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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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亀裂

 春が一歩手前まで迫った季節。

 この時期、イムレッヤ帝国の内乱は三つの局面を迎えていた。

 北部戦線。カタインとカールメッツの戦いは、カールメッツ優勢で進んでいた。北部は徐々に侵攻を受けていた。

 しかし、これはカタインの計画通りであった。戦力を温存した状態で、戦線を保ち、来るべき時に備えていた。

 西部戦線、イムニアはレンベーク平原会戦に勝利の後、小規模な戦闘に勝利し続けた。これにより、西部における対イムニア勢力は消滅する。それと同時に、食糧問題も解決する。

「ふん、貴族が食料より、宝石や芸術品を大切にする馬鹿共で助かった」

 イムニアは退屈そうだった。

「貴族にとって、装飾品や芸術品は自分を飾る重要なものですから」

 ウルベルが言う。

「戦いを知らない者の相手は楽だが、つまらないな。戦場で食料がどれほど重要かも考えないとは」

 貴族が残していった食料を徴収した。

「七割は民衆に戻せ」

 イムニアが指示した。

「宜しいのですか?」

「構わん。それに私たちが貴族共と違う、というところを見せておく必要がある。前面で門閥貴族と戦い、後背で民衆反乱の鎮圧、などという状況にはしたくないからな。それから各兵士に『民衆に危害を加えてはならない』と厳命せよ。破った者は死罪に処す」

 イムニアは、民衆に対して必要以上に気配りをした。もし彼らが敵になれば、途端に窮地に陥るからである。そして、国の基盤である民衆を無下にすることは愚策だと、理解していたからである。

「国あっての民衆ではない。民衆あっての国なのだ。それが分からなければ、いつか痛い目を見る。それは今回の門閥貴族だろうな」

 事実、イムニアが占領した地域で反乱は起きていなかった。イムニアのことを歓迎する地域すらあった。

 カタインが北部で、イムニアが西部で戦っている中、リユベックはどちらの戦闘にも参加せず、イムレッヤ帝国南部を目指して進軍していた。イムレッヤ帝国の南部の大部分は、門閥貴族連合の副盟主、ヒデスハームの領地であった。この時期、ヒデスハームは麾下の私兵を率いて、帝都に駐留していた。その留守を狙う形で、リユベック軍はイムレッヤ帝国の南部に攻め込んだのである。

「ジーラーめ、私の領地に攻め込むとは何事だ!」

 リユベックの南部侵攻を知ったヒデスハームは当然激怒した。

「ヒデスハーム候の怒りはごもっともだ」

 ラーズベックは言った。

「どうだろう。ヒデスハーム候、麾下の兵力を率いて、イムレッヤ帝国南部へ戻り、湿地の回復を行っては?」

 ラーズベックの発言は、カールメッツに約束した『軍事面での権限は一任する』するというものを反故にしていた。

 しかし、大貴族であるラーズベックの言葉に異を唱えるものはいなかった。

 ラーズベックがこのような提案をしたのは、ヒデスハームが邪魔だったからである。

 結局、自尊心の塊のような大貴族の二人が長い間、手を結ぶことが出来なかった。

「分かった。私はジーラーを討つために討伐の指揮を執ろう」

 ヒデスハームには、彼なりの思惑があった。成り行きで、副盟主になったが、それはこの内乱が終わった後、ラーズベックの下に付いたという事実になってしまう。それは耐えがたい苦痛だった。内乱終了後、ラーズベックより多くの武勲を誇れるようにしておきたかった。

 数日後、ヒデスハームは五万の兵力を率いて、ジーラー討伐のために出立した。

「宜しいのですか、ヒデスハーム候に武勲を立てる機会を与えて?」

 ラーズベック公に従う貴族の一人が尋ねる。

「構わん。相手はあのエルメックだ。簡単には勝てず、戦線は硬直するだろう。北部戦線はこちらが優勢だ。いずれは北部を制したカールメッツがイムニアを打倒する。その時、この帝都を守っていたのが、我らという事実があれば、後の主導権は私にある。ヒデスハームがいないうちに帝都での地盤を盤石にしなくてはな!」

 ラーズベックは醜悪な笑みを浮かべた。

 しかし、ラーズベックは大きな思い違いをしていた。

 南部に侵攻したイムニア陣営の中で最も警戒しなければいけなかったのは、次期皇帝を名乗る『リユベック・ジーラー』の存在だった。 

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