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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
157/184

ガンルレック要塞攻防戦最終日①~最後の号令~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 次の日、ガンルレック要塞軍は最後の攻勢に出る為に気を張っていた。

 しかし、様子がおかしい。

 リテリューン皇国軍の姿がなかった。

 シュタットが尖兵に探らせると驚くべき報告が帰ってきた。

「撤退しているだと?」

 シュタットは耳を疑ったが、複数の尖兵が同じ報告をしていた。

 リテリューン皇国軍の撤退は間違いなかった。

 それを聞いた瞬間、兵士の行動は二つだった。

 歓喜の声を上げる者と緊張の糸が切れて倒れこむ者だ。

「勝ったのか…………?」

 シュタットもそう思った。

「違います…………」

 クラナが呟く。

 この日、クラナは僅かな手勢と共にシュタットの本営にいた。

 劣勢になるまで出撃する予定はなかった。

「シュタット司令官、今すぐに出撃を命令してください!」

 クラナは息を荒げる。

「どうしたのだ? 逃げる敵を追う余力など我らにはないぞ」

「敵は逃げたのではありません! 恐らく、近くまで来ているカタイン将軍の軍勢を殲滅に行ったのです」

 その言葉に兵士たちは少しだけ騒ぐ。

「カタイン将軍が? だが、どんなに早くてもあと一日はかかるはずだ。それにカタイン将軍が来たのなら、将軍に任せれば、いいのではないか? カタイン将軍の兵は三万、ラングラムの兵力を互角のはずだ」

「多分違います。一日、早くここに到着するために強行してきたのだと思います。恐らく、全軍が到着しているわけではないのです」

「そんなことをした理由は?」

「私たちを信じているからです。カタイン将軍がルルハルトさんを引き付けてくれれば、その後背を私たちが強襲すると」

「カタイン将軍がそこまで私たちを信用していると思えない?」

 クラナは首を横に振った。

「カタイン将軍じゃありません…………リョウさんです。リョウさんが初めて私を信頼してくれたのだと思います」

 クラナは僅かに笑った。

「根拠はあるのか? もし、三日目の時のように我らを誘き出す罠だったとしたら、今度は全滅するぞ」

「私たちに余力がないことは知っているはずです。リテリューン皇国軍が離れれば、追撃しないことは分かっているはずです。それなのにルルハルトさんがこのような動きをする理由があるとすれば、理由は一つだけです。援軍が来ているんです」

 シュタットにはクラナの言っていることが正しいのか、間違っているのか、それを判断できなかった。

 しかも、時間がない。

 カタイン軍本隊が本当に来援していたら、すぐに出撃しなければ、各個撃破されてしまう。

 シュタットのとった行動は…………

「情けない老人を許してほしい」

 シュタットは頭を下げた。

 その光景にハウセン初め、多くの兵士が驚いた。

「クラナ・ネジエニグ殿、あなたに全指揮権を委譲する。ここから先、あなたの権限で全てをお任せする」

「ありがとうございます。ハウセンさん、全指揮官に緊急の伝令を送ってください。全軍、出撃です!」

 クラナの言葉を聞いた兵士たちは見えない力に押され、立ち上がった。

「そんなことをすれば、この要塞が空になります!」

 ハウセンが叫んだ。

「空でいいんです。ルルハルトさんを打倒すれば、敵はいなくなるんですから」

 クラナの力強い宣言にハウセンは気圧される。

 クラナの号令はすぐに実行された。


 西の城壁。

「分かった。急ぐぞ。私たちが最も遠い。だが、遅れを取るわけにはいかない」

 フィラックはすぐに兵士をまとめ、動き出した。


 左翼。

「出撃だって? 罠じゃないのか?」

 ルーゴンは疑問に思う。

「あら、罠に嵌って少しは慎重って言葉を覚えたみたいね」

 ユリアーナは馬鹿にしたように笑った。

「そうだ。だから、今回も同じように…………」

「ルルハルトが同じ手を二回使うなんて思えない。それにクラナ様が出撃って言ったのだから考えてのことなんでしょう。さっさと準備しなさい。それとも要塞でビクビクしていても構わないわよ」

「なんだと!? 出撃するからには先鋒は任せてもらおうか!」

 右翼もクラナの号令に応じた。


 右翼。

「さて、これが最後の戦いになりそうですね」

 アーサーンが言う。

「行こうか」

 グリューンが返す。


 ガンルレック要塞軍は迅速に出撃の準備を整えた。

「待っていてください、リョウさん。今行きますから…………全軍出撃! カタイン軍と共にリテリューン皇国軍を挟撃します!」

 クラナは視界がぼやけていた。気を抜けば、すぐに落馬するくらい体には力が入らない。体が熱い。体が痛い。それでも止まらなかった。

「リョウさん、私、あなたの隣にいていいですよね…………?」

 それがクラナを突き動かす原動力だった。

 


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