表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
148/184

ガンルレック要塞攻防戦八日目⑤~限界近し~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 夕刻、アーサーンは各戦線に撤退命令を出した。

「今日で終わればよかったのだが…………」

 アーサーン自身、このまま強攻したい気持ちはあった。

 しかし、各戦線の疲労は限界であり、態勢を立て直したリテリューン皇国軍の反撃も確実にある。

 アーサーンの判断は正しかった。 

「アーサーン殿…………!」

「フィラック様!」

 二人は再会を喜び、お互いの手を握った。

「生きていると信じておりました」

「苦労をかけたな」

「私の苦労など…………」

 アーサーンは伝えなくてはならないことをあった。

 真剣な表情になり、小声になる。フィラックにしか聞こえない声量になった。

「クラナ様が負傷されました…………それにあなたの娘さんも…………」

 フィラックの表情に驚きと心配が混じる。

「私も詳細は分かりません。フィラック様自ら確認してください」

「しかし、戦後の処理が…………」

「クラナ様と娘さんが心配でそれどころではないでしょう。こちらは私がどうにかしておきますから、フィラック様は早く二人の元へ向かってください」

「…………感謝する」

 フィラックは走って、アーサーンの元から去っていった。

「さて、今日もどうにか生き残った。明日はどうだろうな? もし、クラナ様がいなくなれば、我々は…………」

 アーサーンは呟く。



 クラナはルパの部屋に運ばれ、すぐに鎧、さらに服を脱がされた。

 ハウセンは気を使って、部屋を出ようとするが、ルパに

「あなたは負傷した司令官を置いていくつもりですか?」

と言われ、悪いと思いながら、ユリアーナと共にクラナの服を脱がした。

「あなた、えーっと…………」

「ハウセンです」

「ハウセンさん、もしクラナ様に欲情したら、私が許さないわよ」

「しませんよ」

「擦り傷は大したことなさそうですね。でも、打撲が酷いです。ユリアーナさんは机の上に置いてある青い印がある塗り薬をクラナ様の体に塗ってください。ハウセンさんは奇麗な水を汲んできてください」

 二人はルパの指示に従い、動く。

 苦しそうだったクラナ表情が少しだけ落ち着いたのは日が完全に落ちた頃だった。

「とりあえず、大丈夫だと思います…………」

 ルパは呟くように言った。ルパも限界だった。

「ルパちゃんは大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないです…………たぶん、何か所か、骨が折れてます」

「それで動けるってどういうことなの!?」

「薬の影響です。ですが、それも限界…………みたいです。だから…………もう休みます…………」

 ルパはそのまま気絶した。

「この子もだいぶ無理をしたみたいね…………ハウセンさん、もう一つ手伝ってもらえますか?」

「なんでも手伝いますよ」

 ハウセンは苦笑する。

 ユリアーナとハウセンはルパの服を脱がした。

「私がこの子の体を拭くから終わるまで外で待っていて頂戴」

「手伝いましょうか?」

「…………」

 ユリアーナはハウセンを睨みつけた。

「…………冗談です。外で待っています」

 ハウセンが外に出るとユリアーナは分かる範囲でルパに応急手当を施した。

「この子のどこにベルリューネと戦う力があったのかしら?」

 ルパの体を見る限り、普通の少女だった。

「そういえば、この子、いつも手袋をしているわね」

 ユリアーナがルパの手袋を取る。手を見た瞬間、驚いた。

「これって…………」

 ユリアーナは見てはいけないものを見てしまったと思った。

 慌ててルパに手袋を嵌めなおした。

 手以外の箇所を拭き終わるとハウセンを呼ぶ。

 二人でルパに新しい服を着せ、クラナの隣に寝かせた。

「ハウセンさん、もうここはいいからアーサーンたちと今後のことを話してきて頂戴」

「ゼピュノーラ殿も疲労の限界なのではないでしょうか?」

「私はまだもう少し大丈夫よ」

「かしこまりました」と言い、ハウセンは出て行った。

 ユリアーナは一人になった。疲労は限界のはずなのに眠くはなかった。体が震えていた。

「私、生きているんだ…………」

 ユリアーナはそれを実感する。


 コンコン、とドアを叩く音がした。


「誰!?」

 ユリアーナは感覚の鋭くなっていた。過敏に反応する。

「私だ」

 その声には聞き覚えがあった。

「入って大丈夫です」

 ユリアーナは来訪者を招いた。

 フィラックだった。

「ユリアーナ殿、無事でよかった」

 フィラックは最初、ユリアーナに気を使ったが、視線はクラナとルパの方に向いていた。

「お互い話すべきことはあるでしょう。フィラック様が来たのなら、私は席を外しますね。二人をお願いします。私にもやるべきことがあります」

 ユリアーナは立ち上がる。

 フィラックは無言で頷く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ