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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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時間稼ぎ

 イムレッヤ帝国北部、ガイワーシ要塞。

 ガイワーシ要塞はイムレッヤ帝国北部最大の軍事拠点である。

 イムニアが決起した際にガイワーシ要塞を電撃戦で奪取した。

 今ここを守るのは、カタインである。

「ゼピュノーラのお嬢ちゃんに会えると思ったのに残念ね。グリューン、敵の総兵力は?」

「八万超という報告がありました」

 副官のグリューンが報告した。

「こちらは正規軍が一万、そして三万の民衆軍。これで勝ったら、私の名前は歴史に残るかしら? それとも私たちは最も厄介な敵を引きつけるための捨て駒かしらね?」

「カタイン様、滅多なことを言わないでください!」

「ふふ、冗談よ。グリューン、今の戦況を見て、何か思わないかしら?」

「私はカタイン様のような広い視野を持っていないので分かりません」

「なぜ、フォデュース様が私をここに残したか理解したわ。後で、つまらないと言ったことを謝らないといけないわね」

 カタインは不敵に笑う。いつもの笑い方だった。

「では、フォデュース様はこの状況になると分かっていて、カタイン様をここに残したというのですか?」

「そういうことね。グリューン、私たちは遅滞戦術を徹底するわよ。シャマロ平原、タエンカ湿原、ルタール平原…………」

 カタインはいくつかの地域を口にしていく。どれも守りやすい地形の場所だった。

「それらの地域でカールメッツ軍を迎撃するわよ。だたし、それは決戦では無いわ。小競り合いを起こして、後退する。それを繰り返すのよ。各砦にも伝えなさい。全滅する前に逃げるようにと」

「去年の戦いでシャマタルがやったことをするのですか?」

「と思うじゃない? それだけあの戦争、シャマタルの戦略は印象に残っているわ。だから、カールメッツは無理な進撃は控える。時間を稼げるわ」

「ということは、カタイン様の構想は敵を奥深くまで誘い込んでの、反転攻勢ではないのですね?」

「カールメッツは一流の指揮官よ。それを警戒しているはず。兵力では倍以上の差があるわ。普通は勝てないわね」

「では、どのように勝つのですか?」

「勝つ必要は無いのよ。あえて言うならば、門閥貴族の愚者共が私たちを勝たせてくれるわ」

 カタインはまた不敵に笑う。



 イムレッヤ西部、イムニア軍本隊。

「閣下はなぜ、カタイン将軍になんの策も授けなかったのですか?」

 ウルベルが尋ねる。

 現在、イムニア軍は次の戦場へ移動するための準備をしていた。

 イムニアの次の戦場は、イムレッヤ帝国北部ではない。

「カタイン、あいつはエルメックを除けば、戦略眼・戦術眼・実戦指揮の能力の均衡が最も取れているからな。一軍の大将の器を持っている。それにだ」

 イムニアは笑う。

「あいつは戦場での思考が、私と似ている。だから、私からわざわざ言わなくても、私に連動して動けるのだ」

 イムニアの麾下の中でエルメックの次に、単独で指揮をすることが多いのはカタインだった。

「将来的にはあいつと私、エルメックの三人で方面軍を動かしたいものだ」

「なるほど、確かにカタイン将軍の才覚は紛れもないものでしょう。ですが、あまり大きな権限を与えるべきでは無いと思います」

 イムニアの綺麗な顔がピクリと痙攣した。

「ほう、作戦参謀長であるお前が、人事に対しても口を出すか?」

 イムニアは不機嫌を隠さなかった。

「出過ぎたことを申し上げました」

 ウルベルは頭を下げた。

 しかし、謝罪の気持ちは感じられなかった。ウルベルの表情に変化は無く、陰湿だった。瞳は氷のように冷たい。

「ウルベル、今は人事の話をしている場合ではない。明日には出立できるだろうな?」

「問題ありません。私はこれで失礼します」

 ウルベルは冷気のような声質で告げる。

 イムニアはウルベルが退室した後、大きく息を吐いた。

「なんとも掴めん奴だ」

 イムニアは、ウルベルに対して好意を抱いてはいなかった。

 しかし、手放すには惜しい人材である。だから、イムニアは癖のあるこの参謀を手元に置くことにした。他に配属しては、不協和音を作りかねない。特に根っからの軍人であるフェルターやガリッターとは、衝突する可能性が高い。

 

 

 ウルベルは一人で歩き、イムニアに対して言わずにいた言葉を呟いた。

「猛獣が目の前の肉を食い尽くした後、どうしますかな?」

 ウルベルはカタインの中にある奔放さを危惧していた。

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