表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
154/184

ガンルレック要塞攻防戦九日目①~ルルハルトの禁じ手~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 ガンルレック要塞攻防戦八日目の夜、ルルハルト陣営。

 この日の敗戦は兵士や部隊長の士気を挫いた。

 ルルハルトが全部隊長を収集する。

 撤退か? と思った者もいた。

「お前たちに二つやってもらうことがある。一つはこの疲労回復の薬を兵士全員に配ってもらいたい」

 ルルハルトの言葉は戦闘継続の宣言に等しかった。

「司令官、お、お言葉ですが、もう撤退すべきではないでしょうか?」

 部隊長の一人が恐る恐る進言した。

「撤退すべきか? なるほど、同じ意見を持つ者は他にいるか?」

 何人かの部隊長が手を挙げた。

「そうか、ならば、二つ目のことはお前たちにやってもらう。簡単だ、くじを引いてもらえればいい」

 手を挙げた部隊長たちはお互いに顔を見合わせた。

 くじ引き、それが何の為かを知った時、部隊長たちは手を挙げたことを後悔することになる。



 ガンルレック要塞攻防戦九日目。

 ガンルレック要塞軍は布陣を大きく変えた。

 シュタットが戦線復帰したことで中央はシュタットの直属部隊に代わる。

 激戦で疲労したシャマタル独立同盟軍の主力は城壁の守備に回った。

 シャマタル独立同盟軍主力を指揮するのはフィラック。

 左翼には復帰したルーゴン率いるルーゴン隊。

 右翼にはグリューン隊を主力に据えた一千の兵が配置される。

 シャマタル独立同盟軍の一部はユリアーナとアーサーンを指揮官として後詰を担う。

 クラナとルパは戦線を離脱した。

 援軍の報が伝わり、歓喜したガンルレック要塞軍。

 シックルフォールの裏切りとベルリューネ戦死で痛手を負ったリテリューン皇国軍。

 両軍の士気の優劣は明らか。

 数の不利はあるが、この日もガンルレック要塞軍は奮戦する。

 少なくともガンルレック要塞軍側はそう思っていた。

 しかし、いざ戦闘が始まると予想外なことが起きる。

「報告! 左翼、ルーゴン隊苦戦!」

「報告! 右翼、グリューン隊が何とか戦線を維持していますが、いつ突破されてもおかしくない状況です!」

「左翼にはゼピュノーラ殿を、右翼にはアーサーン殿を、それぞれ援軍に回せ」

 シュタットは指示を出す。

 戦闘開始から現在まで各戦場はリテリューン皇国軍が押していた。

「前線で何が起きている?」

 シュタットの疑問に兵士が答える。

「敵は死を恐れていません。何か、脅迫をされているように身を捨てて攻めてきます」

「シックルフォール殿、ラングラムが何をしたか、想像がつくか?」

 シックルフォールは黙り、思考する。

 しかし、やがて首を横に振った。

「あの男の思考は想像がつかない。恐らく、何か悍ましい方法を使ったことは間違いないだろうが…………」

 得体の知れない強さを見せるリテリューン皇国軍にガンルレック要塞軍の各線は疲弊していった。

「ちょっといいでしょうか?」

 シュタットの本陣にユリアーナが姿を見せる。

「この兵士がリテリューン皇国軍に何が起こったかを教えてくれました」

 ユリアーナはボロボロになったリテリューン皇国軍の兵士を引きづっていた。

「ほら、あんたの口から直接説明しなさい!」

「ひっ! 殺さないで! 化け物!」

「誰が化け物!? 化け物はあんたの司令官でしょ!」

「化け物だ! 化け物がいっぱいだ!!」

 連れて来れたリテリューン皇国軍の兵士とは会話が成立していない。体は震え、目の焦点は会っていなかった。そして、異常な発汗と息遣い。

「これは薬物の禁断症状か?」

 シュタットはすぐに理解する。

「そうです。しかもそれだけじゃありません。ルルハルトは昨日、撤退を進言した部隊長の部隊からくじ引きで一人ずつ兵士を処刑したそうです」

「なんだと!?」

「しかも、今日、私たちを打倒できなかったら、全部隊を対象に同じことをすると宣言したそうです」

「なるほど、それがこの強さの理由か」

 シュタットは息を飲んだ。

「誰かルパちゃんを呼んできてくれないかしら? あの子ならこの薬物の正体を知っているかもしれないわ」

 ルパはすぐに連れてこられた。

「なんですか。私、結構な重症人なんですけど…………」

 ルパは少し辛そうだった。

「ごめんなさい。でも、あなたが一番詳しいと思って…………」

 ユリアーナはルパの戦闘力の原動力を今日の朝、聞いていた。

 縄で縛り、動けなくなった敵兵をルパに見せる。

「私にって…………まさか…………!」

 ルパは敵の兵士をまじまじと見る。

 そして、大きな溜息をついた。

「最悪です。ユリアーナさんの勘は当たりましたよ。これはクロキシル麻薬の禁断症状です」

 それを聞いた全員が息を飲んだ。

「クロキシル麻薬には強烈な快楽と高い依存性、それに加え、異常な鎮痛効果があります。リテリューン皇国軍の兵士は今、戦場での不安、戦傷の痛みを忘れて戦っていることでしょう。その後の地獄と引き換えにですけどね」

 ルパはそう説明した。

「ルルハルトに脅迫され、そして薬物で精神を麻痺させる。ということは今、私たちが相手にしているのは死に物狂いで向かってくる。痛みを感じない狂人たちということだな…………」

 シュタットは沈んだ声で言った。

「まったく、ルルハルトは人を何だと思っているのかしら!?」

 ユリアーナは悪態をついた。

「とにかく私はもう一度前線に戻るわ!」

 死を恐れない兵士が一番恐ろしい、とルピンが言っていたことをユリアーナは思い出し、寒気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ