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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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親睦会③

「グリューンさんに料理をしてもらえて助かりました」

「出過ぎたまねをしました」

 グリューンは頭を下げる。

「どうかしら? グリューンの料理は?」

「とてもおいしいです」

 クラナが率直な感想を言った。

「………………」

「ユリアーナ?」

「んっ? えっ? よ、呼んだかしら」

 ユリアーナは上の空だった。

「どうしたんだい? のぼせたかい?」

「え、ええ、そうよ。ちょっと、頭がボーッとするわ!」

 ユリアーナの顔は赤かった。

「ふふ、湯船ではしゃぎ過ぎたのかしらね」

 今のユリアーナの状態を作った元凶(カタイン)は不敵に笑う。

 ユリアーナとカタインは一線を…………越えなかったが、ユリアーナは今までない種類の危機を感じた。

「カタイン将軍はそういう人なんですか?」

 少しだけ思考能力が戻ったユリアーナが尋ねる。そう、少しだけ思考が戻ったに過ぎなかった。大勢がいる場面でする質問ではなかった。

「私はどっちも好きよ」

 ユリアーナはその答えに、自分がどんな状況だったかを認識した。

 虎の前で、兎が踊っているようなものだったかもしれない。

「そういう人? どっちも好き?」

 リョウは首を傾げる。

「ふふ、それはね…………」

「カタイン将軍、イムレッヤ帝国の内乱、今後の展開はどうなるとお思いですか!?」

 ユリアーナが強引すぎる割り込みをした。

 眼で、その話はしないで、とカタインに懇願する。

「しょうがないわね」と言い、カタインはユリアーナの懇願を受け入れた。

「私は勝つと思っているわ。当然よ。当事者である私の意見はあまり当てにならない。私は坊やがどんなことを考えているかが、気になるわ」

 カタインはリョウを見る。

 リョウは水を飲み、深呼吸をした。

「勝つと思います。この展開なら、圧勝するとさえ思います。あなた方の陣営は最小限の消耗で、イムレッヤ帝国を手に入れることが出来る」

「ご機嫌取りではなさそうね」

「もちろんです。ですが、その後が気になります。イムレッヤ帝国内より、他の大国がどう動くかが、気がかりです。もう知っていると思いますが、ベルガン大帝国とリテリューン皇国が今年に入ってから一度も戦闘を行っていません。去年まであれだけ盛んに戦っていた二つの国が、おかしいと思いませんか?」

「標的を私たちに変えたってことかしら? 確かにあの二つの国を一度に相手にするのは、難しいかもしれないわね」

 カタインの口調には、余裕があった。カタイン自身のその可能性は予測していたのである。

「いえ、僕の考える最悪は違います」

 リョウの言葉にカタインも、表情を変える。

「そうならなければいい、とは思いますが、悪い予感というものはどうも当たるもので、出来ればフォデュース候に伝えて欲しいのです」

「内容次第ね。あまりふざけたことなら言わないわよ?」

「判断は任せます。僕の考える最悪はですね…………」

 リョウの話にクラナ、ユリアーナ、グリューンは顔を青くした。

 カタインも一瞬だけ驚いた表情をした。

「もし、そうなれば私たちは終わりじゃない? あなたたちだって盟約を放棄するんじゃないかしら?」

「盟約のことは役人、政治家の領分なので僕らにはどうすることも出来ません。しかし、イムレッヤ帝国を裏切るのは最悪の愚策だと思います。イムレッヤ帝国の後ろ盾がないと今のシャマタルは生き残れませんから。恐らくですが、僕らが動くことになると思います」

「あなたが動けば、勝てるというの? さすがに傲慢じゃないかしら?」

「勝てるとは思いません。僕はそこまで万能じゃありませんから。だけど、フォデュース候なら、何か策を思いつくと思います。あの人に全権あるなら希望はあります。だから、早くに内乱を終結させ、イムレッヤ帝国を再統一して欲しいのです。僕らの安寧のために」

「ずいぶんと都合のいいことを言うわね。だけど、利害関係ほど、信用に足るものもあまりないわ。今の話、フォデュース候の耳に入れておくわよ」

「ありがとうございます」



 次の日、カタインは商談に奔走していた。そして、その結果、可能な限りの弩と『駄鉄の鎧』を買い上げた。即金では払いない。本来なら、金銭のやりとりが先なのだが…………

「いいのですか?」

「構いません」

 レベツーアンは可能な限りの弩と防具を持って帰ることを許可したのである。

 その数は弩が二千、防具一式が千に及んだ。

「今は戦時中、一刻も早く武具が必要であるはずです。こういったものは価値のある時に売らないといけません。それに相手が信用たる人物なら、先に品物を渡した方が後々いいことがあるものです」

「なんだか、政治家ではなく、商人のような言いようですね」

「元商人ですから」

 レベツーアンは微笑んだ。

「なるほど、交渉がうまく進んだわけですね。私は乗せられたと言うことでしょうか?」

「望んだ結果なのですから、いいのではありませんか?」

「全くその通りですね。ご厚意感謝します。武具はありがたく持って行きます。それから私、アンシェ・カタインの名前に誓って必ず金銭はお支払い致します」

 カタインは頭を下げた。



「お別れね」

「はい、またいつか会いましょう」

 クラナとカタインは握手をした。

「坊やの予言なら、結構早くに会えるんじゃないかしら?」

「そんな出会い方は嫌ですけど」

「それからゼピュノーラ姫?」

「は、はい」

「今度あったら続き、しましょうね?」

「続きの話ですね! はい、喜んで!!」

「ユリアーナ、なんで声が裏返っているの? それに顔が赤いよ?」

「何でもないわよ!」

「ふふ、かわいいわね」

 嵐のようなカタインの来訪は終わった。

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