誕生! 薔薇の騎兵連隊
今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。
『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
カリンはグーエンキム家のことを調べ、把握していた。
だから、集まっても千人程度だと考えていた。
「えっとこれってどれだけいるんですか?」
「全部で四千余りです。カーテローザ・グーエンキムの名の元、命を捧げる覚悟で集結しました」
首都で一度会ったリッツが説明する。
「命を捧げるというのはやめてください。私たちは共に戦い、生き抜きます。死ぬつもりでいる方は帰ってください。私たちは死ぬために戦うわけではありません」
「ほれ見ろ、リッツ、連隊長殿は昔と変わらず甘々だ」
一人の男が笑いながら前に出た。
「あなたはワーコップですか?」
「おっ、私を覚えていてくれましたか、連隊長殿」
ワーコップはわざとらしく頭を下げた。
「忘れるはずがありません」
ワーコップはカリンの連隊で副連隊長を務めていた男である。
まだ経験の浅いカリンを支えたが、少し癖のある男だった。
皮肉屋で上官でも気に入らなければ、平然と文句を言う男だった。カリンが連隊長になったばかりの頃はよく衝突していた。結局二人の衝突は決闘にまで発展し、その結果、やっとワーコップはカリンに従うようになった。
「あなたがいることは意外です」
「おや、とっくに死んだと思いましたか?」
「いいえ、あなたは簡単に死にそうじゃありませんから。全てから逃げた私になんて興味が無くなっていると思いました」
「とんでもない。逆に興味が湧いたくらいです。失踪したあなたが一体どの面下げて、戻って来たのかとね」
ワーコップは意地の悪い笑いを浮かべる。
「………………」
「あなたほど興味が沸く上官にはついに会えませんでした。あなたの帰還を聞いて、心が躍ったものです」
「などの言ってますけど、ワーコップさんはあなたが帰ってきた時、本気で喜んでいたんですよ」
「おい、リッツ、余計なことを言うな」
ワーコップは急に不機嫌になる。
リッツは笑う。
「ワーコップ、リッツ、再び集まってくれたこと、心より感謝します。共に戦いましょう」
カリンは今にも「出発します!」と言いそうだった。
「盛り上がっているところすいません」
ルピンが不機嫌そうに言う。
「ちょっと出発を遅らせます」
「おいおい、どうした?」
グリフィードが尋ねる。
「どうしたかって? 規模が大きくなり過ぎです。今、遠征しているシャマタル独立同盟軍は三千くらいですよね。ここには八千の兵が集まってしまいました。集めてもいないのに『旧白獅子隊』の方や『獅子の団』まで…………」
ここに集まったのはグーエンキム家の残党だけではなかった。
一年前の戦いでグリフィードと共に戦った者たちも集まった。
ルピンの旧知の者たちから「来るのが当然だろ」という言葉と笑い声が聞こえてくる。
「まったく、せっかく土地を持ったのですから、平穏に暮らせばいいものを。本当に物好きですね」
「助かるじゃないか。数は多い方が良いだろ?」
「それは正しい意見です。ですけど、これだけの規模の兵団を維持するのは大変なんですよ。フェローさんに急いで使者を送って、我々を正規軍として送り出してもらうように要請します。いえ、私が直接行った方が良いですね」
「待てよ。この雪の中を進むのか? 下手したら、戻ってくるのは春先になるぞ」
「それはそうですけど…………」
「皆さん、どうもお困りのようですね」
声の主はベンツーアンだった。
「なるほど、これは壮観だ。ランオ平原で活躍した『赤の騎兵連隊』と昨年の戦いで活躍した白獅子隊。クラナ・ネジエニグ様もあなた方が馳せ参じるなら頼もしいでしょう」
「ですけど、問題がおります」
「失礼ながら、話は聞かせていただきました。ならば、我々を頼りになってください。我々もネジエニグ様の手助けをしたいのです」
クラナたちにとって、これはとてもありがたいことだった。
「とはいっても武具や軍馬の準備に時間がかかります。一か月、それぐらいは必要になります」
「分かりました。私たちもそれまでにこの大所帯の再編と訓練を行いましょう」
ルピンは集まった八千の兵力の再編成を始めた。
この八千の兵は二つの勢力に分かれている。傭兵同盟団とグーエンキム家の残党である。
傭兵同盟団の連隊長にはグリフィードが、グーエンキム家の残党の連隊長にはカリンが、それぞれ役職に就いた。
グリフィードはさらに部隊を三つに分けて、自分が直属の部隊とゴルズ大隊、トーラス大隊に分けた。馬の扱いに秀でた者を優先的にグリフィードの直属部隊に組み込み、『白獅子隊』を復活させる。
カリンの率いるグーエンキム家には優れた騎兵の組織が存在していた。今でもこれは健在でカリンは直属部隊とワーコップ大隊、リッツ大隊の分けた。
軍備が整うまでの一か月の間で集まった兵を鍛え直す。
長いと思っていた一か月はあっという間に過ぎた。
約束の日にベンツーアンが用意した武具を見て、カリンは驚く。
用意されていた武具は赤備えだった。
「迷惑かもしれないと思いましたが、私たちは語り継がれる『赤の騎兵連隊』の勇名をもう一度聞きたいのです」
「…………ありがたく使わせてもらいます。ですが、『赤の騎兵連隊』はすでに過去の存在です。何か新しい名前が欲しいのですが…………」
「それなら、良い名前がありますよ」
ルピンが割って入った。
「『薔薇の騎兵連隊』というのはどうですか?」
「薔薇ですか?」
「はい。あなたが私に初めて名乗った『ローザ』という名前は別の世界で『薔薇』という意味があります」
他に良い名称も思いつかなったカリンはルピンの案を受け入れた。
シャマタル独立同盟史に記憶されることに二つの連隊がここに誕生する。
一つは白獅子連隊。そして、もう一つは薔薇の騎兵連隊。
この二つの連隊はクラナが率いるシャマタル独立同盟遠征軍に合流すべく、ファイーズ要塞を出発した。雪の積もるファイーズ街道を進んでいくとやがて雪は無くなっていく。ルピンたちはイムレッヤ帝国領へ入った。