回想録~ランオ平原会戦~(前編)
お久しぶりです。
今回の連続投稿で『解明編』を完結させます。
『解明編』完結まで毎日22:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
今回のお話は外伝『旅行編』続きとなります。
投稿したのがかなり昔だったので、ここであらすじだけ書かせていただきます。
あらすじ
シャマタル独立同盟を出たルピンとグリフィードはローエス神国を目指す。目的地である『始まりの洞窟』へ到着した二人は隙を見て、始まりの洞窟の最深部まで潜入し、そこでローエス神国がクロキシル麻薬を製造していたことに気が付く。一度、ローエス神国を脱出した二人は元神兵のローザを仲間に加えて、再度ローエス神国へ侵入する機会を伺う。そして、大陸大戦を始まった隙をついて、再びローエス神国へ潜入した。
ざっくり書くとこんな感じだと思います。詳細に関しては『旅行編』を読んで頂けると幸いです。
それでは改めてよろしくお願いします。
『シャマタル歴一五年』
この年、シャマタル独立同盟軍は建国以来の窮地に陥っていた。
フェーザ連邦の侵攻である。
シャマタル独立同盟軍はイムレッヤ帝国とフェーザ連邦という二大大国を相手に戦をしなければいけなくなった。
すでにアレクビューとフィラックはファイーズ要塞に着任し、イムレッヤ帝国軍の迎撃に当たっている。
対フェーザ連邦戦線の総大将になったのはボスリュー・グーエンキムだった。
侵攻してきたフェーザ連邦軍とはすでに三度の戦いになっていた。
規模は大きくなかったが、三つの戦いはカリンの率いる『赤の騎兵連隊』の活躍で全て勝利していた。
この事態にフェーザ連邦三国連合軍は大兵力を集結させる。
対するボスリューも〝決戦近し〟と判断した。シャマタル独立同盟軍はランオ平原を決戦の地と決め、麾下の軍と各連隊を集結させる。
ランオ平原に集結したシャマタル独立同盟軍はカリンの第一連隊、デリックの第三連隊、カーコープの第五連隊、リスリックの第六連隊、ファーリンの第十連隊。
五個連隊二万五千。さらにボスリューも自ら五千の兵力を率いていた。
「敵は五万。こちらは三万。兵力差二万。君はこの兵力差をどうやって埋める?」
アレクビューの息子で、参謀として戦いに参加しているドワリオが言う。
「簡単です」とカリンは笑った。
「一人が二人を倒せばいいのです」
ドヤ顔で言い切った。
周囲は沈黙する。
「…………ボスリューさん、本当にこんなやつを連隊長にして大丈夫なのか?」
ドワリオは呆れ顔で言った。
「自分の妻をこんな奴って酷くないですか! 叔父様、私、何か間違ってます?」
「お前は間違っていない」
ボスリューは即答した。
カリンは勝ち誇ったようにドワリオを見た。
「間違ったのは教育方針だ。もっと用兵の基礎を学ばせるべきだった。それをしなかったから、こんな馬鹿になってしまった」
ボスリューは本気で後悔した声で言う。
「叔父様、今、はっきりと馬鹿って言いました!?」
カリンたちのやり取りを見て、各連隊長たちは笑う。
劣勢だというのに悲壮感はまったくなかった。
「なぁ、バカリン」
「なんですか、私の旦那様」
「とりあえず、胸倉を掴むのをやめてくれ」
「なら、バカリンなんて言わないでください」
「バカカリンって言うと噛みそうなんだ」
「馬鹿って言わないでください! いえ、自覚はありますけど!」
自他ともに「馬鹿」と認めるカリンだが、指揮官として能力は天才的だった。
カリンは決して七光りで連隊長になったわけではない。ここまでのフェーザ連邦との戦いもカリンの奮戦があったからこそ、大勝している。
カリンのシャマタル独立同盟軍第一連隊は別名『赤の騎兵連隊』と呼ばれていた。文字通り赤一色の連隊で戦場に現れれば、敵の戦意を削ぎ、味方の指揮を上昇させる。
カリンは十五歳で初陣してから連戦連勝だった。シャマタル独立同盟の次世代の筆頭であることは誰も疑っていなかった。
「カリン、あまり前に出すぎるな」
軍議が終わった後、カリンは最前線でフェーザ連邦軍の動向を観察していた。
「ドワリオ、この戦、勝てますよ。フェーザ連邦軍は動きが悪いです。布陣に時間がかかり過ぎています」
「フェーザ連邦内で俺たちの味方をしてくれているゼピュノーラ王国のグヒル・ゼピュノーラ様から情報は貰っている。今回の出兵は三国の独断らしい。アスバハ公国・ピュシア王国・カデュパフ王国は私利私欲の領土拡大の為にシャマタルに攻め込んだ。一枚岩というわけにはいかないだろう」
「それだけではないのでしょ? あなたが何かやったのでは?」
「大したことはしていない。ピュシア王国の捕虜を帰してやった」
「?」
カリンはドワリオの思惑が分からずに難しい表情をする。
ドワリオは小馬鹿した笑いを浮かべる。
「殴りますよ」
「悪い悪い」
「私にも分かるように説明してください」
「一国の捕虜を帰し、二国の捕虜は返さなかった。アスバハ公国とカデュパフ王国からすれば、ピュシア王国が俺たちと何か取引をしたと思うだろ? 元々、信頼関係などない奴らだからな」
「なるほど。もう内部からボロボロになっているわけですね」
戦場での働きが得意なカリンとは対照的にドワリオは計略を得意としていた。武術は苦手だった。ドワリオは父、アレクビューのように体格には恵まれなかった。細く、肌は白い。母、ハイネの血を色濃く受け継いでいた。
前衛の妻カリン。
後衛の夫ドワリオ。
この二人が今回の戦いの中心にいた。
「ここで勝てば、もう戦う余力などないだろうな…………カリン?」
ドワリオの声が低くなる。
「なんですか?」
「今からでも遅くない。今回の戦いから身を退いてくれないか?」
ドワリオの突然の提案にカリンは驚き、そして怒りで顔を赤くした。
「私は馬鹿と言われても本気で怒ったりはしません。しかし、今の発言は本気で怒ります。私では力不足だというのですか? あなたの並び立つのに相応しくないですか?」
カリンは静かに言う。
「そういうわけじゃない。だが、妻の身を心配する夫の気持ちを分かってほしい」
「分かっています。ならば、夫の身を心配する妻の気持ちが分からないわけではないですよね? 万が一、私が不参加で戦いに負け、あなたが戦死するようなことがあれば、私は自殺します。私はお前様と共に生き、共に死にたいのです」
「カリン…………」
「心配しないでください。私の予定だと後五〇年は死ぬ予定がありません。それまでは付き合ってもらいますよ。だから、そんな弱気な発言はしないでください。それとも負ける要素があるのですか?」
「それはない。この戦は俺たちが勝つ」
「なら、私を不安にさせないでください。あなたは参謀、私は指揮官、互いに自分の責務を全うしようじゃありませんか」
カリンはドワリオに抱き着いた。
「あなたと一緒になったのは政略結婚などではありません。私が惚れた男がアーレ家の男だっただけのこと」
「ああ、俺も同じだ。お前のことを一番に思っている」
「ありがとうございます…………あなた?」
カリンには言うべきことがあった。
しかし、言う時期を迷っていた。
「なんだ?」
「いえ、やっぱりいいです。この戦いが終わったら、話します」
結局この日もカリンは言えなかった。
「気になるな。じゃあ、早く戦いを終わらせないとな」
カリンは初めてドワリオに隠し事をしていた。
フェーザ連邦陣営。
数で勝るフェーザ連邦であるが、その内情はあまり良い状態とは言えなかった。
連戦連敗に加え、ピュシア王国の捕虜だけ解放されたことでアスバハ公国とカディバフ王国は不信感を持っていた。ドワリオの計略は見事に成功していた。
「明日の先鋒はピュシア王国軍に行ってもらう」
フェーザ連邦三国連合軍のアスバハ公国の総大将を務めるテンツィー将軍が言った。テンツィーは全軍の総司令官も担っている。
「なっ!? 我らだけでは一万五千。シャマタルの半数だ!」
声を上げたのはピュシア王国軍総大将のヘルガーミュ将軍だった。
「心配せずともお前たちが裏切っていないと分かったら、我らも参戦する」
「なんだと!」
ヘルガーミュは立ち上がった。
「二人ともやめないか!」
エルマル将軍が二人を止めに入った。彼はカディバフ王国の司令官である。
「我らがこのような状態では兵たちが不安になる。もし、これ以上無駄な言い合いをするなら、私は本国に帰らせてもらう」
エルマル将軍が言葉に二人は黙り込んだ。
三人の将軍の中で最も華々しい戦歴を持っているのはエルマル将軍である。
イムレッヤ帝国やベルガン大王国との戦いで大きくの戦果を挙げている。
エルマル将軍は元々この戦争に乗り気ではなかった。
これは明らかな侵略戦争であり、建国の大英雄『リウス・ラグーン』の理念から外れている。カディバフ王からの勅命なので出兵したが、この戦いには疑問を持っていた。
二人が黙っているのを見るとエルマルは大きく息を吸った。
「では、軍議を続けよう」
それでもエルマルは戦う以上、勝つことを考える。
「兵力では我らが有利だ。しかし、シャマタル独立同盟は簡単な敵ではない。連携し、総力戦で勝つ」
結局、フェーザ連邦は中央にアスバハ公国、左翼にピュシア王国、右翼にカデュパフ王国が布陣することとなった。
シャマタル独立同盟史に語り継がれることになる『ランオ平原会戦』が開幕する。
改めて、初めましての方、お久しぶりの方、楊泰隆Jrと申します。
投稿を再開するにあたって、書きたいことがあったので、書かせていただきます。小説の内容とは一切関係ないので、スルーして頂いても大丈夫です。少し砕けた文章になることをご了承の上で後書きを読んで頂けると幸いです。
雄飛編を書き終えた後、実はあまり小説を書けていなかったんですよね(汗)
仕事が忙しくて、休みの日も何もやる気が起きず百文字くらい書いたら、力尽きいるみたいな感じで…………
明日から再開しよう。今度の休みから再開しよう、と思っていたら、四か月以上放置していました。
そんな状態の日々だったのに一気に一章分を書き終えることが出来ました。
理由はすごく簡単です。
感想が書かれていたからです。
小説を投稿していないのに「なぜ感想が?」と不思議に思いながら確認しました。感想の中身は、恐らく物語を作っている方々なら言われてテンションが上がる言葉だと思います。
感想には「再開が待ち遠しい」と短い文章が書かれていました。
なんだそれだけ? と思う方もいるかもしれません。けれど物語を作っている方からすれば、とてもうれしく、やる気の出る言葉だと思います。
私は結構、単純な性格のようで感想を書かれた次の休日で一章分をほとんど書き終えてしまいました。
不定期で、しかもあまり上手くない文章の私の物語に感想をくださった方、そして貴重な時間を使って私の小説を読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。