ガンルレック要塞攻防戦八日目④~過去との決別~
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
ユリアーナが本陣まで戻ってくると騒がしかった。
すぐに奇襲を受けたと理解した。
そして、ユリアーナはベルリューネの姿を確認した。
(ルパちゃんが危ない…………!)
走っても間に合わない。
だから、剣を投げた。注意を逸らせればよかった。
「なんだ死にぞこない!」
ベルリューネは戦斧で剣を弾き返した。
ユリアーナの剣は折れてしまった。
「退いてよかった。あんたがここにいるとは思わなかったわ……」
ユリアーナはゆっくりと視線を回す。
倒れて動かないクラナ。ボロボロのルパ。
ユリアーナは自身が怒りに流されない為、深く深く息を吸った。
「あんたはここで殺す…………!」
宣言したユリアーナの瞳はとても冷たかった。
クラナの傍に落ちていた剣を拾った。
「クラナ様、借りますね」
ユリアーナはクラナが死んでいないことを確認し、安堵した。
「おいおい、その剣で大丈夫か? せっかく拾った命を復讐のために捨てるか?」
「死ぬつもりはないわ。それにこれは復讐じゃない。自分の司令官を、友達を、大切な人を守る為に私は戦う!」
ユリアーナとベルリューネはほぼ同時に動いた。二人の応戦に得物のぶつかり合いはなかった。
ベルリューネの連撃をユリアーナはすべて避ける。
「こいつ!」
ベルリューネはさらに戦斧を振ったが、当たらない。
一方、ユリアーナはあと一歩が踏み込めなかった。躊躇っていた。
攻撃を避けることは出来る。
しかし、もう一歩踏み込んだ時、自分が両断される。その感覚があった。
言動、人格はともかくベルリューネの実力は本物だった。
それでもユリアーナに退くという選択肢はなかった。負けるつもりもなかった。
退けば、負ければ、この後、何が起きるか想像するのは簡単だ。
「死んでたまるか…………! 負けてたまるか…………!!」
命のやり取りの中でユリアーナの感覚が鋭くなっていく。
そして、ついに躊躇っていた一歩を踏み込んだ。
ベルリューネの戦斧をクラナの剣で弾く。体格差、力の差、得物の重さが違い過ぎた。完全に弾くことは出来ず、ベルリューネの戦斧はユリアーナの頬を掠めた。
それでもユリアーナは怯まなかった。
「なに!?」
この一撃で最後、と渾身の力を込めた。ユリアーナの剣速がベルリューネの反応速度を上回った。
ユリアーナの一撃がベルリューネの首を深々と斬りつけた。
血が噴き出した。誰もが致命傷だと理解できた。
「俺が…………こんなところで…………!」
ベルリューネは吐血し、ユリアーナを睨みつける。その瞳からすぐに光が失われる。
「因縁が終わるのって意外にあっけないわね…………って、一息つけないわよね」
感傷に浸っている時間はない。
「敵の隊長は討ち取ったわ。残敵を掃討しなさい!」
ユリアーナの一喝で士気が上がったガンルレック要塞軍は次々にリテリューン皇国軍を撃破していく。
ベルリューネを失ったリテリューン皇国軍は脆く、簡単に敗走した。
「ルパちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫…………じゃないです。私の鞄を取ってくれますか?」
ルパは投げ捨てられた鞄を指さした。
ユリアーナはすぐにそれを取ってきて、ルパに渡した。
ルパはその中から飲み薬と塗り薬、さらに小剣を取り出した。迷わず、小剣を変色した腕に突き刺した。
「ちょっと、何をしているの!?」
「毒素を出しているんですよ」
ルパの腕から多量の血が流れる。傷口に塗り薬を塗った。さらに飲み薬を口に含む。
「大丈夫なの?」
「私、自分の体で毒の実験をしていますから、多少は耐性があるのでこれで死なないと思います。体が動かないのでクラナ様のところまで運んでくれますか?」
ユリアーナはルパを抱き抱えてクラナのところまで連れて行った。
「………………」
「どうなの?」
「生きています。でも、いいとは言えません…………すぐに治療しないと…………クラナ様を私の部屋まで連れて行ってくれませんか?」
「ルパちゃんは?」
「体を引きずってでも行きますから…………」
ルパも動ける状態には見えなかった。
「私が運びます」
名乗り出たのはハウセンだった。
「お願いします」とルパは即答する。
ユリアーナは「ちょっと」と言い、兵士の一人を呼んだ。
「アーサーンに今の状況を知らせて頂戴。そして、指揮権を委ねる、と」
兵士は「はい!」と言い、駆けて行った。
「さて、今日中に戦闘が終わればいいんだけど…………」
ユリアーナは言ったもののそれは出来ない気がした。
ルルハルトがそんな簡単に負けるわけがない。
「でも、将軍が裏切って、ベルリューネは倒した。追い込んだはずだわ」
この日、ルルハルトは軍全体の混乱を収拾するためにガンルレック要塞の南門まで後退せざる追えなかった。ガンルレック要塞軍はリテリューン皇国軍を崩壊一歩手前まで追い込んだ。要塞戦が始まって以来、大勝利だった。