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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
34/184

カールメックの苦悩

 シャマタル独立同盟、ファイーズ要塞。

「以上がレンベーク平原会戦の詳細でございます」

 兵士の報告が終わると、軍議場は沈黙した。

「これでイムニアはイムレッヤ帝国の北部と西部を手中に収めることが出来るね」

 リョウが言う。

「リョウ殿はこの後、どのように戦局が変化すると思う?」

 フィラックが尋ねる。

「あくまで個人的意見ですけど、イムニアは南下すると思います」

「南下? 今なら西と北から門閥貴族を叩けるのにか?」

「理由は二つあります。一つ目の理由は、イムニアは自分の元に馳せ参じる兵力がいると考えているからです。今回の大勝で、どっちつかずだった者や貴族に不満を持つ者が、イムニアを頼ってくるでしょう。それらの兵力を統合してから、改めて帝都を目指す方が有利だと考えるはずです。そして、もう一つは数を増す自軍の兵糧を確保するために、豊かな農業地帯を多く持つ南部の制圧が必要だからです。今は勝っていますが、イムニア軍の兵糧は決して十分とは言えないでしょう。帝国の北部は痩せた土地が多いですから」

「なるほど。では、門閥貴族の方はどう動く?」

「一番、単純な動きは帝国の西部奪還のために大軍を差し向けることでしょうが、視野の広い戦略家がいれば、北部を攻めると思います」

「北部?」

「今、イムニア陣営の主力は西部に遠征中です。北部を守るのはカタイン将軍の兵力だけですから。もしここに大軍を差し向ければ、いくらカタイン将軍でも劣勢に立たされるでしょう。そして、イムニア陣営にとって、イムレッヤ帝国の北部は本拠地です。取られるわけにはいかず、遠征軍は引き返すしかないでしょう。戦いの主導権は門閥貴族が握り、結局西部を奪還できる。イムニア陣営は北部に閉じ込められる形になります」

 実はこの時、リョウが言った「北部に大軍を派遣する」という策をカールメッツ元帥はすでに行っていた。



 レンベーク平原会戦の大敗を聞いた門閥貴族陣営は、動揺した。屈辱や挫折というものを知らない貴族にとって、この大敗は許せなかった。

「デンレッサーの無能者め!」

 ラーズベックは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「すぐに西部方面に大軍を派遣しろ! 失地を回復するのだ!」

 ラーズベックの言葉に多くの者たちは賛同した。戦場に出たことの無い者にとって、敗戦は屈辱だった。恐怖というものを感じることが出来なかった。

 士気の高まる貴族の中で、総司令官カールメックは冷静だった。

「お待ち下さい」

 カールメックは静かに、そして、良く通る声で言った。

「なんだ、カールメック元帥?」

「フォデュース将軍の主力が集まる西部に大軍を送るのは得策ではありません」

「負けると申すか?」 

 ラーズベックは不快そうに言った。

「そうではありません。それではフォデュース将軍に主導権を握られたままです。フォデュース将軍の動きに合わせて、こちらが動くことになってしまいます。こちらが主導権を握るためには、彼らの本拠地である北部を攻めるべきです。その場合、フォデュース将軍は北部を守るために一度、軍を反転するしかありません。もしそうなれば、フォデュースは攻勢から守勢に回ったことになります。兵力で劣るフォデュース陣営は攻勢を続けてこそ、有利に立てているのです。その勢いを失えば、忽ち劣勢に陥るでしょう」

 主導権を握る、ラーズベックにとってその言葉は魅力的だった。

 そして、軍事の専門家であるカールメック元帥の策である。

 聞く価値はありそうだ、とラーズベックは結論付け、

「では、元帥の策を是としよう」

「ありがとうございます」

とカールメックは頭を下げた。

「あのように調子の良い言葉、元帥らしくありません」

 ラーズベックの前から退室した後、副官のヨトアムが言った。

「ヨトアム、ああでも言わないと貴族というものは、気分を良くしないのだ」

「敵と戦うことと味方の機嫌を取ること、どちらが大変ですか?」

「決まっている。味方の機嫌を取ることだ」

「同感です」

 ヨトアムは苦笑した。

 三日後、カールメックは五万の大軍と共に、イムレッヤ帝国北部へ向けて出発した。

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