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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
151/184

シックルフォールの守ったもの

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

「で、その理由って何なのよ?」

 ユリアーナはフィラックの話の中ではぐらかされたことを指摘する。

 すると、シックルフォールは立ち上がり、ユリアーナの隣に来た。

「これが何かわかりますか?」

 シックルフォールは古い首飾りを取り出した。首飾りには交差する鷹の羽根が彫られていた。

「これってゼピュノーラ家の紋章?」

 忘れかけていたことをユリアーナは思い出す。

「はい、私はあなたの兄上、『ツーシュウ・ゼピュノーラ』様にお仕えしておりました」

「私の兄上…………? ごめんなさい。私、子供の頃にシャマタルへ行くことになったから、兄弟のことはほとんど知らないのよ」

「それでも兄上はあなたのことを気にしていました。一番年が近かったからでしょう。それに立場も似ていました。あの方はフェーザ連邦のアロット公国で人質として暮らしていましたから」

「私は別に人質って感じじゃないけど…………兄は今どうしているの?」

「すでに亡くなりました。国が滅び、心労が祟ったのでしょう。死の寸前まであなたのことを気にかけていました」

「それであんたが私を守ったってこと? あんたは私と会ったことあるの?」

「…………ありません」

「それなのにあんな危険な賭けをして私を助けたの?」

「恐らく、あなたはゼピュノーラ家、最後の生き残りだ。私はゼピュノーラ公国が滅んでからゼピュノーラ家の生き残りを探しましたが、いませんでした。ゼピュノーラ家の血筋を絶やさないために危険な賭けをした、と言えば、納得していただけますか?」

「私は正直、自分の血筋にどれだけの価値があるか分からない。当主やお姫様なんて柄じゃないし、でも家系を重んじる人がいることは知っているわ。だから、あなたが私を助けた理由として納得するし、感謝もする。でも、それとは別の問題もあるわ。あなたは私の仲間やイムレッヤ帝国と戦った。それだけなら戦争だから仕方ない。でも、民間人の虐殺、これだけは見逃せない」

「弁解の余地もない。全てラングラムのせいにするわけにもいかない。私の目的はあなたを救い出すことだった。それが叶い、役目を終えた。私をどう扱おうと構わない」

 シックルフォールの真っ直ぐな眼を見た時、ユリアーナが抱いた感情は恐怖だった。

 無条件の忠誠心はユリアーナにとって重かった。

「……………………皆さん、この男の命をどうか許してください」

 ユリアーナが頭を下げる。

「姫様」

「姫様はやめて。私のことはユリアーナでいい。それにこれはあなたの為の嘆願じゃないわ。私の目覚めが悪いから、私の為にやっているのよ」

 少しの間、沈黙が流れる。

「ユリアーナ殿に頭を下げられては私はユリアーナ殿の味方をしましょう」

 アーサーンが言う。

「どんな理由がっても私が生きているのはこの男がいたからだ。私からも助命をお願いする」

 フィラックが続き、「フィラックさんと同じだ」とルーゴンが続いた。

 グリューンは「決定に従う」と中立の発言をする。

 しかし、この場に決定系を持つ人間が誰もいないことにみんなが気が付いた。

「私も参加させてくれるか?」」

 入ってきたのシュタットだった。

 二人の女性に支えられ、何とか立っていた。

 女性の一人は二十代半ば、もう一人は初老だった。

 シュタットはここまで軍議の流れをハウセンに聞き、確認した。

「今は少しでも力が欲しい。前線で指揮をしてもらうわけにはいかないが、リテリューン皇国軍の内情を教えて頂ければ、悪いようにはしないことを約束しよう」

「ありがとうございます」とユリアーナは頭を下げた。

「皆、私がいない間、よく戦ってくれた。見ての通り私は怪我人だが、休んでもいられない。ネジエニグ殿委譲した指揮権をまた引き継ごう。と、言ってもこれだけ優秀な指揮官がいれば、私はやれることはあまりないだろうが…………シックルフォール殿、色々と思うところはあるだろうが、リテリューン皇国軍の内情を聞かせてくれないか?」

「はい、現在のリテリューン皇国軍の兵力は三万、私が抜けた以上、軍全体の指揮はラングラムが直接、執るでしょう」

 三万、その数がガンルレック要塞軍に重くのしかかる。

「そして、分かっていると思いますが、ラングラムはこの要塞の地形を理解しています。よって、こちらが有利なのは指揮官の質と兵士の士気だと思います」

「なるほど。ちなみにだが、シックルフォール殿から兵士に対して、降伏を促すことは出来ないだろうか?」

「難しいと思います」

「なぜ?」

「ラングラムが今回の遠征に選抜した兵士の多くは所帯を持っています。裏切れば、血縁者がどうなるか、想像するのは容易い。さらにリテリューン皇国軍はイムレッヤ帝国に対して、酷い行いをしました。兵士たちは投降したら、どんな目に合うかと恐怖していると思います。そして、ここは敵地深くです。勝つしか活路がないと必死になるでしょう。私が裏切ったことも、ベルリューネが討ち取られたことも致命傷にはなりません。唯一、分からないのはラングラムの指揮官としての力量です。戦略家としてはこの大陸に並ぶ者がいないほどの知将でしょう。しかし、私はラングラムが直接、指揮したところを見たことがない。戦術家としての力量は未知の部分があります」

「未知数か…………出来ないということはないだろう。こちらは私の軍を中央に配置し、右にグリューン殿、左にルーゴン殿でどうだろうか? シャマタル独立同盟の方々は半数がフィラック殿と共に城壁の警護。アーサーン殿とユリアーナ殿が残りの半数を二つに分け、後詰として布陣する」

 シュタットの陣立てに疑問点はなかった。その代わり、目新しさや派手さもない。

 しかし、これ以上の布陣を考え付く者は誰もいない。

 明日の布陣は決定され、全員が解散する。

「さぁ、あなたも早く休みましょう」

 初老の女性が心配そうに言う。

「待て、一人残っている」

 シュタットは軍議会場に一人残ったフィラックを見た。

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