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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
162/184

部屋の外

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 リョウとクラナの泣く声は部屋の外にまで響いていた。

「司令官のあんな声、兵士たちには聞かせるわけにはいきませんね」

 ユリアーナは苦笑する。結局、二人のことが気になって戻ってきてしまった。

「クラナ様があそこまで感情を表に出すようになるとは思わなかった」

 フィラックが言う。

「フィラックさん、確か謹慎中では?」

「宿舎から出ていないから問題あるまい」

「…………フィラックさんも随分と変わりましたね」

 ユリアーナはからかうように言った。

「盗み聞きは関心しませんね」

 アーサーンが加わる。

「あなたも同じようなものじゃない?」

「否定はできません。ところでこういったものがあるのですが、どうでしょうか?」

 アーサーンは葡萄酒を持っていた。

「葡萄酒だけ? しかも、ここ、廊下よ」

「不満ですか?」

「いいえ、いただくわ。やっと気を抜いてお酒が飲めるもの」

「フィラック様はどうですか?」

「頂こう」

 アーサーンは三つの盃に葡萄酒を注いだ。


「シャマタルの勝利に」とアーサーン。

「生きていることに」とユリアーナ。

「若い二人の成長に」とフィラック。


 それぞれ別のことを口にし、盃をぶつけた。

 ユリアーナとフィラックは葡萄酒を飲んだ。

 直後、ユリアーナは顔を歪めた。

「渋すぎない?」

「おかしいですね? 本人は気付かれないように飲ませるために味を工夫した、と言っていたのですが……」

「えっ!?」

「なに?」

 アーサーンは葡萄酒を飲んでいなかった。

 直後にユリアーナとフィラックは体の痺れに襲われる。

「ど、どういうつもりかしら?」

「どういうつもりだ?」

 ユリアーナとフィラックはアーサーンを睨みつけた。

「いえ、これは契約でして」

 アーサーンは涼しい顔で言う。

「契約? 誰とのよ?」

「私ですよ」

 声は後ろからした。

「まったくユリアーナさん、父さんも子供じゃないんですから、ちゃんと治療を受けてください。う~~ん、無味無臭というのは難しいですね。もっと改良が必要ですね」

 ルパだった。

「ル、ルパちゃん!? ちょっと待って! そうだ、私は頑丈だから大丈夫! フィラックさんは高齢だし、優先的に治療すべきよ!」

「いやいや、私はまだ若い。それよりも女性の方が繊細なはずだ。ユリアーナ殿から治療をしてもらった方が良い」

「フィラックさん!?」

「父さん、娘の好意を無下にするなんて酷いですね」

「私はたまに自分の娘が恐ろしい…………」

 フィラックはルパから視線を逸らした。

「大丈夫、二人同時に診てあげますよ。アーサーン様、二人が逃げられないように縛ってください」

「了解した」

「アーサーン、あんた、私が回復したら、覚えておきなさいよ」

「アーサーン殿、あなたに裏切られるのはこれで二回目だ」

「私は治療の協力をしているだけです」

 ユリアーナとフィラックはアーサーンに敵意を向けるが、アーサーンは淡々と二人を縛りあげた。

「さて、行きますか。隣の部屋に準備は出来ています」

「処刑のかしら!? まさか三日連続で縛られるなんて、本当の本当に思わなかったわよ!」

 二人はルパの拷問…………ではなく、治療を受ける。

「あんた、私を殺す気!? 沁みる! 体が熱い! 痒い! あれ!? 今度は寒い?」

 ユリアーナは騒ぐ。

 隣ではフィラックが苦悶の表情になっていた。

「うるさいですね。まぁ、そうやって騒げるのは生きている証ですよ…………もう生きることのできない人もいるのですから…………」

 後半の言葉はとても小さい声になった。


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