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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 解明編
178/184

予期せぬ来訪者

今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。

『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 ルピンが心を閉ざしてから一か月が経った。

 グリフィードはさすがに困り果てた。立ち直るきっかけが何もない。

「ローザさん、そいつのことを頼んだ。何か食えるものを探してくる」

 今日も昨日と同じだと思い、洞窟から出る。

 

 しかし、その日は違っていた。


「よう、獅子の団の団長殿、かなりやつれているな」

 洞窟から出たところで人に出くわした。

 それは顔見知りだった。

「ゴルズ、なんであんたがここに?」

 それはヨーロ傭兵団団長のゴルズだった。一人ではない。周囲に人の気配があった。

「それがよ、ローエス神国に入った時、こんなものを手に入れたんだよ」

 ゴルズは一枚の用紙を渡した。

 それはお尋ね者を知らせるものだった。

「獅子の団団長グリフィード・ヤーウェン。悪魔の一族の生き残りルピン・ヤハラン。堕ちた神兵ローザ…………」

「ルピンだけじゃなく、俺やローザさんまで…………」

 ローエス神国の情報収集能力を甘く見ていた。

 協会はグリフィードたちの身元を把握していた。

 グリフィードはこの情報を提供したのがあのマリスエだと確信する。焼け死んでなどいなかった。

「捕まえたら、金が貰えるらしいぞ。それも結構な額だ」

 ゴルズは笑った。 

 グリフィードは剣を抜いた。完全に囲まれている。勝ち目はない。

「グリフィード君、一体…………」

 外が騒がしいことに気が付いたローザも駆けつけた。

「ローザさん、俺が隙を作るからルピンを連れて逃げてくれ」

 ローザは諦めたように笑う。

「無茶を言わないでください。逃げる隙なんてどこにもありませんよ」

「だよな」とグリフィードも無理やり笑った。

「短い間ですけど、あなたたちの一緒にいる間はとても充実していましたよ」

「それはありがたい言葉だな。どうだろう。今夜、一緒に夜空でも見ないか」

「それ、素敵ですね」

 二人は死を覚悟した。

 ルピンに死なせない、と言っておいてこの様になってしまったことをグリフィードは情けないと思った。

「まったく気の早い人たちだ」

 もう一人、グリフィードたちの前に出る。

 シュード傭兵団のトーラス団長だった。

「あんたもか」

「ちょっと剣を下ろしてくれますか? あなた方は誤解をしています」

「誤解だと?」

「ゴルズさん、あなたも言い方が悪いです」

「いやいや、あの獅子の団の団長様が慌てるのが面白くってよ」

 ゴルズはガハハ、と笑った。

 敵意がないことに気が付く。

「まったく…………で、じゃあ何でここにいるんだ? そもそもなんで俺たちがここにいることに気付いた」

「気付いたわけではありません。私の配下の者を麓の村に置いていたのです。この周辺に獅子の団の拠点があることは知っていましたから。で、見かけない女性が猪の肉を持って村に来たと聞いたので、そんなことをするのはゼピュノーラさんぐらいだと思ったのです。どうも違うみたいでしたけどね」

 トーラスはローザに視線を移した。

「その人のことも気になりますが、それ以上にグリフィードさんはなぜ私たちが現れたか気になるでしょう。本題に入りましょう。獅子の団、グリフィード・ヤーウェン団長、私たちはある提案の為にここに来ました」

「獅子の団は解散した。今は元団長だ。で、提案っていうのは何だ?」

 グリフィードとローザは剣を収めた。

「我らをあなたの傘下に入れてもらいたいのです」

 トーラスはわざとらしく膝をついた。

「傘下だって?」

「ええ、そうです。これから始まる大きなうねり、それを乗り越えるために私たちはあなたに乗りたいのです」

「待て。どういうことだ? 大陸で何が起きている? 大陸大戦はどうなっているんだ?」

「やはりこんな山奥に籠っていては何の情報も持っていませんか? 三つ、あなたにとって、重大なことをお話ししましょう。ルルハルトがイムレッヤ帝国の東部に攻めこむ用意をしていること。シャマタル独立同盟が参戦を表明したこと」

「ルルハルトか? だが、イムレッヤ帝国の東部には山越えをしないと侵略できないはずだ。簡単な道ではないはずだ」

「常識が通用する相手じゃないでしょうに。あの悪魔は。そして、そうなった時、ルルハルトと対峙するのは、イムレッヤ帝国のカタイン将軍とシャマタル独立同盟になるでしょう。あなた方のいないシャマタル独立同盟がルルハルトと対等に戦えるとは思えません」

「シャマタルにはリョウがいる。ルルハルトにも対抗できるはずだ。だが、心配はある。それを聞いたら、山に籠っている場合じゃないな。で、三つ目っていうのはなんだ? まだ聞いてないぞ」

「そうでしたね。『傭兵王』ゲーツ・アルヴァレーンが動きました。彼は全傭兵団に招集をかけ、フェーザ連邦の将軍として参加しています」

「あの外道が動いたのか」

 グリフィードは昔、アルヴァレーンと揉めたことがあった。グリフィードたち獅子の団は戦争で略奪行為をしない。している傭兵団があるのは知っていたが、余計な揉め事を避けるために見て見ぬふりをしていた。そんなグリフィードがアルヴァレーンとやり合うことになったのは団に入ったばかりのユリアーナが原因だった。アルヴァレーンが村を襲い、女を攫ったことを知ったユリアーナが単身でアルヴァレーンのテントに突入した。それを知ったグリフィードもアルヴァレーンの元に踏み込んだ。

 結果死人は出なかったが、けが人は出た。グリフィードとユリアーナも負傷した。この騒動が原因でグリフィードは傭兵団の同盟の枠からはみ出てしまった。

「アルヴァレーンさんに逆らって生き残ったのはあなた方だけだ。あの人を良く思っていなかった者たちは気分が良かったでしょうね。私もその一人ですが」

「俺たちが生き残ったのはルピンが上手くやってくれたからだ」

「だとしても、あなたのことはあの一件で有名になりました。今回、アルヴァレーンはこの大戦がかなりの金になると考えているみたいです。だから、傘下の傭兵団全てに徴集をかけたのです」

「お前たちは行かなくていいのか?」

「ここにいるのは反アルヴァレーンです。ですが、この大戦が金になるのは分かっています。それを考えた時、誰の元に集うのがいいか、そんなものはすぐに結論が出ました。昨年のシャマタルでの戦いっぷりを聞いた時、私たちは心が躍ったものです。もし、もう少し戦いが長引いていれば、飛んでいきたいところでしたよ」

「お前たちが俺たちにそんな好感を持っていたとは思わなかったよ。だが、俺たちに懸賞金がかかっているなら、ローエス神国に渡した方が得じゃないのか?」

「あなた方を明け渡してもらえる金銭などはした金です。あなたといれば、それ以上の利益があると私は思い、各傭兵団に声を掛けました。規模に違いがありますが、九の傭兵団が参加し、総勢は三千余りになります。傭兵団連合としてはかなりの数になりますが、大陸大戦全体でみれば、細やか数です。どこに売り込んでも大して重要には用いられないでしょう。それどころか、使い捨てにされるかもしれません。でも、あなたなら違うと信じています。それにあなたにはシャマタルとの繋がりがあるはずです。どうですか? この大同盟の総指揮をとってくれませんか? もし、受けてくれるなら我々が命を懸けてあなた方をシャマタルへ送ります」

「……選択肢は無さそうだな。正直、教会の追手がいつ来るか分からず、動けずにいたんだ。いつもなら頼もしい奴が半死人になっているいるしな。だが、その情報を聞けば覚醒するかもしれない」

「分かりました。私たちは麓の村で待ちます。もし、私たちが信用できなければ、逃げてもらっても構いません」

 ゴルズとトーラスは傭兵団をまとめて引き上げていく。

「信用できますか?」

「出来る。もし、俺たちにかけられた懸賞金が目的ならこんな回りくどいことはしない」

「なら、問題は一つだけですね」

「ああ」と言い、グリフィードは洞窟の中に戻る。ローザも続いた。

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