カタインの訪問
シャマタル独立同盟の雪がほとんど溶けた季節。
カールメッツ軍が撤退し、余裕の出来たカタインはシャマタル独立同盟、ファイーズ要塞へ向かった。
ファイーズ要塞では、カタインを迎える準備が行われていた。
ファイーズ要塞、統合作戦本部司令官室。
「カタインさん、ってどんな人なんだい?」
リョウはファイーズ要塞にいる顔ぶれの中で、唯一カタインと接点を持つユリアーナに聞く。
「私は戦場でしか会ったことが無いから、それしか分からないわよ」
「構わない」とリョウが言う。
「なんて言うか、自由、な感じがしたわ。生き方も、思考も」
「女で、将軍になるくらい何だから、相当の力量があるんだろうなぁ。それに何で、軍人になったのかも気になるよ。カタインさんほどの容姿があれば、他にいくらでも道はあったと思うんだ」
「んっ? なんであんたがカタイン将軍の顔を知っているの?」
「別に見たわけじゃ無いよ。ローランさんが言ってたんだ。町中で会ったら、絶対に声をかけていたって」
「ふぅ~~ん、やっぱり帰ったら、去勢しようかしら、あいつ」
ユリアーナの瞳から光が消えた。
「出会った中で三番目くらいに美しい女性だと言っていたな。あっ、ちなみに一番は君だ、って言ってたよ」
リョウはこのまま、ローランの元へユリアーナが帰り、何かあったら、目覚めが悪いと思った。だから、ローラン自身が本当に言っていた言葉を使って、少しだけローランを庇った。
「ふ、ふぅ~~ん、そんなこと言ったって、私は容赦しないわよ。もし、帰った時に女の気が会ったら、酷いことしてやるんだから」
ユリアーナは、少しだけ顔を赤くした。
「けど、気になるわ、カタイン将軍が三番で、私がそ、その、あれだったら、二番目って誰かしら? もしかして、クラナ様?」
「たぶん、私じゃ無いと思います。ローランさんから見たら、私って年下過ぎますし、どこまでいっても子供、って印象なんじゃ無いでしょうか?」
「確かにクラナじゃ無いかな。僕も気になって、ローランさんに聞いたんだ。そしたら、知らない名前の女性だったよ。もう、思い出せないけど、クラナの名前は出てこなかったな」
「ふぅ~~ん、帰ったら、ちょっと聞いてみようかしら?」
再び、ユリアーナの瞳から光が消えた。
「あんまり拘束してばかりだと、男は嫌になるよ。少しぐらい自由に泳がせるくらいがいいと思うんだ」
「男のあんたが言っても、同性を庇っているようにしか聞こえないわよ」
いつしか、話は脱線し、談話になっていた。しばらくそれが続いた。
ドアをノックする音がした。
「入ります」
現れたのは、アーサーンだった
「カタイン将軍一行が到着しました。門をくぐり、こちらへ向かっております」
その報告を聞き、三人は談笑をやめた。
「さて、行こうか」
リョウたちは立ち上がった。
「カタインさんはどんな格好で来るかな?」
「軍服じゃないかしら? まさか、鎧を着て来ないとは思うけど」
馬車が到着するまでのわずかな間で、リョウとクラナはそんなことを話していた。
リョウも珍しく正装していた。
着る際にリョウは散々、愚痴を言っていた。
「本当に着にくいな。今すぐにでも脱ぎたいよ」
「我慢しなさい。それにしても、似合わないわね」
ユリアーナは笑った。
「そ、そんなこと無いですよ。素敵ですよ、リョウさん」
「ありがとう、クラナ。でもね、そういう台詞は笑いを堪えながら、言わないでくれるかな?」
馬車が統合作戦本部前に止まった。
周囲に緊張が走る。
扉が開き、人が出てきた。
「ごきげんよう」
出てきたのは、鮮やかなドレスを来た女性だった。
「イムレッヤ帝国軍、フォデュース様の使いで参りました。アンシェ・カタインと申します。よろしくお願いします」
カタインの一動作ごとに、女性らしさが滲み出てた。
場に居た者のほとんどが目を奪われる美しさだった。
「忙しい中、足を運んで頂き、ありがとうございます。ファイーズ要塞司令官のクラナ・ネジエニグと申します」
そんな中、クラナは動くことが出来た。それが彼女の進歩である。
クラナは握手を求めた。
カタインは、それに応じ、少しだけ笑った。
「緊張なさってますね」
「分かりますか? こういうことはあまり得意でないのです」
「人間、誰にでも得意と不得意はあります」
クラナは何も言わず、苦笑した。
「旅の疲れもあるでしょう、どうぞ中に」
クラナに誘われて、カタインは統合作戦本部の中に入っていった。
ユリアーナは呆然としていた。
「今のどちら様?」
ユリアーナは小声で、リョウに尋ねる。
「どちら様も何も、あの人がカタイン将軍じゃ無いの?」
「いやいやいや、あんな、女性らしい人知らないわよ。戦場であったカタイン将軍は、もっとこう…………」
「勇ましかった、と言いたいのですか?」
その声に、リョウとユリアーナは振り返った。
「カタイン様の副官をしているグリューンと申します」
「クラナの副官をしているリョウです」
「私は一度、会いましたね。ユリアーナ・ゼピュノーラです。今はフェーザ連邦方面司令官のローラン・オビリティのところにいます」
「ゼピュノーラ殿の戦いぶりは敵ながら、賞賛したくなりました」
「無様な姿じゃ無かったですか?」
ユリアーナは苦笑する。
「そんなことはありません。カタイン様に真っ向から挑み、傷を負わせた者を久しぶりに見ました。それからリョウ殿、少し疑問があるのですが」
「何ですか?」
「ネジエニグ司令官は上官なのですよね。呼び方があまりに親しげではないですか?」
「僕らは夫婦でもありますから。それに今更、言い方を直すのもちょっと違和感がありますし」
「そうでしたか」
「僕らも中に入りましょう」