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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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再建計画

 次の日、三人は揃って家を出た。

「頭が痛いわ………………久しぶりのお酒は効くわね」

 ユリアーナは辛そうだった。

「家で休んでれば? 君が必要なのはまだ先じゃない?」

「そうよ。でも、今の状況を知っておきたいの。当分はこっちにいるから、あんたたちの力になるわよ」

「それは心強いね。でも、帰ったら、ローランさんが別の女と一緒に居たりして」

「そしたら、本当にぶっ殺す。…………いいえ、殺さずにあいつのアレを切って、豚の餌にしてやる」

「うわーー、本気の殺意だ」

 リョウは苦笑いだった。

 統合作戦本部に到着した時、出迎えたのは二人だった。

「おはようございます。あなたはこの方が良いでしょう」

 アーサーンが言った。

「はい、あんまり出迎えが多いのは好きではありません。でも、どうしてフィラックまで?」

 もう一人はフィラックだった。

「実は昨日、お二人でここへ来た際に私の方から声をかけておいたのです。今日する話には、フィラック様も同席して頂いた方がいいと思いまして」

「何が出来るでもありませんが」

 フィラックは答えた。

「ありがとうございます」

 クラナは感謝する。

「ゼピュノーラ殿も元気そうだな。大怪我を負ったと聞いていたが、もう大丈夫なのか?」

「まだ七割といったところかしらね。まだ、剣を振るのに違和感があるわ。時間がある時に付き合ってくれるかしら?」

 ユリアーナは腰に差した剣をトントンと叩いた。

「ゼピュノーラ殿の相手が務まるか分かりませんが」

 アーサーンは苦笑した。

「アーサーンさん、あんまりゆっくりしている時間は無いんじゃないの? 昨日、ユリアーナから少しだけ聞いたんだけど、事態が結構動いているみたいだね」

「はい、早速、軍議の用意も出来ております」

「えっ!? 私はなんの準備もしていません」

 クラナは焦った。

「君は座って、報告を聞いていれば大丈夫だよ。お飾りは得意でしょ? あっ、だけど、流石に寝ないでくれるかな。みんなに示しが付かないから」

「寝たりしませんよ!」

 クラナ以外の全員が笑った。



「先日、首都にイムニアから書状が届いた。同盟を結びたいとのことだ」

 アーサーンが報告するとリョウたち以外の士官はざわめいた。

 リョウはこの状況を読んでいた。望んでいた。

 イムニアは門閥貴族連合と戦うにあたり、後顧の憂いを断っておきたい。

 シャマタル独立同盟は、今やイムレッヤ帝国北部の覇者となったイムニアと敵対するのは得策では無いと考える。シャマタル独立同盟は戦争に勝ったが、その被害は甚大だった。新たに得た物は何も無かった。

 シャマタルに存在していた十個連隊は壊滅し、土地は荒れた。

 ファイーズ要塞も、対イムレッヤ帝国の最重要拠点だというのに、僅か一千の兵が駐留するだけになっていた。これはシャマタル独立同盟がイムニアに大敗する前の、二十分の一の数である。

「この同盟自体は役人の領分で、私たちは従うだけだ。我々がしなくてはいけないのは、軍事面の補強である」

 アーサーンが言った。

「これ以上、ファイーズ要塞を手薄には出来ない。兵を登用し、戦争以前の戦力にまで戻すことが急務だと考える。異論はあるか?」

 全員が沈黙する中で、リョウだけが手を上げた。

「今は兵を増やす時では無いと思います」

 リョウの意見に誰かが口を開くことは無かった。

 全員がリョウの発言を待つ。

「理由は三つあります。一つは現在の財政状況で無理な兵の補強をすれば、ファイーズ要塞の民衆に負担を強いることになるでしょう。戦争の傷跡が残る状況で、そんなことをすれば、ファイーズ要塞自体が内部から破綻します。第二に無理に補強し、戦力が戦争以前に戻ったとして、それはファイーズ要塞だけのことであって、シャマタル独立同盟全体の戦力は壊滅的に下がっています。この前の戦争のようにファイーズ要塞の存在理由を無効化されれば、補強など無駄に終わるでしょう。第三にこの時期に兵を集めれば、イムニアに余計な誤解をさせてしまうかもしれません。イムニアとの友好関係が今のシャマタルの生命線です。それには細心の注意を持つべきです」

「では、リョウ殿はどうするべきだと考える?」

 アーサーンが尋ねた。

「要塞の修繕と補強に力を入れるべきだと思います」

「なぜ?」

「イムニアに示しておくのです。自分たちは攻め込む気が無い、と。要塞の補強に力を入れているうちは、大きな軍事行動を取れません。まさか、要塞ごと移動させるわけにはいきませんから。それに要塞の補強と修復には人手が必要です。今、街には戦争で大黒柱を失い、貧困に苦しむ人々が多く存在します。本当は無償でそういう人たちの生活を保障できれば良いのですが、今のシャマタルにそんな余裕はありません。だから、女性でも、子供でも雇うという形を取って、仕事を与えるべきだと思います」

「だが、リョウ殿、雇って払う金はどうする? 今のファイーズ要塞にそんな金銭は無いぞ」

「それに関しては当てになるものがあります。明日から、ファイーズ要塞付近の山を調べたいのですが、良いですか?」

「金や銀でも探すつもりか? 残念だが、そういったものは出てこないぞ」

「違いますよ。でも、当てが外れた時が怖いので、今は発言を控えておきます。で、もし金銭の当てが出来たら、僕の、ファイーズ要塞の補強事業で貧困層を救う、という提案に乗ってくれますか?」

 アーサーンは少しだけ沈黙し、

「フィラック殿はどう思いますか?」

とフィラックに話を振った。

「私は経済の専門家ではありません。ですが、民衆を蔑ろにすべきではないでしょう。私はリョウ殿の提案に賛成です」

 フィラックがリョウの意見を肯定したことで、他に意見が出ることは無かった。

「なら、『当て』というものがどうにかなれば、リョウ殿の言った方向でファイーズ要塞の再建を進める、ということでよろしいですか、司令官?」

「はい、良いと思います」

 軍議中のクラナの発言はこれだけだった。

 話がまとまり、軍議も一段落した時だった。

「き、緊急報告です!」

 冬だというのに、汗を流した兵士が軍議の場に入ってきた。

「見苦しい姿ですが、お許し下さい…………」

「大丈夫ですか? 誰かこの人に水を」

 クラナの指示で、水が用意された。

 兵士は水を飲み、少しだけ落ち着く。

「何があったか、話してみろ」

 アーサーンが言う。

「はい、先日、イムレッヤ帝国内でイムニア陣営と門閥貴族陣営の大規模な軍事的衝突があったそうです!」

 軍議場が大きくざわめいた。

「ついに始まったか」とリョウは呟く。

「経緯、内容、結果の詳細を聞いても良いですか?」

 クラナは、リョウの顔を見た。戦争中、何度も見た表情をしていた。

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