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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
153/184

フィラックとユリアーナ、怒れるルパ、面白がるアーサーン

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 フィラックはクラナたちのいる部屋のドアをそっと扉を開ける。

「おや?」

 クラナは静かに眠っていた。隣では自力で戻ってきたルパが同じく寝ている。

 そして、二人以外にもう一人、そこにはいた。

「ユリアーナ殿、こんなところで寝たら、風邪を引くぞ」

「えっ? あっ…………」

 ユリアーナは椅子に座たったまま寝ていた。

「いつの間に寝たのかしら? 確かルパちゃんを抱えてここに来て…………」

「ルパを?」

「この子、廊下で倒れていたんです」

 ユリアーナはルパに視線を移す。

「娘の強がりを見抜けないとは情けない…………すまなかったな」

「いえ、私は運んだだけですし、二人の様子を見ていたつもりが寝てしまいましたし」

「無理もない。あなたは極限状態だった。昨晩は一睡もしていなかった」

「まぁ、今生きているのが信じられないくらいですよ。あれ? なんで私が一睡もしてないことを知っているんですか?」

 フィラックは「しまった」という表情になった。

「フィラックさんは護摩化すのが下手ですね」

 ユリアーナは苦笑する。

「…………すまない。シックルフォール殿と話し合って、ユリアーナ殿を私が一晩中、見ていた」

 フィラックは気まずそうに言う。

「そうですか。情けないところ見せちゃいましたね」

 ユリアーナは少し赤くなる。

 もしも見ていた相手がリョウやクラナ、アーサーンやローランだったら、ユリアーナはいつものように騒いで有耶無耶にしようとしていたかもしれない。

 だが、フィラック相手にはそれをしなかった。

「フィラックさん、私、ちょっと寄りかかっていいですか?」

「構わない」

 ユリアーナはフィラックに体を預けた。

「私にはほとんど父親の記憶がありません。父親の温もりを知りません。でも、フィラックさんみたいな人が父親だったら、いいと思ったことがありました」

「私はルパだけで手一杯だ」

「分かっています。だから、今だけでいいです」

 フィラックにはユリアーナが幼く見えた。

 そして、その体は震えていた。

「死んだと思った………………もう駄目だと思った………………まだやりたいことがあったのにもう十分だと自分に言い聞かせて…………自分を納得させて…………」

 ユリアーナは泣き始める。

「怖かった…………怖かった…………怖かった…………」

 ユリアーナはフィラックにしがみついて泣いた。

「あなたはいつも背負い過ぎだ。私で良ければ、寄り掛かるといい」

 フィラックは少し躊躇ったが、ユリアーナの頭を撫でた。

 ユリアーナは安心し、体の震えは止まった。泣き続ける。やがて泣き疲れ、眠ってしまう。

 フィラックは完全に抱きつかれていた。

「やれやれ、これは理性を試されるな」

 フィラックは人前では決して出さない表情になる。ユリアーナの色々なものが当たっていた。

「さすがに疲れた…………」

フィラックもいつの間に眠ってしまった。



 次の日。

「父さん、おはようございます」

 ルパの声でフィラックは覚醒する。

 そして、状況を冷静に把握しようとする。

「おはよう。体はもう動くのか?」

「何とか動きますけど体中が痛いです」

「そうか…………とりあえず、これの説明をお願いできるかな?」

 フィラックは手を後ろで縛られていた。

 隣には手足を縛られたユリアーナが穏やかな表情で眠っていた。

「私、昨日の戦いで左腕が折れたみたいなので、アーサーンさんに縛ってもらいました」

 ルパの隣には笑いを堪えるアーサーンがいた。

「アーサーン殿、説明をお願いしてもいいかな」

「申し訳ありません。ルパには恩があるので」

「ルパ、だと?」

 フィラックはアーサーンを睨んだ。

「二人は随分と仲良くなったみたいだな」

 ルパとアーサーンはフィラックが見せる表情が面白くて仕方なかった。

「目上のしかも地位のあるアーサーン様が私をどう呼ぼうと関係ないでしょう。それよりも弁明を聞きましょうか?」

 ルパの笑顔が、激怒した時のフィーラと被るフィラックだった。

「弁明? 何のだ?」

「私が朝起きたら、そこに転がっている淫乱と父さんが抱き合っていました」

 そういうことか、とフィラックはやっと理解した。

「お二人とも愛する人と遠く離れているのは分かります。しかし、浮気は感心しませんね」

「浮気などしていない」

「状況証拠で完全に黒です。よって二人には私の特製飲料を飲んでいただきます。というか、この人はよくこんな状況で寝ていられますね」

 ルパは飲み物の入った容器をユリアーナに近づけた。

「!!!!!???」

 ユリアーナは異臭で飛び起きる。

「えっ! んっ!? 何これ!!?」

 ユリアーナはまったく状況が飲み込めなかった。

「おはようございます。そしてさよならです」

「ちょっと、その明らかにやばそうなものを私に近づけないで!」

 ユリアーナはルパから距離を取る。

「手足を縛られてよく動けますね。ほら、召し上がれ」

「召し上がらないわ! 私、ルパちゃんに何かしたかしら!?」

「父さんを誑かしました」

「はぁ!!?」

「私が朝起きると父さんと淫乱が抱き合ってました」

「私のことを淫乱って言わないでくれるかしら! それは誤解よ。私、昨日…………」

 ユリアーナは言葉を詰まらせた。この先を言ったら、自分の情けない、恥ずかしい部分を知られてしまう。

「やっぱり言えないようなことをしていたんですね」

「あんたとクラナ様がいるのに変なことしないわよ!」

「それはいなかったら、やるということですか?」

「そうじゃない。そうじゃないわよ。いい加減、この縄を解きなさい! まさか、二日連続で縛られるとは思わなかったわよ!?」

 ユリアーナが騒いでいると眠っていたもう一人が起きた。

「皆さん…………」

 クラナは重たそうに体を起こした。顔は赤かった。ユリアーナたちを見て、突然泣き出す。

「ど、どうしたんですか、クラナ様!?」

 ユリアーナが声を上げる。

「いいえ、うれしくて…………また、皆さんとこうして会えた…………また、一緒にいられる………………」

 クラナに釣られて、ユリアーナとルパの二人が泣き出す。

「感傷に浸っているところを申し訳ないですが、まだ私たちにはやるべきことが残っています」

 アーサーンが言う。

「そうですよね。ここにはまだリョウさんがいません…………! そうだ、ユリアーナさん、リョウさんは大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。ルルハルトの策に嵌った時はこの世の終わりみたいになりましたけど、クラナ様の手紙で立ち直りました」

「そうですか…………良かった…………」

「リョウ殿が帰ってくるまでもう一頑張りだな」

 フィラックが言う。

「そうね、…………ところでルパちゃん?」

「なんですか?」

「そろそろ私たちの縄解きなさいよ」

 ユリアーナはルパを睨みつける。いい加減手足が痺れてきた。

 フィラックも口には出さなかったが、手首が痛かった。

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