ガンルレック要塞攻防戦最終日③~二度目の邂逅~
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
リテリューン皇国軍後方。
「ユリアーナさん、ルーゴンさんは左に展開! アーサーン、グリューンさんは右に展開してください! フィラック、ハウセンさん、中央の指揮は任せます。ここでルルハルトさんを打倒します!」
クラナは叫ぶと自分の声の振動で意識を失いかけた。
「しっかりしてください。私まで落馬します」
ルパはクラナの馬の後ろに乗っていた。クラナの腰に回していた腕をギュッと絞めて、失いかけたクラナの意識を戻す。
「ルパちゃん、噛み付いてでも私を起こさせてください」
「分かっています…………」
ルパはクラナの異常に高い体温を、以上に早い鼓動を感じていた。
「ルルハルトはどこよ!?」
「ルルハルトはどこだ!?」
ルーゴンとユリアーナは吠えた。
両隊は次々にリテリューン皇国軍を敗走させていく。
「さて、乱戦なら任せてもらおうか」
グリューン隊はその強さを遺憾なく発揮し、リテリューン皇国軍を撃破していく。そして、リテリューン皇国軍がグリューン隊によって乱れたところにアーサーンが攻め込み、多大な戦果を挙げた。
「ラングラム様、要塞の奴らが攻めてきました! 我らが完全に包囲されています」
ルルハルトは「なるほど」と呟き、しばらく沈黙した。
「これが敗北か…………」
敗北、ルルハルトがその言葉を口にした時、それを聞いた兵士たちは驚く。
ルルハルトは初めての感情に襲われた。
「この戦、最も予想外だったのはリョウでも、カタインでもない」
ルルハルトの脳裏に浮かんだのは、
「クラナ・ネジエニグ…………その名前、覚えておこう。認めるしかないだろう。私はリョウを意識する余り大きな見落としをしていた。だが、次はこうはいかない。それにこの戦争は我らが勝つ」
ルルハルトは人生で初めて敗走の為に自軍を再編成した。
カタインはリテリューン皇国軍が逃げる動きをしていることを確認する。
「これだけのことをやって逃がすと思っているのかしら?」
カタインは敢えて、包囲陣に薄い部分を作った。リテリューン皇国軍がそこに殺到する。
しかし、これはカタインの罠だった。
包囲陣の出口には弓隊が待ち受けていた。
矢の雨がリテリューン皇国軍を襲う。
「ラングラムは生け捕りにしなさい。私が直接遊んであげるわ」
カタインも最前線に出る。次々にリテリューン皇国軍の兵士を切り伏せるが、一向にルルハルトらしき人物は確認できなかった。
「再後衛で味方を逃がす為に踏みとどまっている、って性格の奴じゃないわよね?」
カタインは乱戦の中にいた。
「カタイン様!」
「あら、生きていたのね、グリューン」
乱戦の中、カタインはグリューンと合流することになった。
「前に出すぎです。あなたは一軍の将なんですよ!」
「後ろで指揮するだけなんて退屈だわ。それにこうやっている方が私らしいでしょ?」
「まったく…………」
カタインとグリューンは背中を合わせる。
「後ろは任せるわよ」
「まったくこの小娘はいつになったら、成長するのやら…………」
「あら、あなたに小娘って言われるのは久しぶりね。戦奴の王様」
「ふん、そう言われるのも何年ぶりだろうな!」
グリューンは被っていた仮面を脱ぎ捨て、一人の戦士になった。
カタインとグリューンは次々にリテリューン皇国軍の兵士を斬り捨てる。
「しかし、ラングラムはどこにもいないわね。どこに行ったのかしら?」
ルルハルトはカタインの誘いにはならなかった。ルルハルトは敢えて、クラナの本陣の横を掠めることを選択した。
「あいつ…………!」
ルルハルトの接近に対して、ユリアーナが反応する。
「ゼピュノーラ、行って、ルルハルトの討ってこい! ここは俺に任せろ!」
ルーゴンが叫んだ。
「分かったわ!」
ユリアーナ隊がルルハルト本隊を強襲するために動き始める。
ルルハルト本隊はクラナの本陣に接近する。
「ネジエニグ司令官にラングラムを近づけるな!」
ハウセンが声を張った。
クラナとルルハルトは互いの声が聞こえる距離まで接近していた。
両軍の間に緊張が走る。兵士たちは動きを止めた。
「クラナ・ネジエニグ、今回はお前の勝ちだ」
ルルハルトがクラナに話しかける。
「その名前、リョウと共に覚えておこう。次に会う時はリョウ諸共、屈服させてやる」
「私は負けません。何度でもあなたを止めます」
「お前ごときが私に何度も勝てるなど思いあがるなよ」
クラナは首を横に振った。
「私一人じゃ無理です。今回だって、私一人じゃ勝てませんでした。みんなが居たから、私は勝てたのです。みんなに支えられて、私は立っています。ルルハルトさん、あなたがどんなに恐ろしい策を使っても、あなたは一人です。私たちには勝てません」
「………………大言を吐く小娘だ」
二度目の邂逅は一度目と違った。
ルルハルトはクラナに対して、敵意を向けていた。明確な敵としてクラナを認識した。
「ルルハルト! 次なんてないわ! ここで終わりよ」
ユリアーナが駆けつける。
「うるさい奴が来る前に私は退こう」
ルルハルトは完全な包囲が完成する前に戦場を突破する。
ユリアーナ隊が追撃する。
しかし、ルルハルトは巧みな反転攻撃でユリアーナ隊の追撃の勢いを削いでいった。
疲労の極地にあった兵士たちはついに足を止める。
「ここまでね。またあいつを逃がしたわ…………」
ユリアーナは追撃を断念した。
ルルハルトが撤退したことでリテリューン皇国軍は完全に崩壊する。
戦場に残ったイムレッヤ帝国・シャマタル独立同盟軍もすでに戦意はなかった。
ガンルレック要塞軍は限界を超えて戦った。
カタイン軍も昼夜を問わずに移動を強行し満身創痍だった。
興奮状態が疲労を忘れさせていたが、戦いが終わった。
それを理解した時、歓声はなく、皆がその場に倒れこんだ。