隠れ屋
今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。
『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
連投になってしまいますが、すぐにもう一話、投稿します。
ご了承ください。
神都『アニエピア』脱出した三人は逃げ続けていた。
「これからどうしますか? 物資を調達したくてもローエス神国内では危ないですよね」
ローザが言う。
「いったんベルガン大王国の隠れ屋に行こうと思います」
「隠れ屋?」
「俺たちがベルガン大王国で活動していた頃の拠点だ。何かの為に少しの物資を置いていったはずだ」
「でも、まだ距離があります。慎重に動きましょう」
ルピンたちはその日から昼間に休み。夜、行動するようになった。
「なぁ、薪を集めるのが面倒だからその本を燃やさないか?」
グリフィードがルピンの鞄を指さした。
「もし一冊でも燃やしたら、あなたを殺しますからね」
ルピンは鞄を抱き抱え、グリフィードに本気の殺意を向ける。
「お前、まだ本の中身を確認していないのか?」
「ええ、今読むと本の内容ばかり気になりそうですから」
「もしかしたら、明日にも俺たちはあの戦乙女に捕捉されて、殺されるかもしれないから未練は残さない方が良いぞ」
「生憎、私にはまだ未練がたくさんあります。死ぬ予定はありません」
オルーバー川沿いを目印に三人はベルガン大王国に向かう。
三人は体も服もボロボロだった。グリフィードとローザの傷口は化膿していた。体力は日に日に減少していく。
今の三人に大型の獣を狩る力はない。何とか捕獲した小動物や蛇、虫の類を食べてどうにか体力を維持する。
三人は二十日間、移動を続け、やっと国境を越えた。
人目を避け、森の中を進んだので、体力の減りは激しかった。
ベルガン大王国領に入って五日、ついにルピンたちは隠れ屋に到着する。
「隠れ屋って、洞窟じゃないですか…………」
ローザは呟く。
「そうですよ。わざわざ家を建てたのだと思いましたか。ちょっと中を確認してきますね」
ルピンはそれだけ言うと洞窟の中に入っていく。少ししてルピンは帰ってきた。
「大丈夫そうですね。人が来たら、分かるように罠を仕掛けて置いたのですが、作動していませんでしたから」
三人は洞窟の中に入る。先に入ったルピンがランプを置いていたので中は明るかった。
「何もないじゃないですか」
「見えるところに置いていませんよ」
ルピンは地面を掘り始めた。地面はとても柔らかかった。
しばらく掘り進めると木箱が出てきた。
それを開けると保存食と酒、少しの宝石と布や紙などが入っていた。
「お酒を入れておいて良かったです」
「そうだな、一杯やるか」
「そのためのお酒じゃないです。二人とも傷口を見せてください。これ以上放置すると腕を切り落とすことになりますよ」
ルピンは二人の傷口を手当てする。
「二人は休んでいてください。森と近くの川に獲物を捕るための罠を作ってきます」
ここ数日、一番働いているのはルピンだった。
「グリフィード君、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。だが今回は本当に疲れた。正直、死んだと思ったよ。戦乙女、何なのがローエス神国には一体どれだけいるんだ?」
「分かりません。でも、多くはないと思います。戦乙女になる為に人を超える修練が必要だと聞いています」
「人を辞める修練の間違いじゃないのか。あの葉巻の嫌な臭い。あれはクロキシル麻薬が入っている。それを少し吸ったせいで斬られたはずなのに痛みをあまり感じなかった。あんなものを使った戦いをしている奴らが寿命を全うできるとは思えない。いや、狂信者はそれを奉仕と思って喜んで命すら投げ出すのか。昔からあの国は嫌だったが、今回の件でより一層嫌いになったよ」
「ルピンちゃんはどうするつもりなんでしょうか? ローエス神国の毒牙は恐らく大陸中に伸びでいます」
「ローザさんは何か誤解しているな。あいつはただ自分の過去を知りたいだけだ。大陸の為にローエス神国とこれ以上、対峙するようなことはしないだろう。あいつは無駄な労力を嫌うからな。だが、もし、あいつが一国なんて大きな相手と対峙するとしたら、自分の大切な者の為だろうな。あいつはあれでかなり純粋なんだよ。…………すまない。ちょっと寝ていいか?」
「どうぞ、見張りは私がやっておきます」
それから一週間、三人は体力の回復に努めた。ルピンは森で食べられる食物や薬草を採取して、ローザは森で狩りをした。
だが、グリフィードはほとんど動けなかった。今回の戦いで一番深手を負ったのはグリフィードだった。治療が遅れたこともあり、グリフィードの左腕は壊死寸前だった。腕の傷はルピンの必死の治療で塞がったが、その後は発熱に苦しみ、ほとんど食事が出来なくなった。
ルピンは木の実などを細かく砕き、水に溶かしてグリフィードに飲ませた。
「こんなに弱ったあなたを見るのは初めてです」
「今までだって苦しいことはあったさ。倒れなかっただけだ。団長が立っていなかったら、団員が不安になるだろ。だが、今の俺は年少者らしい年上の素晴らしい女性二人に看病してもらえるんだ。だから、わざとこうしているんだよ」
「まったくまたやせ我慢を…………ねぇ、グリフィード、あなた、死んだりしませんよね?」
「どうした急に?」
グリフィードは笑った。
「いえ、ちょっと不安になって…………」
「大丈夫だ。正直、数日前はヤバいと思ったが、今は落ち着いた。まだ当分、動けないだろうけどな」
「今は休みましょう。時間はありますから」
二人が会話をしているとローザが戻ってきた。
「あれ、お邪魔でしたか?」
ローザは気まずそうに言った。
「そんなことはありませんよ。首尾はどうですか?」
「上々です。冬も近いこの時期、食料は貴重でしょうから」
ローザは罠にかかっていた猪の子供を解体し、麓の村に物々交換に行ったのだ。素性を怪しまれる危険性はあったが、洞窟に籠っているだけでは物資が足りない。
「それは良かったです。とにかく服です。もうボロボロでしたから」
ルピンも服は穴だらけだった。これは過酷な移動のせいもあったが、もう一つの原因はローザの服の修繕にルピンの衣服の布を使ったからである。
「申し訳ありませんでしたね」
「別にあなたの為ではありませんよ。あまりボロボロの服じゃ村人だって不信感を増すでしょうから」
ルピンはやっと気を緩めることが出来た。
物資はそれなりに手に入った。グリフィードが回復したら、シャマタルへ戻ろうと考えた。森に籠っているせいで大陸の状況が分からないが、シャマタル独立同盟もこの激流に巻き込まれる気はしていた。そして、そうなった時、誰が先頭に立つかも予想できる。
「さて、明日から本を読み始めますか」
ルピンは命がけで回収した本をやっと読み始める気になった。
だが、本の内容はルピンの予想していたようなものではなかった。
そのことがルピンを傷付けることになる。