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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
165/184

奴隷姫ユリアーナ・ゼピュノーラ

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 ガンルレック要塞、シャマタル独立同盟宿舎。

 ここにもビリエ要塞陥落の報せが届いた。

「それは本当ですか?」

 リョウが聞き返す。

「残念ながら、本当のようね。この戦争、まだ終わらないみたいよ」

 カタイン直々に報告に来た。

 少しだけ体力が回復したクラナを始め、シャマタル独立同盟の指揮官が集まっていた。

「私たちは明日出発するわ。あなたたちはどうするのかしら?」

「今の状態では戦えません。私の体調の回復、それとシャマタル本土からの援軍が来てから動くことになると思います」

「まぁ、それが妥当でしょうね。ゆっくりでいいわよ。でも、戦勝の集まりには間に合うように来なさいね」

「それは肩身が狭そうなので決戦が始まる前には到着できるように努力します」

「頼もしいわね。あっ、それからゼピュノーラ姫、ちょっとこっちに来なさい」

「? はい」

 ユリアーナはカタインの前に出る。

「後ろを向きなさい」

「な、何ですか?」

 ユリアーナは困惑しながらも後ろを向いた。

 その瞬間、カチッとユリアーナの首に何かが嵌められた。

「えっ? ええっ!?」

「やっぱり奴隷には首輪をしないとね」

 カタインは満足そうに笑う。

「ど、奴隷…………あっ!」

 ユリアーナは自分がしてしまった約束のことを思い出す。

「あ、あの、カタイン様…………」

 ユリアーナは首輪をカチャカチャと外そうとするがビクともしなかった。

「義理堅いゼピュノーラ姫に二言はないわよね?」

「うっ…………!」

「でもそうね。そっちのお嬢ちゃんたちが身代わりになってくれるなら、考えてあげてもいいわよ」

 カタインの視線がクラナとルパに向いた。

「私はごめんです。どんなことがあったのか、分かりませんけど、その人、危険な気がします」

 ルパはきっぱりと言った。

「あら、気の強い子ね」

「えっと、何があったんですか?」

 クラナは事情を聴く。

「実は…………」

 ユリアーナが説明した。

「そうだったんですか…………」

「どう、あなたが身代わりになるかしら? シャマタルの英雄を奴隷にしてみるのもゾクゾクするわ」

 この人危ないな、とその場にいた誰もが思った。グリューンでさえも。

「えっと、その…………」

「よく考えるとゼピュノーラ姫はあなたを助けるために奴隷になると言ったのよね。そんな献身的な友人を見捨てるわけないわよね」

「そ、そうですよね…………」

 あっ、この子、これ以上、押されたら了解しちゃう、と察するユリアーナ。

 あら、この子、気を張ってない時は押しに弱いわね、と不敵に笑うカタイン。

 二人は視線が合った。

 ユリアーナはカタインの猛禽類に瞳に似た輝きにゾワッとした。

「分かった、分かりました! やってやろうじゃないのよ、奴隷!」

 ユリアーナは半ばやけくそで言った。

「じゃあ、今晩、、私の部屋に来なさい」

「戦奴としての扱いを希望します。お願いします!」

 ユリアーナは涙ながらに訴えた。



 その晩。

「本当に逃げたい…………」

 カタインの部屋の前に立っていた。

「いるのは分かっているわよ」

「!?」

 部屋の中からカタインの声がした。

「早く入りなさい」

「はい…………」

 ユリアーナは部屋の中に入る。

「どう、その首輪、苦しくないかしら?」

「…………大丈夫です」

「良かったわ。さて、お酒でも飲みましょうか」

「…………はい」

 カタインは優しい笑みを浮かべる。

「そんな怯えなくてもいいわよ。私はあなたとお酒を飲んで、話がしたいだけなのよ」

「えっ?」

「あのね、私も女なの。それに酷い目にも遭ってきた。あなたがその気ならともかく、望まないなら私はあなたに何もしないわ」

「私が奴隷でもですか?」

「あなたが奴隷でもよ。それにこの戦いが終わったら、あなたをシャマタルにあなたを帰すつもりよ」

「どういうことですか?」

「とりあえず、ね」

 カタインはユリアーナに盃を渡した。

 ユリアーナはそれを受け取り、カタインが酒を注ぐ。

 それが終わると今度はユリアーナがカタインの盃に酒を注いだ。

「私とあなたの出会いに乾杯」

 カタインは最初の一杯を一気に飲み干した。

「今後の戦いで私たちは共闘することになる。だから、シャマタルの動きを、あの坊やの動きを理解できている人間を傍に置きたかったのよ。ここまでは失態続きだけど、あの坊やの実力はあんなものじゃないでしょ? あの程度ならフォデュース様が負けるなんてことはなかった」

「私じゃリョウの思考を正確に読めませんよ。もし、合わせられるとしたらルピンぐらいです」

「別にあなただけにそれを求めないわ。私だって考える。でも、補佐が欲しいのよ。私を助けてくるかしら?」

「何ができるか分かりませんが、微力を尽くします」

 ユリアーナも酒を一気に飲み干す。

「いい飲みっぷりね。さぁ、もう一杯」

 その日、ユリアーナはカタインに付き合い、遅くまで酒を飲んだ。

 カタインは宣言通り、それ以上のことはしてこなかった。


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