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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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休暇の終わり

 リョウたちは雰囲気の良さそうな酒場に入った。

 とはいっても、酒を飲んでいるのはユリアーナだけである。

 リョウは最初の一杯を頼んで以降は、酒を注文していない。

 クラナは病み上がりと言うことで、酒を飲んでいなかった。

「まったくつれないわね」

 三杯目の酒を飲み干し、追加を頼む。

「その割にはおいしそうに飲むね」

「当たり前よ! ここまでの道中大変だったんだから。雪は降るし、寒いし、一面真っ白な世界で橇が壊れた時なんか、死ぬかと思ったわ」

「前から思っていたけど、君って不死じゃないかな? 戦争の時もそうだったけど」

「人を化け物みたいに言って。……………それよりも一つ良いかしら?」

 リョウはユリアーナの声の高さから、怒られると感じた。

「クラナ様」

 しかし、標的はリョウでは無く、クラナだった。

「二人の家に来る前に市場に寄りました。そこでクラナ様が市場で囲まれた話を聞いたわ。気になって、その場に居たって言う人から詳しい話も聞きました」

「市場で騒ぎを起こしてしまったことはお店の人たちにも申し訳ないと思っています」

 クラナは、ユリアーナが怒っているのが、騒ぎを起こしたことだと思った。

 それは違っていた。

「私はクラナ様が、その子供の代わりにお金を払おうとしたことに怒っているんです」

「えっ!?」

「盗みをした人間は環境が変わらない限り、また繰り返します。あの場でクラナ様が取るべき行動は、子供に自分が悪いことをしていると自覚させることです。そうしないとその子供は、いつか取り返しのつかない犯罪を起こすかもしれません」

「でも、あの子は父親が戦争で亡くなった、と言っていました。それは私の責任で…………」

「クラナ様、少し厳しい言葉を使います。自惚れないでください。クラナ様にあの戦争の咎を全て背負う能力はありません」

「ユリアーナさん…………」

「最も前向きな方法でその子に報いる方法を考えましょう。戦争のせいで大黒柱を失って、生活が苦しくなっている人たちは他にもたくさん居ます。死んだ人は元に戻りません。でも、今を生きる人を救うことは出来るはずです。盗みなんてしなくても生きていける生活を保証する。簡単ではないけど、やらなくちゃいけないと思います。私やリョウ、フィラックさんやアーサーンたちだって協力してくれるはずです」

「はい…………」

「と、まぁ、ここまでは酔っ払いの戯言だと思ってください」

 ユリアーナは笑った。

 最後は冗談っぽく言ったが、ユリアーナの言葉をクラナは忘れないことにした。

 その後は特に内容のある話は無かった。三人で、楽しい無駄話をして笑った。

「あつーい! 冬なのにあつーい!」

 酒場を出たユリアーナは完全に酔っ払いだった。

「あまり大声を出すとまずいよ」

「アハハ、大丈夫大丈夫!」

 そんな状態のユリアーナに肩を貸して、三人はどうにか、家に着いた。

「おやすみなさーい!」

 ユリアーナには、リョウの部屋のベッドを使わせることにした。

「さて、僕は居間で寝ようかな?」

「あ、あの、リョウさん!」

 クラナは切羽詰まった声で言った。

 顔は赤かった。

「居間じゃ、寝にくいと思います。私の部屋に来ませんか?」

「君の部屋?」

「大丈夫です。何もしませんから! 一緒に寝るだけですから!」

「必死になれば、なるほど疑いが増すけど?」

「駄目ですか?」

 クラナは悲しそうな表情になった。

「その顔は卑怯だね。断れないじゃ無いか」

「ありがとうございます」

 クラナはリョウの手を引いて、自分の部屋に入った。

「狭くないかい?」

「狭いです。でも幸せです。こうやってリョウさんと一緒に寝るのも久しぶりな気がします」

「そうだね」

 ベッドは二人で寝るには狭い。二人の体は密着するしか無かった。

「リョウさん、手をつないでも良いですか?」

「いいよ」

 手を繋ぎ、お互いの体温を確認する。

「リョウさん…………」

「これ以上は駄目だよ」

「分かっています」

 クラナは笑った。

「明日から再出発です」

「そうだね。ユリアーナの話でイムレッヤ帝国が思ったより早く動いていることが分かった。これから忙しくなるよ」

「頑張ります」

「お互いにね」

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