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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
30/184

フィラックとフィーラ、時々ルパ

 リョウとクラナが関係を修復した同日の夜、フィラックの家にて。

「なんだか、家が広く感じますね」

 フィーラが言う。

「二人いなくなったんだ、無理もない」

 フィラックは杯の酒を飲み干して、また注ぐ。

「今日は酒が進みますね」

「昔のかなり情けない話をクラナ様にしたからな。早く忘れたい」

 フィラックは楽しそうに言う。

「そういうことは忘れられないものですよ。私ももう一杯もらいます」

「なんだ、お前も今日は飲むな」

「はい、昔のかなり愉快な話をしたので、気持ちが良いのです」

 フィーラの白い肌がかすかに赤くなっていた。

「愉快か、受け取り方が違うものだな」

 フィラックは苦笑した。

「あら、私が何を話したか、分かるのですか?」

「これでも十年以上、夫婦をやっている」

「それはうれしいですね。二十五年以上一緒にいた甲斐がありました。まぁ、あなたが帰ってきた私にやったことを説明した時、リョウさんは驚いていましたけど」

「……………………!」

 フィラックは手にしていた杯を落としそうになった。

「お前…………それは誰にも言うなと言ったはずだぞ!?」

 フィラックは怒鳴った。

 リョウたちの前では、絶対に上げないような大声である。

「あら、でも、仲直りの方法を提示する必要があるじゃないですか。私は善処したんですよ」

 フィーラは特に悪いとも思っていなかった。

「まったく、お前の行動はいつも心臓に悪い。そうだ、言う機会が無かったから、今、言うがな、クラナ様を荷物の中に隠れさせるなんてとんでもないことをよくしたもんだな」

「私自身の経験です」

「お前とクラナ様は違うんだ」

「それってどういう意味ですか?」

「さぁな」

「わ~~、出た出た。あなたって、いつも物事をはっきりさせないですね。どうせ、クラナ様にだって、最後は『分かりません』とか言ったんでしょ?」

「そ、それは…………」

「やっぱり、やっぱりそうなんですね! おかげで私は十三年も待つことになりましたよ」

「それは最初、子供の言葉だと思っていたからだ」

「最初はそうだとしても、十五を超えれば、普通は本気だと気が付くでしょうに」

「うるさい、お前の子供時代を知っていたんだ。急に女に見れん」

「うわーー、酷い、酷すぎる。ルパもそう思うでしょ!?」

 二人のやりとりをルパは黙って見ていた。

「はいはい、父さんも母さんも本当に仲が良いですね」

 恐らく、現在の空間で一番、冷静で大人な反応が出来るのはルパであった。

「うわー、可愛くない反応! もっと愛嬌はないの?」

「私にそれを求めないで下さい」

「いいです、いいです! 子供をもう一人、作ればいいんです!」

「お前は、そんな冗談を…………」

「冗談じゃないですよ」

 フィラックは受け流そうとしたが、フィーラはそれを許さなかった。

 視線をフィラックに合わせ、声は落ち着いていた。

 場の空気が変わる。

「危険だということは、分かっています。ルパのことだって本当の子供だと思っています。血の繋がりなんて関係ありません。それでも一度は子を産んでみたいと思ってしまうのです。そして、たぶん一度、子供を産めば、また産みたいと思ってしまう。ねぇ、あなた、私と子供を作ってはくれませんか?」

「私は…………俺は…………」

 フィラックは回答に困った。

「冗談でーす!」

 フィーラはケラケラと笑った。

「あなたを少し困らせてやろうと思いました!」

「……………………」

「そんな怒らないで下さいよ」

 フィーラはわざとらしく笑った。

「母さん、流石に飲み過ぎです。今日はもう横になって下さい」

 ルパは二人の間に割って入った。

「そうする~~、ルパ、肩を貸して」

 ルパは言われたとおり、ルパに肩を貸して、ベッドまで誘導した。

「ありがと~~」

「まったく、母さんは…………」

 フィーラをベッドに寝かせると、ルパは部屋から出ようとした。

「ねぇ、ルパ」

 その間際、フィーラは極めて真面目な声で話しかける。

「私が自分の命の全てを賭けて、子供を産みたいって言ったら、どうする?」

「私が自分の知識の全てをかけて、母子無事に全てを終わらせてみせます。母さんであろうと、クラナ様であろうと」

「そう、ありがと。あの人に悪いことをしたわ。なんとかしておいてくれる?」

「分かりました」

 ルパは部屋を出た。

 フィラックの元へ戻る。

「私も一杯だけもらって良いですか?」

 ルパはフィーラの使っていた杯を手に取った。

「ああ」

 フィラックは杯に酒を注ぐ。

「ありがとうございます」

 ルパは自分の口元にそれを運んだ。

「…………ねぇ、父さん」

 一口の酒で、ルパは顔を紅潮させる。

「なんだ?」

「母さんは意地悪であんなことを言ったんじゃないよ」

「そんなことは分かっている。お前はどうすれば良いと思う?」

「こればかりは分からない。母さんのことも大切だけど、母さんの願いも大事。私だって、妹や弟が見てみたい。だからね…………正解なんて無いんだよ、きっと、選んだ選択を信じるしか無いんだよ」

「お前にそんなことを言われるとはな」

「自分の選択を信じる、それをやっているから、私はここにいられるんだよ。大丈夫、どんな選択をしても私は二人の味方だよ。それだけ保証する」

「お前は時に、俺よりも達者だな。まぁ、相変わらず、酒には弱いが」

「そんなことないよ。なんでそんなことを言うの?」

「気付いてないのか? お前、しゃべり方が素に戻っているぞ」

「あっ…………」

 フィラックは笑った。

 ルパはブンブンと頭を振ったが、それが悪かった。酔いはさらに加速し、すぐに寝てしまった。

「まったく、こんなところで寝たら、風邪を引くぞ」

 フィラックは、ルパを抱きかかえ、部屋まで運んだ。

「随分、重くなったな。……………………当然か」

 娘の成長が嬉しいような気も、寂しいような気もするフィラックだった。

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