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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
160/184

ガンルレック要塞攻防戦最終日④~戦場に勝者の勝鬨無し~

「動ける者は重傷者の手当てをしなさい!」

 カタインが声を張り、戦後処理に努める。

「あら、あの子ったら、何をしているのかしら?」

 カタインの声に溜息が混じった。

 その視線の先には足を引きずる兵士に肩を貸すリョウの姿があった。

「ちょっと、いいかしら?」

 カタインはリョウに話しかける。

「あなたはこんなところで何をしているの?」

「怪我人の手助けを…………」

「それはあなたにしか出来ないこと? あなたにはやるべきことがあるでしょ?」

「………………」

 カタインはリョウが肩を貸していた兵士の腕を引っ張った。

「ここはいいから早く行きなさい」

「…………ありがとうございます」

 リョウは走ってシャマタル独立同盟軍の方へ向かった。

「さて、行くわよ」

 リョウに代わって、カタインが負傷した兵士に肩を貸す。

「そ、そんな恐れ多いです! 自分で歩けます!」

 兵士は慌てて、断るがカタインは不敵に笑った。

「あら、私の善意を断るなんて、私に恥をかかせたいのかしら?」

 カタインは兵士の腕を放さなかった。

「め、滅相もない!」

「なら、素直に肩を貸されてなさい」

 カタインに肩を貸してもらった兵士は全快した後、仲間から罵倒を受けることになる。

「なんでお前だけカタイン様に看護されているんだ! 羨ましい!!」と。



 リョウは戦場を駆け抜けて、シャマタル独立同盟の本営と合流する。

「クラナ! クラナ! どこにいるんだい!?」

 リョウは叫んだ。

「リョウさん…………? 幻聴じゃないですよね?」

「私にも聞こえていますから、幻聴じゃないですよ」

 ルパが言う。

「馬から降りられますか?」

 クラナは返答しなかった。

「ユリアーナさん、クラナ様を馬から降ろしてあげてください」

「分かったわ」と言って、ユリアーナはクラナを補助する。

「肩、貸しますね」

「ありがとうございます…………」

「リョウ、こっちよ!」

 ユリアーナが叫んだ。

 リョウとクラナ、二人の再会の為に兵士たちは道を作った。

 二人は互いを確認する。

 リョウとクラナは十三日ぶりの再会だった。

「クラナ!」

「リョウさん…………」

 リョウは駆け足で、クラナはユリアーナに支えられてゆっくり歩み寄る。

「クラナ様、ここからは一人で行けますか?」

「大丈夫です…………」

 クラナは一人で歩き始めた。

 居合わせた誰もが二人の再会を見守る。


 ――――リョウとクラナ、互いの手が届く寸前だった。

「あれ…………?」

 クラナは急に視界が暗くなった。


 ドサッという音と共にクラナが崩れ落ちた。

「ルパちゃん!」

 ユリアーナはすぐに叫んだ。

 ルパもすぐに理解し、駆け付ける。

「当然の結果ですね。リョウさんに会えてホッとしたんでしょう。クラナ様の体はとっくに限界を超えています…………」

 ルパはいくつかの薬を取り出し、クラナの治療を始める。

 リョウは呆然と見ていた。

「リョウ殿、クラナ様の近くに…………」

 騒ぎに気が付き、フィラックも駆けつけた。

 少し遅れてアーサーンも到着する。

「フィラックさん…………あなたが行ってあげてください」

 リョウは情けない声で言う。

「僕にはその資格がない。クラナやみんなに蔑ろにして、ルルハルトの策に嵌って…………それに比べて、クラナは立派です。僕なんかがいなくても立派に戦い抜いた。ルルハルトに勝ったのはクラナです。クラナにとっても僕なんて必要ないかもしれない」

「リョウ、お前、何を…………」とアーサーン。

「リョウ、あんたね…………」とユリアーナ。

 二人が叱責しようとした時だった。

 フィラックが「失礼する」と言い、リョウに迫った。そして、リョウの頬を思いっきり殴り飛ばした。

 その光景に全員が唖然とする。

 殴られ、脳が震えて立てないリョウにフィラックが再び迫り、胸倉を掴む。

「クラナ様が何を支えにラングラムと戦ったか、分かるか?」

 フィラックの迫力に兵士の誰もが、ユリアーナやアーサーンですら口を出せなかった。

「リョウ殿はクラナ様を選んだ。クラナ様はリョウ殿を選んだ。簡単に離れようとするな! もし、クラナ様に申し訳ない、そう思うなら、もう離すな!」

 フィラックはリョウから手を放す。大きく息を吸った。

「騒いでしまってすまない。先に要塞に戻り、謹慎している」

 フィラックはそう言い残すと一人で帰還する。

「リョウ、今のあなたに出来ることを教えてあげましょうか?」

 ユリアーナが言う。

「クラナ様の手を握ってあげなさい」

 リョウは半ば、引きづられる形でクラナの目前に運ばれる。

 気絶しているクラナは傷だらけだった。あまり寝ていないせいで顔は酷い状態だった。

「クラナ…………クラナ…………」

 リョウはクラナの手を握る。反応はない。

「心配しなくても命に別状はありません。それと私、あなたを殴ったことを後悔してませんし、謝るつもりもありません。次、クラナ様を悲しませたら許しませんからね」

「分かってる…………」

 戦場にやはり勝者の歓声はなかった。


本日、23:00~0:00にもう一話、投稿予定です。

時間に余裕のある方は読んで頂けると幸いです。

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