表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雌伏編
21/184

ファイーズ要塞再着任

「やっと、ファイーズ要塞が見えてきたね」

 リョウは馬橇の荷台から顔を出し、目的地が近いことを確認した。

 途中、大雪のため、センギという街で足止めを受けた。予定より、一週間遅れの到着である。 

「リョウさん…………」

 クラナは不安そうな声を出す。

「今になって怖くなってきました」

「怖くなってきた?」

「はい。ファイーズ要塞の方々はあの時、私を送り出してくださいました。自分たちの危険を覚悟の上で。あの時は戦争中でしたし、私も皆さんも気が張っていたと思います。戦争以外のことを考えられなくなっていたと思います。でも、戦争が終わって色々考える時間がありました。皆さんは私のことを、ファイーズ要塞を捨てた裏切り者だと思っていないでしょうか?」

 クラナの表情は暗い。

「クラナ、大丈夫、みんな、君のことを歓迎してくれるよ。君のことを褒めてくれる………………………………なんて、都合の良いことを僕は言わない。だから、はっきりしていることだけ伝えるよ。僕だけは君の味方だ。君が罵倒されるなら、一緒に受ける。押しつぶされそうになったら、僕を頼って」

 リョウはクラナの手を握った。

 クラナの表情が明るくなった。

「僕だけって言い方は酷い!」

 フィーラが、リョウとクラナの手の上に、自分の手を置いた。

「私だって味方ですよ。人生の先輩をどんどん頼ってください」

 フィーラは笑った。

「私もです」

 ルパも手を乗せる。

「二人ともありがとうございます」

 不安が完全に無くなったわけではない。それでも、クラナにとっては強い味方だった。

 そのやり取りを、フィラックは馬橇を操りながら聞いていた。

「私もお二人の力になりましょう」

 フィラックは呟いた。

 一行は、ファイーズ要塞へ到着する。

「お待ちしておりました」

 アーサーンが守備兵隊と共に出迎えをした。

「さぁ、まずは統合作戦本部へ行きましょう。道中が少し大変ですが」

 アーサーンは困った顔をする。

「それはどういうことでしょうか?」

 クラナは心配になる。

 しかし、その心配は杞憂だった。

 クラナは歓喜によって、迎えられた。

「救国の英雄、クラナ・ネジエニグ!」

 民衆は叫んだ。

 統合作戦本部までの道は、クラナのことを一目見ようとした民衆で埋め尽くされていた。

「申し訳ありません。これでも最小限の混乱で済むように尽力したのですが」

 統合作戦本部の中に入ると、アーサーンが謝罪する。

「いいえ、おかげでこうやって無事たどり着くことが出来ました。これから、また頼りにします。よろしくお願いします」

「もちろんです。それから、これが今後二日間の予定です」

 アーサーンは予定の記された書類を渡した。

「明日は各方面への挨拶、そして明後日は着任式を行うことになっています」

 どちらも前回、クラナがファイーズ要塞の司令官になった時は無かった。そんな余裕が無かったのだ。

「各方面への挨拶はいいですが、着任式なんて無くても…………」

「辛抱してください。英雄の着任式を行わなかったとなれば、変な誤解、噂の種になります。それにこの手の行事に力を入れたがる輩がいるのです」

 アーサーンは苦笑しながら言った。

「まぁ、これも英雄の責務だと思って、やるしかないね」

 リョウが言う。

「英雄、誰か代わってくれませんか?」

 クラナはかなり本気の眼で訴えた。

 その場にいた全員が苦笑いでクラナの言葉に返答した。

「無理です」と。

 それから二日間の職務、挨拶回りと式典をクラナは当たり障り無くこなした。

「リョウ、クラナ様は妙に慣れていないか?」

 空き時間、アーサーンがリョウに、クラナの成長の経緯を尋ねる。

「終戦直後から、クラナは多くの人間に会わなければいけなくなりました。最初の頃は、あたふたして、失敗していたそうです」

「その口ぶりだと、お前は同行しなかったのか?」

「そういったことの専門がいますから」

「ヤハランか」

「そうです。そして、ルピンが会話の受け流し方を教えたのです。交渉関係、会話の駆け引きはルピンの得意分野ですから」

「それにしても、それだけでああも成長するだろうか」

 アーサーンの言うとおり、クラナの応対は完璧だった。無下にすること無く、それでいて深入りしない。挨拶した全員と適切な距離を保ち続けた。

「それだけ、ですか……………………」

 リョウは苦笑いをする。

「ルピンの指導が厳し過ぎて、泣くことが七回、僕に泣きながら助けを求めることが五回、堪らずに逆ギレして論破されることが三回、あっ、逆ギレした時は眼が赤く腫れるくらい泣いていました」

「…………ヤハランは悪魔か」

「でも、全てはクラナのためを思ってのことなんです。これから先、クラナに媚びを売ろうとする人は絶えず出てくるでしょう。うまく受け流さなければ、クラナ自身に酷い実害が出るかもしれません。そうならないためのルピンの優しさだと思います」

「確かにな、しかし、ヤハランは損な役割が好きなようだ」

 ルピンの処世術の指導もあり、クラナのファイーズ要塞再着任は驚くほど順調だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ