ローエス神国国立中央図書館
今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。
『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
時は戻り、中央図書館。
ルピンは図書館に入ることに成功する。
二十年ぶりだったので、警備に変化があるかと少し心配だったが、それは杞憂だった。
「改めて見るとすごいですね」
本棚には紙の本がびっしりと並べられている。
ローエス神国は約百五十年前に紙の効率のいい製造方法を発明した。今ではその技術が大陸各地に広がり、紙の単価は下がった。それ以前は木や竹、動物の皮に文字を書いていた。
紙の登場が大陸全体の技術向上に大きく貢献したのは間違いない。
「でも今思うと独占できたはずの技術を各国に渡したのはなぜでしょう?」
ルピンが適当な本を見ながら、そんなことを考えていると
「君、ちょっといいかな?」
衛兵に声をかけられた。
「はい?」
ルピンは少し幼げに答えた。
「いや、見ない顔だと思ってね。どこから来たのかな?」
衛兵はルピンを疑っているわけでもなく、本当に見かけない子供がいたので声を掛けただけだった。
ルピンもそれをすぐに理解し、
「お父さんとお母さんが商人なんだけど、商談の邪魔をしちゃいけないからここに来たの。この図書館は有名だから」
なるべく子供っぽく振舞った。
「そうか、そうか! その年で素晴らしい」
衛兵は声を張った。辺り注目が集める。ルピンは嫌だと思った。
「どんな本が好きだい? 良かったら、私が案内しよう」
「えっ、あっ、その…………」
ルピンは面倒だと思い、上手い断り方を考える。
「何をしているのですか。オヌフェデ」
その声にオヌフェデと呼ばれた衛兵は反応し、表情には緊張が浮かんだ。
「マリスエ様……?」
そう呼ばれた女性はオヌフェデより若かった。年はルピンの目から見るに二十代半ばと言ったところである。頭の上から足先まで修道服でだった。唯一見える肌は顔だけで、その顔も目には目隠しをしていた為、表情がつかめない。
「ごめんね、お嬢ちゃん、この眼、ちょっと見苦しいからこれを巻いているの」
ルピンは何か伝染病で失明してしまったのだと思った。
「ううん、大丈夫、でも、目が見えないと大変じゃない?」
「見えないわけじゃないんです。けど、見苦しいから人前ではこうしているの。それよりも衛兵がこんなところでサボってちゃ駄目でしょ」
マリスエの口元は微かに笑った。
「し、失礼しました!」
マリスエに言われたオヌフェデは急いでその場を立ち去った。
その様子が見るに目の前のマリスエという女性がかなり高位なのだと理解できた。
「ごめんなさいね。彼は悪い人ではないのだけれど、本が好きすぎるの。希望を出して、図書館の衛兵になるぐらいに」
マリスエはルピンに近づく。
今度はこの人をやり過ごさないと、とルピンが考えていると。
「では、私はこれで」
マリスエはあっさりと話を切り上げてしまった。
少し驚くがこれ幸いとルピンもその場を立ち去った。
ルピンが図書館内部を調べている頃、グリフィードとローザの二人は悪臭に耐えながら地下の探索をしていた。
「これは下水の臭いだけじゃないな。ネズミの糞尿、それに死骸の臭いだ」
グリフィードとローザは口と鼻を布で覆っていたが、それだけでは臭いを遮断できなかった。
「ローザさん、あんたは平気か?」
「ええ、何とか」
とは言ったもののローザは渋い顔をする。
「出来るだけ早く出たいものだな。それにしても輝光石をこんな風に使うとはもったいない」
グリフィードは間隔を置いて小さい輝光石を置いていく。帰り道の確保の為だった。
二人は図書館周辺の地下道を回り、どこかに侵入経路が無いかを探索する。
「俺は下水道から侵入して汚物まみれになるのは嫌だぞ。もし、ルピンがそれを考えているなら、あいつ一人にやってもらおう。あいつの体なら下水道の中にも入れるだろ?」
「それは可哀そうですね…………んっ? ちょっと待ってください」
「どうした?」
「風を感じます…………多分こっちです」
ローザに言われてグリフィードの後を追う。
「この先ですね」
「本当だ、俺にも分かるぞ。だが、この先にどうやって進む? 壊してみるか?」
「それはルピンさんに判断を任せましょう。私たちはここまで来れるように目印を残して地下から出ましょう。成果がゼロってわけではありませんから、今日はこれで引き上げませんか。これ以上ここにいると臭いが一生落ちなくなりそうです」
「俺も同じ気持ちだ」
二人が地下から出た時、時刻を夕刻だった。
人目を避けて裏路地に入り、そこで用意していた消臭剤を体に吹き掛ける。
「本当に臭いが取れたか分からないな、鼻が麻痺している」
「私もです」とローザは返した。
その日の夜、三人はお互いの調べたことを共有する。
「図書館近くに不自然な風が吹き抜ける壁があったぞ」
グリフィードが報告する。
「そうですか、それは図書館に繋がっている可能性がありますね」
「どうしてそう思う?」
「ローエス神国の地下の下水道は緊急時の脱出経路にもなるんですよ。だから、重要施設に繋がる道があると思っていました。図書館の方は別に警備が厳重というわけではなさそうです。番犬の類がいる様子もありませんでした」
「まぁ、金庫とか宝石みたいな金目の物があるわけじゃなないからな」
グリフィードは笑う。
「書物は人類にとっても最も偉大な資産ですよ」
ルピンはムッとして答えた。
「人が何を大切にするかはそれぞれ違うでしょう。どうします? 明日にでも忍び込みますか?」
ローザの問いに対してルピンは、
「もう少しだけ調べたいです」
「図書館をか?」とグリフィードが尋ねる。
「いえ、調べるのは地下道です。地下から逃げることになる時の逃走経路も考えておきたいですから」
「あまり入りたくないが、それは同意だな