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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 解明編
182/184

カリンの旧友

今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。

『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

「ここがあのファイーズ要塞なんですね」

 到着したカリンが漏らした。

「意外ですね。ここに来るのは初めてですか?」

「はい、私はずっとフェーザ連邦方面で戦っていましたから」

 ルピン、グリフィード、カリンは傭兵同盟団を引き連れて、ファイーズ要塞へ到着した。

 ルピンはクラナの留守を預かるベンツーアンに話を通し、傭兵団の為の宿舎を確保していた。

「いいですか? もし、要塞内で面倒事を起こしたら、追い出しますからね」

 ルピンはゴルズ、トーラスら団長たちに念を押した。

「私たちも大雪の中で野宿はごめんなので、秩序は徹底させますよ」

 トーラスの言葉に他の団長たちも「分かった」と続いた。

 傭兵団と別れたルピン、グリフィード、ローザの三人はまずベンツーアンと会った。

「なるほど、これが必要な物資ですか」

 遠征の為の費用の相談の為だった。

「分かりました。なるべく早く手配しましょう」

「感謝します。後は金銭の話ですが…………」

 ルピンにとってこれが悩みの種だった。ルピンの手元には金銭がまったくない。どうやって借用という形を納得させるか、考える。

「金銭の方は大丈夫です。あなた方には実績がある。投資するのに悪くありませんから。それにリョウ殿のおかげで我々はかなり儲けさせてもらいました」

 その言葉にルピンはホッとした。

 必要物資の細かい相談を終えるとルピンたちは泊る場所を探す。

「あの、ちょっと行きたいところがあるんですけど、良いですか?」

 カリンの頼みに二人は首を傾げた。

「どこですか?」とルピンが尋ねる。

「昔の友人の所です。今はここにいると聞きましたから。泊る所は何とかするので二人とは別行動でもいいですか?」

「駄目という理由がないですね」

 三人は二手に分かれた。

 カリンは不安が九割、懐かしさが一割の友人の元を尋ねる。

 その人の家はベンツーアンに確認していた。到着するとカリンは深呼吸をした。

 何を話せばいいか、分からない。でも会いたかった。

 コンコン、とドアを叩く。中から人の気配はなかった。もう一度、今度は強めにドアを叩いた。

 やはり反応はなかった。

 カリンは自分が安心しているのか、残念に思っているのわからなかった。

 帰ろうか、と思った時だった。


「どちら様ですか?」

 

 その声にカリンは振り返った。

 カリンの姿を見た彼女は驚きのあまり持っていた野菜を落としてしまった。庭で作業をしていたから、カリンの存在に気付くのが遅れた。

「久しぶりです。フィーラ」

 フィーラは落とした野菜を拾おうとせず、カリンに詰め寄った。

 そして、無言でカリンの頬を思いっきり叩いた。

「今までどこにいたんですか? 私たちが、私がどれだけ心配したと思っているんですか!?」

 フィーラは泣き出した。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい…………」

「良かった…………嘘みたい…………夢みたい…………生きてると思わなかった…………また会えると思わなかった…………」

 フィーラはカリンに抱き着いた。

「許してくれなんて言いません。言えません。でもフィーラに会いたかった」

「あなたは勝手です…………」

 カリンはフィーラを抱き締める。

「中で話しませんか?」

 フィーラが提案する。

「分かりました」

 カリンはフィーラに誘われて家に中に入る。

「一人で暮らしている、わけではないですよね?」

 家の様子からカリンはそう判断した。

「今は一人ですけど、旦那と娘と一緒に住んでいます」

 フィーラは「聞いて、聞いて」と言いたげな雰囲気を出す。

 カリンはそれに従い、「誰なんですか?」と尋ねる。内心で予想はついていた。

「フィラックさんです」

「知ってました」

「もっと驚いて欲しいです」

「結局、フィーラの押しにフィラックさんは負けてしまったんですね」

「私の大人としての魅力に負けたんです」

「えっと、フィーラの人間としての魅力にフィラックさんが惹かれたのかもしれませんね。フィーラは全然変わりませんね。中身も見た目も」

「どういう意味ですか?」

「…………あの、目がすごく怖いんですけど? …………娘もいるんですね」

「はい、ルパと言うとってもかわいい娘がいます。今、紹介できないのが残念です」

 中々の親馬鹿だな、とカリンは内心で思う。それと同時にある懸念が生まれた。

「フィーラ、その…………体は大丈夫なんですか?」

 出産を経験したアーレ家の女が短命なことはカリンも知っていた。

「何を言いたいか分かります。本当は私から言うべきでないんですけど、特別に教えますね。ルパは養子なんです」

「そうなんですね…………」

 その答えにカリンは安心してしまった。

「さて、夕食の準備をしますか」

 フィーラが立ち上がる。

「手伝いますよ」とカリンも立ち上がる。

「えっ、料理なんてできないでしょう?」

 からかわれたカリンはムッとした。

「いつの話をしているんですか。今はそれなりに出来ますよ」

「ならいいですけど…………剣で肉とか野菜を斬らないでくださいね」

「そんなことはしません!」

 カリンがスープを、フィーラが肉料理を作る。

「あなたがこんなおいしい物を作れるなんて驚きです」

 カリンの作ったスープの感想をフィーラが言う。

「二十年近くもあれば、色々と出来るようになるんですよ」

「二十年、そうです。二十年です。あなたはどこにいたんですか?」

「ローエス神国にいました。そこで神兵という階級を貰って、兵士をしていました」

「ローエス神国ですか…………何の運命でしょうね。私の娘はローエス神国から逃げてきたのですよ」

「えっ!?」

 カリンは口に運びかけていた肉を皿の上に落してしまった。

「ローエス神国の闇についてはルパから聞いています。あなたは大丈夫だったのですか?」

「大丈夫だったかは分かりません。恐らく、定期的にクロキシル麻薬を投与されて、薬漬けにされていたのだと思います。今でも急に感覚が鋭くなったり、理由のない喪失感に襲われたりします。でも、私は昔のことを思い出して、その強烈な記憶が麻薬の副作用を抑え込んでいるみたいです」

「今が元気ならそれでいいです」

 フィーラはカリンがそれ以上言わなかったので聞かなかった。

 二人は昔のことを話す。二人が共有した子供時代のことを時間の許す限り、話した。

「今日は泊っていきますか?」

「許してくれるなら、お願いします」

「許さないわけないじゃないですか」

 二人は約二十年ぶりに一緒に寝る。

「フィーラは本当に変わりませんね。羨ましいです」

「私の予定だともう少し成長するはずだったんですけど…………カリン様は…………」

「フィーラ、今更〝様〟付けなんてやめてください」

「一応、私はアーレ家から出たので、家柄ではあなたの方が上なのですが」

「そんなの関係ありません。昔のままでいいです。昔のままがいいです」

「分かりましたよ。カリンは変わりましたね」

「それは老けたってことですか」

 カリンはフィーラの脇腹を突いた。

「ちょっとやめてもらえませんか!?」「

「ふふ、弱いところは変わってませんね」

「まったく、もう……変わったというのは雰囲気です。昔のカリン様は自信家でしたけど、今のあなたはそんな様子がありません」

「私は自分の力を過信して、取り返しのつかないことをしましたから。それにローエス神国で何事にも上というものがあるのだと知りました。それが私を変えたのだと思います」

「そうなんですね。でもこのまま隠居するつもりはないのでしょう?」

「はい、私はこれからシャマタル独立同盟の遠征軍に合流します。私に何ができるか分かりません。でも、今更ですけど娘の為に何かをしてやりたいのです」

「あなたのそういうところは変わりませんね。…………遠征軍にはフィラックさんやルパも一緒にいるんです。二人とも冷静なふりをしていざという時は自己犠牲を躊躇わないところがあります。クラナ様は当然ですけど、私の夫や娘の力にもなってほしいのです。私も一緒に行きたかったです。でも私は体が弱いですから、きっと迷惑になります。だから待つことしかできません」

 フィーラはカリンに抱き着き、背中に手を回した。

 カリンはフィーラの頭を軽く撫でた。

「出来る限りの力で共に戦います」

「伝説の英雄『赤の騎兵連隊長』に言われると頼もしいですね」

「やめてください。それ、私が言ったことはないんですよ。赤の装飾だって私の希望じゃありませんし…………」

「そういえば、なんでカリンの連隊だけ赤備えだったのですか?」

「そ、それは…………」

 カリンは少し言うのを躊躇う。

「笑わないでくれますか」とフィーラに念を押してから、

「叔父様のボスリュー様から『お前は馬鹿だから見分けがつくようにしないと自分の部隊を把握できないだろ』って言われたんです」

 聞いた瞬間、フィーラは腹を抱えて、大笑いした。

「ちょっと、堪えるとかしなんですか!?」

「無理無理、無理ですって!」

 フィーラは呼吸を整える。

「シャマタル史で伝説的な強さが語り継がれる『赤の騎兵連隊』の由来がそんなことだったなんて笑うしかありませんよ」

「その強さもすごい盛られてる気がしますけどね」

 カリンは首都でシャマタル独立同盟の歴史を少しだけ調べた。

 そこで自分がランオ平原会戦の勝利立役者、英雄として称えられていることを知って、恐縮した。

「あなたが失踪したのが悪いんです。だから英雄譚が独り歩きして今みたいな評価になったのですよ。実際のあなたを見れば、英雄なんて評価する人はいないでしょうに…………ちょっと、今度はどこを触る気ですか…………!」

「フィーラが悪いんですよ、えい!」

「本気にならないでくれますか!? 私じゃあなたを止められないんですから!」

 カリンとフィーラは飽きるまで話をして、気が付くと空が明るくなり始めていた。

「結局寝れませんでした…………」

 カリンは大きな欠伸をした。

「誰のせいですか。私たち、もう三十台のおばさんなんですよ。徹夜なんてしたら体がガタガタになります…………」

 フィーラはベッドから立ち上がれなかった。

「フィーラ、私、行きますね。今の仲間の所に」

「行ってらっしゃい」

 フィーラはそれだけ言うと本当に限界だったようで寝てしまった。

 カリンは静かにフィーラの家を出る。

「さて、ルピンちゃんたちと合流しますか」

 カリンは歩き出した。


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