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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
156/184

ガンルレック要塞攻防戦九日目③~最後の軍議~

 ルルハルト本陣。

「ラングラム様、味方は劣勢です」

 兵士は恐る恐る報告する。

「分からない…………」

 ルルハルトは呟く。

「数で負け、大した策も持たない奴らがなぜ私に対して、ここまで奮戦する? なぜ私はあいつらを倒せない。リョウの知略は遠ざけた。カタインの大軍も遠ざけた。城壁は破壊した。私の軍は薬と恐怖で強力な軍になったはずだ。なのに、なぜまだ抗う? なぜまだ向かってこられる?」

 ルルハルトは各部隊に総攻撃を命じ続けた。

 それでも優勢という報告があっても勝利の報告は一向に帰ってこない。

「クラナ・ネジエニグはただの小娘ではなかったのか…………」

 ルルハルトは自身の見立てが間違っていたと認めるしかなかった。

 ガンルレック要塞軍は九日目の戦闘も凌ぎ切った。



「終わった…………?」

 夕方、リテリューン皇国軍が撤退していくのを確認し、クラナは呟いた。

 目の前が霞んでいた。

「ネジエニグ司令官!?」

 クラナはその場に倒れこんだ。

 それに気付き、ハウセンが近寄る。

「すいません、自力では立てないので手を貸してくれますか?」

「はい、すぐにルパ殿の所へ運びます」

 ハウセンはクラナを背負った。鎧越しでも分かるほど、クラナの体は熱かった。

「ルパ殿!」

 ハウセンはシュタットの本陣で待機していたルパを呼んだ。

「…………すぐに私の部屋へ」

 前日に受けた切り傷、擦り傷、打撲が無数にある。痛々しい姿だった。

 クラナの奇麗な白い肌は無残なほど傷ついていた。

 回復力が低下し、傷口が塞がっていない。包帯に血が滲んでいた。

「クラナ様、もういいんじゃないんですか…………?」

 ハウセンが去り、クラナと二人だけになった時、ルパが言う。声は震えていた。

 口は出さない。そう決めていたルパだが、クラナの姿を見て、言わずにはいられなかった。

「後はみんなに任せましょ? もしもの時は…………」

 ルパは一度大きく、息を吐いた。

「クラナ様を敵の辱めなどにはあわせません…………」

 机に小さな瓶を置いた。

 クラナはそれが何かすぐに分かった。

「一緒にこれを飲みましょう…………大丈夫、これは飲んだことありませんけど、ネズミが一番苦しまずに死んでいました。部屋に火を付けて、これを飲めば、苦しまずに、そして、敵に辱められることもないです…………」

 クラナはベッドから体を起こし、首を横に振った。

「ルパちゃん、それは出来ません…………私の為に多くの人が戦ってくれました。もしもの時、私だけ逃げるわけにはいきません。私は戦場に立ちます。私は生き抜きます」

「…………分かりました。ならば、私も最後まで一緒にいます。腕が折れて、薬の副作用で今は戦えないと思いますけど、傍にいさせてください…………」

「ルパちゃん、私に大切な人はたくさんできましたけど、初めての友達はあなたでした。本当にありがとうございます」

 二人はお互いを抱きしめ合った。



 負傷していない者は一人もいない。

 動けるものは女子供、老人まで動いている。

「持って二日ってところかしらね」

 軍議の初めにユリアーナが言う。

「二日、持つと思うか?」

 ルーゴンが返した。

 兵士たちのほとんどが戦闘終了と同時に倒れこんだ。

 倒れた兵士たちに女子供が駆けつけ、手当てをしているが、手当てする側の疲労も濃かった。

「二日は持たないと困るわ」

「それはただの希望的の言葉じゃないか」

「うっさいわね」

 ユリアーナも分かっていた。

 今日を凌ぎ切ったことが奇跡だった。

 ガンルレック要塞軍にもう余力は残っていない。限界を超えて戦った。

「明日は攻勢に出るべきでないでしょうか?」

 グリューンが発言する。

「もう防衛は困難です。カタイン様が戻ってくるまでの時間を稼げません。ネジエニグ司令官はまた倒れたと聞きます。こうなってはルルハルトを討つことに最後の活路を求めるべきではないでしょうか?」

 この提案に六日目の攻防戦で反論したアーサーンでさえ、沈黙した。それしか活路がないと思った。

「私の隊が囮になりましょう。その間にルーゴン殿、フィラック殿、アーサーン殿、ユリアーナ殿がルルハルト本陣を目指し、突撃をするのです。一隊でもたどり着けば、我々の勝利です」

 グリューンが言っていることが、調子の良いことだということは全員が理解していた。

 それでもそれ以上の案は思いつかなかった。

 これ以上の防衛は不可能だった。

「それはカタイン様に怒られそうね」

 ユリアーナが言う。

「そうですね。『あら、なんで私が戻ってくるまで待たなかったの、私がルルハルトを討ちたかったのに』などと言われるでしょう」

 グリューンは笑いながら返した。

「物真似は似てませんけど、その通りですね。この戦い私たちで終わらせましょう!」

 ユリアーナの言葉に全員が「そうだ」と空元気で返した。

 ガンルレック要塞軍、最後の作戦が決まった。


本日、0:00前後にもう一話、投稿予定です。

夜遅くになってしまいますが、時間に余裕のある方は読んで頂けると幸いです。

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