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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
155/184

ガンルレック要塞攻防戦九日目②~英雄の力~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 恐怖と薬物による力は凄まじかった。リテリューン皇国軍の攻勢は熾烈である。

 ガンルレック要塞軍の各戦線は押されていた。

 しかし、それでも戦線の崩壊は起きていなかった。

 それは各指揮官の働きが大きかった。


 左翼、ルーゴン・ユリアーナ隊。

「あんた、ちゃんとした指揮もできるじゃない!」

 ユリアーナがルーゴンに言う。

「生意気な娘だ!」

 意外にもこの二人の共同戦線はうまくいっていた。

 ルーゴンの指揮は攻撃的で隙が目立つ。

 その隙をユリアーナが補う。元々、ユリアーナは天性の指揮を執るグリフィードに合わせて、戦うことが出来た。その高い順応性を発揮する。

 右翼では最前線でグリューンが奮戦し、後方からアーサーンの指揮する弓・弩隊の正確無比の掃射がリテリューン皇国軍を襲う。

 両翼は何とか戦線を保っていた。

 中央でもシュタットが派手さはないが、手堅く粘りのある戦いを見せる。

 各戦線、よく戦った。

 しかし、昼過ぎには善戦から劣勢に変わる。

 疲労は蓄積し、多勢に無勢、劣勢になるのは必然だった。

 特にガンルレック要塞軍の中央、シュタット隊が危うい状況に陥った。



 北の城壁、フィラックの本陣。

「味方は大丈夫でしょうか?」

 兵士の一人が言う。

「今は信じ、私たちは自分の持ち場を死守するしかない」

 フィラックの守る北の城壁にもリテリューン皇国軍は殺到していた。

 楽な戦闘ではないが、他の戦場に比べれば、戦況は良かった。

 城壁の有利を使い、リテリューン皇国軍を悉く撃退していた。

「フィラック様、大変です!」

「どうした?」

 フィラックが兵士が事情を聞く前に、兵士が慌てていた理由が分かった。

「なぜここに…………?」

 フィラックの目前にはクラナが立っていた。

 体調が回復したわけではない。ボロボロの状態だった。

「フィラック、無茶を言ってもいいですか?」

「無茶をしている人が何を言いますか?」

 フィラックの言葉にクラナは微かに笑った。立っているだけでも辛そうだった。

「百ほど、私に兵を貸してくれませんか?」 



 ガンルレック要塞軍の中央はリテリューン皇国軍の勢いを止められず、戦線崩壊寸前の状況だった。本営近くまで攻め込まれていた。

 すでに本営に予備戦力は残っていなかった。

「シュタット様、一度退きましょう」

 ハウセンが言う。

「退く? いったいどこにだ。もう退く場所などない」

 シュタットは情けなかった。クラナがどうにか繋いだ戦線を為す術もなく、崩壊させてしまう。


「友軍を助けます!」


 声と同時にシャマタル独立同盟軍が駆けつけた。

 そこにはクラナの姿があった。

「シュタット司令官、勝手に動いたこと、申し訳ありません」

「いや、そんなことはどうでもいい。ネジエニグ殿、体の方は…………」

 大丈夫でない、とすぐに分かった。クラナの息は荒く、発汗がすごい。顔は青白かった。

 手には剣ではなく、指揮棒を握っていた。

 クラナはすでに剣を握る力が残っていなかった。

「今は大丈夫か、大丈夫じゃないかではないです。動けるか、動けないかです」

 クラナは無理やり、笑って見せた。

「英雄、クラナ・ネジエニグが駆けつけたぞ。戦線を押し返せ!」

 ハウセンが声を張った。

「このことを各線に告げろ! 急げ!!」

 ハウセンの機転はすぐに実行された。



 左翼、ユリアーナ・ルーゴン隊。

「クラナ様が……!?」

 ユリアーナは驚き、息を飲んだ。

「分かったわ。みんな聞いた!? クラナ様が戦場に戻ったわ! 疲れているとか言っていられないわよ!」

 ユリアーナの言葉に兵士たちは呼応する。リテリューン皇国軍を押し返し始める。

「シャマタル独立同盟軍だけにいい格好をさせるな! 俺たちもやるぞ!!」

 ルーゴン隊も引っ張られ、士気が上がった。


 右翼、アーサーン隊。

「クラナ様、無茶をする…………!」

 アーサーンは歯軋りをする。クラナを休ませることが出来ない自分が情けなかった。

「クラナ様に情けない姿を見せるな!」

 右翼でも同様に敵を押し返す。


 クラナが登場した中央軍の反撃は凄まじかった。劣勢だったことが嘘であるようにリテリューン皇国軍を押し返す。

「戦場にいるだけでこれだけ影響する。これが英雄か…………」

 シュタットは若い頃に同じ経験をしたことがある。

 アレクビュー・ネジエニグが最前線に出るだけでシャマタル独立同盟軍は強さを増した。クラナにアレクビューのような圧倒的な武力はない。

 しかし、その姿はアレクビューに被るものがあった。

 過去は英雄を真正面から見て、今は後姿を見ている。

「運命とは不思議なものだ」

 シュタットは呟く。人生の最後に英雄と共に戦えたことを感謝した。


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