ガンルレック要塞司令官シュタット
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
シュタット司令官の臨時執務室。
「すいません……あなたのことをお呼びして……」
シュタットは頭を下げた。顔には血の気がなく、呼吸が異常に荒かった。
「別にいいわよ。元気そう、ではないわね」
カタインはシュタットの命が尽きかけていることを悟る。
「戦場ではまだ元気そうだったけど?」
「それはこれのおかげです」
シュタットはルパから貰った薬を見せた。
「これは薬? それとも麻薬?」
「調合した本人曰く、最期を穏やかにする薬だそうです。確かに私はこの二日間、痛みから解放された。だから、動くことが出来た」
「結果的にあなたは寿命を縮めたわね。後悔はないのかしら?」
「後悔すべきことなど何もありません。それに戦場に戻った時、私は英雄を見ましたよ」
「英雄? クラナ・ネジエニグのことかしら?」
シュタットは「はい」と答える。
直後、シュタットは吐血した。
「薬、飲んだ方が良いじゃないの?」
「もう飲んでおります。しかし、効き目は殆ど無くなりました」
「そう…………で、私を呼んだ理由は何? そんなことを言う為に呼んだわけじゃないでしょ?」
「願いが二つあります」
「私に叶えられることなら、聞くわよ」
「一つ目はルーゴン将軍の処分を考えて頂きたいのです」
「もう一つは?」
「ハウセン、私の副官をクラナ・ネジエニグの元で使っていただきたい」
「一つ目は分かるわ。別に勝ったことだし、あのフィラック・レウスからも助命嘆願が届いているわ。そんな酷い処分は下さないつもりよ。でも、もう一つの方はなぜかしら?」
「ハウセンは恐らくネジエニグ殿に魅せられております。あのような眼をした若者を止めたくないのです」
「分かったわ。どちらも願いを叶えましょう。それにもう一つ、今回のルルハルト迎撃の功績、イムレッヤ帝国の筆頭はあなただとフォデュース様に報告するわ」
「それは恐れ多い……」
シュタットは自嘲気味に笑った。
「世辞じゃないわよ。あなたが万が一のことを考えて、このガンルレック要塞の防衛機能を強化し、食料、武器も備蓄していたからこそ私たちは戦えた。この東部でまともに機能している要塞はここだけだったわ。あなたの功績を私は高く評価する。こんな状態じゃなければ、部下に招きたいくらいよ」
カタインは最大限、シュタットを称える。
「ありがとうございます」
カタインは席を立った。
「後のことは任せなさい」
カタインは部屋を出る。
カタインと入れ違いでシュタットの妻と娘が入ってきた。
入り口で両者はお互いに頭を下げた。
「あなた…………」
シュタットの妻がシュタットの手を握った。
「お前たち…………私は幸せ者だな。戦に勝ち、家族に看取られ、死ねるのだから…………」
「お父様…………」
「泣くな。お前の父親はあのラングラムに勝ったと。お前が結婚する時、自慢してやれ」
シュタットは人生最後の時間を家族と過ごす。
凶報がクラナたちの元に届いたのは次の日だった。
「シュタット司令官が亡くなったのですか?」
報告に来たのはハウセンだった。
「最期は家族と静かに過ごしたそうです。時期も時期なので葬儀は密葬になります」
「そうですか……」
クラナはシュタットと長い時間を話したことはなかった。
しかし、シュタットが居たからこそ、クラナは全軍の指揮ができ、結果、ルルハルトに対して一丸になることが出来た。
シャマタル独立同盟軍からはフィラックだけ葬儀に出席した。
リョウは暗い表情になった。
「リョウさん、シュタット司令官が亡くなったことに責任を感じていますよね?」
クラナははっきり指摘した。
リョウは無言で頷いた。
「リョウさんだって全能じゃないんです。だから、気負い過ぎないでください。シュタット司令官を守れなかったことに関してはガンルレック要塞で戦った全ての者たちに責任があるはずです」
クラナはそこまで真面目な表情で言うと最後に苦笑し、「偉そうでしたよね」と付け加えた。
「君は本当に頼もしくなったね」
「私は自覚ないんですけど……これからどうしましょう?」
クラナは久しぶりにこのような投げかけをリョウにした。
「大陸連合軍にとってのルルハルトの動きがどんな立ち位置だったで動きが変わると思う。この作戦がこの戦争の切り札だったのなら、失敗した時点で大陸連合軍は解散し、イムレッヤ帝国にとっての脅威はなくなる。これが一つの作戦に過ぎないのなら、次の作戦が待っているはずだ。正直、今の所、何とも言えない。それにこれ以上、僕らが戦うの困難だ」
シャマタル独立同盟軍の死者は五百名弱、三千の全軍、その六分の一が喪失し、戦線復帰困難な重症者は五百人以上いる。すでにシャマタル独立同盟の兵力は二千を切っていた。
「今回の戦いでイムレッヤ帝国への義理は果たしたし、戦線離脱しても責められないと思うけど…………」
リョウはめんどくさそうに頭を掻いた。
それを見るとクラナは安心する。
「まだ波乱がある気がする。今回の大陸連合で乗り気じゃないのはベルガン大王国だけだ。フェーザ連邦やローエス神国は何かを隠している。それにリテリューン皇国軍本隊だってまだ健在だ」
「一度、シャマタルの首都に援軍の要請をしてみますね」
「うん、それが良いと思う」
リョウたちは次の展開の為に準備を進める。