カリンとアレクビュー
今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。
『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
首都へ向かう道中でルピンたちは第七連隊のローランを尋ねる。
「そうですか。ユリアーナさんも行ったのですね」
「ああ、まったく自由な奴で困る。それからフィラックさんやアーサーンさんも一緒だ。数は確か三千程度だと聞いているが、指揮官は俺以外の優秀な奴が全員行ったようなもんだな」
「それは頼もしいですね」
とは言ったものの相手があのルルハルトだと思うとルピンは心の底から安心できなかった。
「それと私たちが傭兵団と共に首都へ向かっていることをアレクビュー・ネジエニグ様やフェロー・アーレ様に伝えて頂いてもよろしいですか?」
「分かった。任せておけ」
ローランに連絡役を任せて、ルピンたちは再び首都を目指した。
首都『ハイネ・アーレ』に到着するとルピンとグリフィードはすぐにアレクビューの屋敷に向かう。カリンも同行した。
「久しぶりじゃな。ヤーウェン殿、ヤハラン殿、それに…………」
アレクビューはカリンをまじまじと見た。カリンは視線を逸らさなかった。
「お久しぶりです」
「昨年、ユリアーナが帰ってきた時、以上の衝撃じゃ。生きておったのか」
ルピンはアレクビューが怒っているのか、喜んでいるのか分からなかった。アレクビューの口調は淡々としていた。
しかし、威圧感はある。ルピンやグリフィードですら息苦しかった。
アレクビューは立ち上がった。
「お前は逃げたな?」
アレクビューはカリンを睨みつける。
「はい、逃げました」
「お前はクラナを置いて逃げたな。あの子が両親がいないことをどれだけ悲しんだか知っているか?」
「知りません。知ることもできませんでした」
「今になって帰ってきて、図々しいとは思わないのか?」
「思います。しかし、自分のやるべきことに気付いたのです。お義父様、自分勝手とは思います。ですが、私はもう一度戦いたいのです」
「シャマタルの為にか?」
「いいえ、娘の為にです」
「正直な奴だ。カリン、お前の処分についてはもう決まっている。ヤハラン殿が事細かに事情を説明した文書を送ってくれた。その上での処分だ。覆ることはないと思い、聞け」
「…………はい」
「よかろう、フェロー、おぬしの口から頼む」
「分かりました。では、カーテローザ・グーエンキムに沙汰を告げます」
少しの沈黙が重かった。
「処分はクラナ・ネジエニグに一任する、ということにしました」
「えっ? それはどういうことですか?」
カリンは驚き、聞き返す。
「お前の失踪で一番負担があったのはクラナだという結論が出たんじゃよ。だがら、お前の処分はクラナに任せることにした。だが、クラナはここにおらん。今、大戦に参加している。だから、お前が直接出向き、聞いてこい」
アレクビューの言葉を聞いた時、カリンは泣き崩れた。
「ありがとうございます…………ありがとうございます…………」
「顔を上げるんじゃ。お前が苦しんだのは良く分かる。ひどく疲れていたじゃろう。そんな中、クラナを産んでくれたお前を弾劾が出来るのはクラナだけじゃ。ワシからお前を非難する言葉はない。よく帰ってきてくれた。我が娘よ」
「お義父様、私をまだ娘と言ってくれますか? あなたの息子、ドワリオは私と出会わなければ、死ぬこともなかったかもしれないのに」
「そんなことを言っても仕方のないこと。それにお前に出会わなかったら、ドワリオの人生はあれほど充実しなかった。英雄の息子などと周囲に言われ、浮いていたあいつに遠慮なく、接していたのはお前だけだったからの。ドワリオは本当に良い妻も手に入れた、と今でも思っておる」
「もったいない言葉です…………」
カリンは暫く涙が止まらなかった。
やっと落ち着いた時、日は落ちていた。
「今日はアレクビュー様の所に泊っていくといい。食事も用意させましょう」
フェローが言う。
三人はその言葉に甘えることにした。
「久しぶりに落ち着いて寝れそうです」
食事を終え、湯浴みを済ませたルピンが言う。
「ゴルズやトーラスたちには申し訳ないな」
傭兵同盟団は『ハイネ・アーレ』へは入らずに、近くの森で野営をしていた。
「さすがにあの数を入れるわけにはいきませんからね」
「後で酒でも持っていくか、樽で」
「そんなお金、どこにもありませんよ」
「ここにあるさ」
グリフィードはルピンの鞄を持っていた。
「それはだめです!」
「いいじゃないか。もうシャマタルまで辿り着いたし、金はまた作ればいいだろ?」
「私がお金の沸く魔法の壺でも持っていると思っているんですか!? お金って増やすの簡単じゃないんですよ? 私のお金を取らないでください!」
結局、ルピンの意見は通らなかった。グリフィードは次の日、所持金のほとんどで酒樽を買ってしまった。
「ルピン、機嫌、直せって。また当分、俺はただ働きでいいぞ」
「そう言って、また私のお金を取るんでしょ! 知ってますからね!」
「グリフィード君って、頼もしいけど、旦那にはしたくない気がしました。貯金が溜まらなそうです…………」
事情を聞いたカリンが少し呆れた視線をグリフィードへ向けた。
「カリンさん、分かってくれます。私がいなかったら、獅子の団は破綻していたんですよ。団長は組織管理が出来ないし、副団長はすぐに正規軍の人と問題を起こすし…………」
「だけど、なんだかんだ言って、お前は俺から離れないよな」
グリフィードは笑った。
「いつか本当に刺すかもしれません…………」
「まぁ、そう言うな。ゴルズやトーラスに礼は必要だろ」
三人は首都を出る為に出口に向かった。
「お待ちください!」
三人は呼び止める声がした。振り返ると中年の男が立っていた。随分と痩せこけていた。
「あなたは誰ですか?」
ルピンが言う。
男は大衆の前で膝をつく。
「申し遅れました。私はカーパー・リッツです。カリン様、覚えておられますか?」
「リッツ? あなた、リッツ部隊長ですか!? すいません、気付きませんでした」
「誰ですか」とルピンが尋ねる。
「昔、赤の騎兵連隊で私を支えてくれた方です。えっと、その…………」
「気付かないのも無理はありません。私は随分と老けました。あなたが生きていると聞き、ここに駆けつけました。カリン様、私たちもあなたに同行させてはくれませんか?」
「私たち?」
「はい、グーエンキム家の没落は知ったと思います。私たちはグーエンキム家の復興のために戦いたいのです。まだ、グーエンキム家には僅かですが、余力が残っています。あなたにその兵力を率いてもらいたい。フェロー国家元首にはすでに話を通しております」
「戦いから逃げた私をまた指揮官と慕ってくれるのですか?」
膝をついているリッツと目線を合わせる為、カリンも腰を落とした。
「我々、旧赤の騎兵連隊の隊長はあなただけです」
「私はこれから娘の為に戦いたい。それでいいのなら、共に戦いましょう」
カリンはリッツに手を伸ばした。リッツはその手を迷わず、掴んだ。
「ありがとうございます。各地に散っている者たちに声を掛けます。その者たちを集めたら、ファイーズ要塞も向かいます」
「分かりました。私たちは先に行ってますね」
カリンはグーエンキム家の残党との合流を約束して、ファイーズ要塞へ向かった。