ぎた。

 しかし、この議論が無駄であることを大将軍達はどこかで確信していた。

 イムニアとリユベックは特に具体的な発言をしない。発言は最後の報告が来てからで良いと思っていたからである。

「報告です…………」

 兵士の表情には絶望が滲み出ていた。

 日没間もなく、その報告は届く。

「リテリューン皇国が挙兵しました…………」

「決まりだな」

 イムニアは静かに言った。

「これは連合、しかもイムレッヤ帝国を滅ぼすために結成された『大陸連合軍』だ」

「待ってください!」

 ミュラハールが声を上げた。

「理解できない。我々がなぜ狙われるのですか!? 四ヶ国に同時に攻められるような理由が見当たらない」

「理由ならある」

 イムニアは静かに言う。

「五大国などと言われるが、力の優劣はあった。以前は二強であるイムレッヤ帝国とフェーザ連邦が争っていたが、フェーザ連邦は近年、回復できないほどの打撃を受け、強国から脱落した。ベルガン大王国やリテンリューン皇国も国力では、イムレッヤ帝国に劣る。ローエス神国は前に挙げた四ヶ国に大きく劣る。イムレッヤ帝国に弱い部分があったとすれば、腐敗した貴族制度と傀儡の皇帝だった。しかし、今のイムレッヤ帝国にはそれもなくなった。先が見る者なら、イムレッヤ帝国の一強時代を考えるだろう。今回の連合を作った者は先が見え、さらにそれを阻止するための策を構築、実現する知略に富んだ者だろうな」

 皆同様に驚愕する。

 エルメックですら、鋭い眼光でこれからのことを考えていた。

「イムレッヤ帝国の内乱など前座に過ぎなかった。これより議題は『対大陸連合迎撃作戦』に変更する」

 それは後世で『第一次大陸大戦』と呼ばれることになる大陸の、歴史の、そして多くの人々の大きな分岐点となる戦いの始まりだった。

 その大戦は、大陸全ての国が参加することになる…………


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ