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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
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フィーラの助言

「フィーラさん、自慢じゃないですけど、僕じゃ大した荷物持ちになりませんよ」

 リョウはクラナが病気の間、フィラックにお願いして、ずっとフィッラクの家にいた。クラナのことが心配だった。

 しかし、ここ三日間は一切会話がない。

 今日の朝、リョウはフィーラに起こされた。いつもより早い時間だった。

 リョウは早い朝食を取り、フィーラと二人で家を出た。

「知っていますよ~~。別に買う物はありませんから」

「えっ?」

「いえね、若い子と話がしたくなっちゃたんですよ。あの人は、いつも言葉が少なくて、会話が淡泊ですから。たまには刺激が欲しいんですよ。これって、浮気ですかね?」

 フィーラは悪戯っぽい笑いを浮かべた。

 リョウはなぜ早くに家から連れ出されたか、理解した。

「すいません。フィーラさんの家に居座ったあげく、空気を悪くしてしまって」

「そんなことないですよ。懐かしいものを見れて、若返った気分です」

「フィーラさんは十分若いじゃありませんか」

「お世辞でもそういうことを言って貰えるとうれしいですね。本当に浮気しちゃおうかしら」

「僕に浮気する度胸と器用さはありません。あと体力もありません」

「そうですか。なら、クラナ様を大切にしてください」

「大切にしている……………………つもりです」

「大切にするということは、踏み入らないことではないですよ。まぁ、うちの夫にも言えることですけど」

「フィーラさんは子供とかで、欲しいと思わなかったのですか?」

「ルパがいるから、今はいいかな~~くらいには思っています。それ以前は大喧嘩しました」

「フィラックさんとフィーラさんが大喧嘩?」

 リョウには想像が出来なかった。

「大喧嘩の末、私はホアクの街にいる親戚の元に行くとあの人に言いました」

「そんなことがあったんですか?」

「結局、行きませんでしたけど」

 リョウは首を傾げた。

「その道中で崖の下から上がる煙に気が付いたのです」

「遭難の知らせですか?」

「はい、だから救助を呼んで、生存者の救出をしました。私も一緒に降りたんですけど酷い有様でしたね。殆どの人が即死で、崖の一部、出っ張っていたところに運良く落ちた女の子が一人、助かっただけでした。その側には、死んで間もない男性がいました。女の子の父親でした」

「その女の子がルパさんですか?」

「そうですよ~~」

「なるほど、壮絶な過去ですね。でも、良いんですか? 僕にそのことを言っても。フィラックさんはルパさんから直接聞くようにと言っていましたけど」

「あの子にとって、これは辛いことですけど、全体から見ればたいしたことじゃ無いんですよ。それにここまでは言わないと会話が流石に繋がらないので、言わないといけませんでした」

「今の話が些細なことですか?」

「些細だとは言いません。けど、リョウさん、剣で腕を斬られるのと、剣で腕を切り落とされるの、どっちが重傷だと思いますか?」

「もちろん後者です」

「そういうことです。ルパは生き残った故に辛い目に遭うことになるのです。それを乗り越えるために、ルパは今まで信じていたものを捨てなくてはいけなくなりました。ルパに関しては、この辺までで良いですか? 会ってから『色々』あって、家族になった。それで納得して貰えませんか?」

「分かりました。それでルパさんが家族になって、子供問題は解決した、と?」

「いいえ、解決していません」

「えっ?」

「私は今でも子供を産んでみたいと思っています。しかし、あの人が私を大切に思っていると分かってから、強くは言わなくなりました。あの人には、ハイネ様のことがありますから。私とハイネ様は同じアーレ家の人間、嫌でも被ってしまうのでしょう」

「僕だって、クラナのことを大切に思っています」

「人は時に、言葉じゃ無くて、行動を求めてしまうものです」

「でも…………」

「クラナ様の望みを全て叶える必要は無いのです」

 反論しようとしたリョウの言葉を、フィーラは遮った。

「参考までに、あの人が帰ってきた私にしたことを教えますよ。あの人ったらね……………………」

 フィーラは、リョウに耳打ちした。笑いを堪えた声だった。

「えっ、そんなことしたら、引かれますよ。怒られますよ」

「大丈夫、結構、効くものですよ。特にリョウさんみたいな人がやると」

「そうでしょうか?」

「人生の先輩の話は素直に聞きなさい」

 フィーラはビシッと右手の人差し指を、リョウへ向けた。

「分かりました。もし、失敗したら、後詰め、お願いしますよ」

「ええ、夫共々全力で加勢します」

 フィーラは笑った。

「ところで一つ、もし答えられないことなら、答えなくて良いので質問したいのですが?」

「そんな丁寧な言い方をされた拒絶は出来ません。何ですか?」

「ルパさんの過去って…………」

 リョウは三日間、ルパを見ていて気付いたことがあった。一度気になり、意識してみると明らかに不自然なことがあった。

「ルパさんがいつも手袋をしていることと関係ありますか?」

 ルパは手袋を外したことが無かった。

 今は冬だ。外では不自然ではない。しかし、室内でも1回も外していなかった。家事を手伝うときも、食事の時も、絶対に手袋を外さなかった。

「よく見ていますね。気付いたからには、何も言わないわけにはいかないでしょう。でも、やっぱり真実はルパから直接聞いて下さい。だから、私はこう答えます。もし、あなたの前でルパが手袋を外すことがあればその時、リョウさんがルパの一番深い所にあることを知ることになるでしょう、と」

「分かりました。それだけで十分です。すいません、興味本位で聞いてしまって」

「良いですよ~~。だって、あの子はリョウさんのことが嫌いじゃないですから。親としても、早く隠し事のない同世代の友達を作ってほしいものです」

「僕がそうなれるように努力します。その前に、クラナとの関係修復が先ですけど」

「そうですね。私がリョウさんを連れ出した目的はここまでです。リョウさんはどうしますか?」

「自分の家に戻って、クラナを待ちます」

「よろしい。なら今日は解散です」

 フィーラは笑って、リョウを見送った。

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