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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 解明編
180/184

再び、シャマタルへ

今日は夜にもう一話、投稿します。

よろしくお願いします。

 ルピンは服を脱いで川に入る。

 比較的温暖な気候であるベルガン大王国もこの時期に川は冷たい。

 ルピンは体を徐々に慣らしていき、肩まで川の中に入った。そして、大きく息を吸って頭も水の中に突っ込んだ。

(あぁぁぁぁぁ! ローザさんがあの英雄、〝カリン〟でネジエニグ嬢の母親ですって!? こんな展開、どうやって予想できますか! 私はあの人にリョウさんのことを、ネジエニグ嬢のことを…………あぁぁぁぁぁぁ!)

 ルピンはクロキシル麻薬の禁断症状が出てきた時にカリンに言ってしまったことをはっきりと覚えていた。

 酸素の補給の為にルピンは水面下から顔を上げた。

「あぁ、やっぱりこのまま死にましょうか? あれ以上の生き恥って無い気がしてきました」

「もうそんなことを言わないでください」

 振り返るとカリンがいた。

「ルピンちゃん、着替えの服持ってないですよね」

 カリンは川岸に服を置き、持ってきた枯れ木に火を付けた。

「カリンさん、もう一回記憶を失ってもらえませんか?」

 ルピンは川から上がると石を持って、カリンに迫った。

「無茶言わないでください。ほら、こっちで体を温めてください。風邪を引いたら大変です。それに大丈夫です。あの話は誰にも言いませんから」

 カリンはクスっと笑った。

「…………!」

 ルピンは顔を真っ赤にした。

「あなたもそんな表情をするんですね。意外です」

「私だって人間です。異性の一人くらい好きになります」

 ルピンはこれ以上、カリンに面白がられるのも癪なので冷静なふりをして淡々としゃべる。

「すごいですね、そんなに耳を真っ赤にしながら、冷静な口調で喋れるなんて」

「…………!」

 無理だった。持っている情報と経験からこの手の話はカリンの方が上手だった。

「もう、やっぱり死にます! あなたを殺して、私も死にますから!!」

 ルピンは膝を丸めて、顔を隠してしまった。

「そんなこと言わないでください。私、ルピンちゃんのこと好きですよ」

「そうですか。私はあなたのこと嫌いになりそうです。よくネジエニグ嬢があんな素直に育ちましたね」

「私の娘はいい子ですか?」

「それは自分で会って判断してください。会ってくれるか分かりませんけどね! それに会ったら、あなた、おばあちゃんになっているかもしれませんよ。若い二人が一年、何もないはずありませんから。そう、何もないなんてありえないんですから!」

「ルピンちゃん、泣きながら、罵倒って、結構表情豊かですね。あ~~、一年もあれば、子供が出来ていても不思議じゃないですよね。おばあちゃんか…………せめて、四十代まではおばあちゃんって呼ばれたくなかったのですが」

「あなたがおばあちゃんって呼ばれるかもわかりませんけどね! 私が頑張って育てたのに。私よりリョウさんを知っている人なんていないのに何で私が負けるんですか!?」

「リョウ君にとってルピンちゃんってあ母さんとかだと思われていたんじゃないんですか?」

「せめて、お姉さんって言ってください!」

 二人はギャアギャアと会話を続けた。

 焚き火の炎がいつの間にか小さくなっていた。

「体も乾きましたし、グリフィードの所に戻りましょう」

「そうですね」

 ルピンは服を着た。




 そこから三人は急いで準備を行った。

 荷物をまとめて、村へ向かう。

「おや、早くても明日になると思っていましたが?」

 トーラスが迎える。

「こういうことは早い方が良い。これだけの傭兵団が集まっているのも目立つからな」

「それはありがたい判断ですね。我々は四つに分かれてシャマタル独立同盟を目指します」

「なるほどな。さすがに三千の傭兵団は目立ちすぎる」

「ゴルズさんの傭兵団があなた方を護衛します」

「護衛って言いからはやめてくれ。俺たちも何かあったら、戦うさ」

「言うと思いました。ですが、あなた方には生きてもらわないと困ります。そうしないとこれからが面白くならないですから」

 グリフィードたちはゴルズと共にシャマタル独立同盟を目指す。

「しかし、ヤーウェンは羨ましいな。いつも傍に女がいる。どうしたら、そんなにもてるんだ?」

 ゴルズが笑いながら言う。

「残念ながら、俺の傍にいる女性は他に思い人がいるらしい」

 グリフィードは肩を竦める。


 警戒していた追手は現れなかった。

 一か月の移動の末、グリフィードたちはシャマタル独立同盟とフェーザ連邦の国境付近の村、『テーリ』に到着した。そして、他の傭兵団の到着を待った。

 続々と傭兵団は到着する。

「ったく、トーラスの奴は何をしているんだ?」

 グリフィードたちが到着してから一週間が経つが、まだトーラスの傭兵団の姿が見えなかった。トーラスが到着していたのは、さらに二日後だった。

「遅いぞ、何をしていた?」

 ゴルズは文句を言う。

「すいません。大陸大戦に変化があったので情報を集めていました。やはりカタイン将軍の軍とシャマタル独立同盟軍がラングラム率いるリテリューン皇国軍と対峙するようです。戦場が離れすぎているので、詳しいことは分かりませんが、シャマタル独立同盟の総司令官はクラナ・ネジエニグだそうですよ」

「そうか、ならリョウもいるな。もしかしたら、ユリアーナやフィラックさんやアーサーンさんもな。ルルハルト相手にもどうにかするはずだ」

 グリフィードの感情には希望も込められていた。グリフィードはリョウとルルハルトの相性が悪いことに気が付いていた。

「私たちは一刻も早くシャマタル独立同盟から出撃の許可をもらい、ネジエニグ嬢を助けに行かないといけませんね」

「おっ、半死人だったくせにやる気になっているな」

 グリフィードはルピンはからかう。

「うるさいです。立ち直ったからには全力でリョウさんたちを助けます。ルルハルトさんとの戦いには間に合わなくても、戦いはまだ続くはずです。帝国が負けるようなことがあったら、シャマタル独立同盟を破綻します」

 グリフィードたちはシャマタル独立同盟領内に入った。約一年ぶりだった。

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