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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
53/184

クシャレージ湿原の戦い②

 クシャレージ湿原に両軍が布陣して二日目。

 迎撃の構えを見せるカタイン軍。

 攻勢の構えを見せるラーズベック軍。

 しかし、先に動いたのはカタイン軍だった。

 カタインは自ら三千の騎兵を率いて、ラーズベック軍に攻め込んだ。

 意表を突かれたラーズベック軍は大いに混乱する。カタインは挑発するように、ラーズベック軍に斬り込んでいく。

「愉快ね。敵は五万もいるのに、私たちだけで相手にして、勝っているわよ」

 カタインは、グリューンに話しかける。

「それは一時的なものでしょう。閣下、そろそろ…………」

「そうね。全騎撤退するわよ!」

 カタインは戦場を引っかき回すだけで、後退する。

「あの女を生きて帰すな!」

 ラーズベック軍の中級指揮官は、実戦経験の無い貴族がほとんどである。

 舐められてたラーズベック軍は怒り狂い、追撃する。

 完全にカタインの掌の上だった。

「まったく、やり甲斐が無いわね」

 ラーズベック軍の先陣が、カタインに追い付きそうになった時だった。

 側面から弓兵が現れる。

「放て!」

 伏兵から放たれた矢で、ラーズベック軍の足は止まる。

「さぁ、反撃よ」

 カタインの言葉で、最初に斬り込んだ三千の騎兵は逃げる振りを止めた。

 三方向から攻められてたラーズベック軍の先陣はあっけなく全滅する。

「全滅だと!?」

 その報告を聞いたラーズベックは顔を真っ赤にして、激高した。

「姑息な策を使いおって! 重装騎兵を出せ。敵の小細工など粉砕しろ!」

 重装騎兵が動いたことは、すぐにカタインも気付く。

「全くあの程度の挑発で、切り札を使ってくれるなんてありがたいわね。全軍、柵の中まで待避。敵の重装騎兵を全滅させるわよ」

 カタインの挑発は、この展開を作るためだった。やられたら、やり返す。そんな単純な思考しか出来ない、とラーズベックを評価した。そして、それは正しかった。

「重装騎兵突撃してきます!」

「愚かね。まだ動かなくて良いわよ」

 カタインは弓、弩を構える兵士たちに静止するように言う。

 カタインには確信があったが、兵士たちは嫌な汗が体から吹き出す。

「生きたいなら、堪えなさい。今動けば、死ぬわよ」

 カタインなりに兵士を鼓舞する。

 カタインが最前線にいる。それが兵士たちに勇気を与えた。

 異変が起きる。勢いよく、突撃してきた重装騎兵の足が止まった。

 馬の足が地面に沈んでいく。

「当然じゃない。この辺りの地面は緩いのよ。そんな重い装備で来たら、どうなるか、分かりきっているじゃない。今よ、放ちなさい!」

 カタインの指示で、矢の雨が重装騎兵を襲う。

「落ち着け! 素人の矢がこの距離で届くものか!」

 部隊長の男が叫んだ。

 それは正しかった。弓矢の訓練は良いところで半分だった。民兵の矢は牽制にしかならなかった。

 しかし、それでも確実に足は止まる。

 カタインにとっては、それで十分だった。

「体制を立て直せ! 騎馬がいなくともこの鎧があれば、素人の矢など…………」

 ドスッと重い音がした。

 部隊長は胸元を見る。

 矢が深々と刺さっていた。

 顔から血の気が引いた。そして、血の塊を吐いて絶命する。

 周りにも矢が刺さり、絶命している兵士がいた。

「また飛んでくるぞ!」

 それは弓よりも早く鋭かった。

「何が起こっているんだ!」

 ラーズベック軍の兵士は大混乱だった。総崩れである。

「連射が出来ないのは難点だけど、威力は十分ね」

 カタインは弩の戦果を見て、満足する。

「捕虜は要らないわ。全て殺しなさい」

 カタインは言い切った。

 容赦ない矢の雨が降り続けた。ラーズベック軍の重装騎兵第一陣は壊滅する。

「なんだと!?」

 それを聞いたラーズベックは怒り狂った。

「第二波の攻撃準備をしろ!」

 ラーズベックは指示すると行動はすぐに実行された。

「敵の第二陣来ます!」

 それを聞いたカタインは、感情に何も響かなかった。

「全員、もう勝ち方は分かったでしょ。後は繰り返しよ」

 それからの戦いは、驚くほど呆気なかった。

 ラーズベック軍は第二波攻撃が失敗すると、第、三・四・五・六波と愚かな攻勢を行った。

 そして、第七波の攻勢が終わった時、ラーズベック軍はボロボロになっていた。

「さて、最後は私たちが決めるわよ。蹂躙しなさい」

 カタインは精鋭一万と共に柵の外に出た。

 すでにラーズベック軍にカタインを止める余力は残っていなかった。

 カタイン軍は逃げるラーズベック軍の兵士の背中を容赦なく刺した。

 それは戦闘では無く、狩りだった。

「勝敗は決しました」

 兵士がラーズベックに報告する。

「なぜだ…………なぜこうなる!?」

 愚か者は最後まで自分の愚かさを理解できない。

「嫌だ…………私は死にたくない…………!」

 ラーズベックは戦場から姿を消した。

 総大将がいなくなり、ラーズベック軍は降伏する。

 ここイムレッヤ帝国内乱最後の武力衝突は終結した。



――――逃走したラーズベックの末路。

 ラーズベックは数名の兵士と共に森の中を彷徨った。

 すでに何日が過ぎたか分からない。

「おおっ!」

 森が開け、目前に村が現れた。

 ラーズベックは自分が酷い姿だと言うことに気付かない。そんなことを考える余裕は無かった。

「私はラーズベックである。大貴族である私に食料を持ってこい!」

 ラーズベックは、農民へ高圧的に言い放った。

 農民たちは集まり、話し合いをする。

「私がこの村の長をやっている者です」

 一人の男が名乗り出た。

「食事の用意を致します。こちらへ」

 村長は、ラーズベックは案内する。

 その際に、他の農民に対して、目で合図をした。

 ラーズベックの一行の案内された部屋に食事が運ばれてきた。

 ラーズベックは何の疑いもせずに、出された物を口に入れた。

 すぐに異変が起きる。

 ラーズベックは青くなり、痙攣した。

「申し訳ありません。ラーズベック様、恩賞、それに納税免除の為に死んでください。すでに聞こえていないと思いますが」


 カタインは、ラーズベックの生死問わず、懸賞金をかけた。

「私の軍を使うよりは楽で良いでしょ」

とカタインは兵士たちに言った。


 ラーズベックは泡を吹き、目からは光を失っていた。

 それを見た兵士たちは、自分の主を捨て、逃げ去った。

 数日後、遺体はカタイン軍に引き渡される。

 カタインはすぐにラーズベック死亡をイムレッヤ帝国中に知らせた。

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