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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
146/184

ガンルレック要塞攻防戦八日目③~本陣強襲戦~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 大攻勢の最中、一つの異変が起きる。それは当然だった。

「クラナ様!?」

 兵士が驚きの声を上げる。

 クラナは膝をついた。視界が霞んだ。

「ここまでですね」

 いつの間にかクラナの近くにいたルパが言う。

「あなたは総司令官です。これ以上、前に出る必要はありません。父さんが、ユリアーナさんが戻ってきました。もう大丈夫です」

 ルパは泣いていた。

「ネジエニグ司令官、一度、退いてください。ここは我らが引き受けます」

 ハウセンが言う。

「そうですね。みんながいれば…………」

 

 その時だった。

 兵士に悲鳴が聞こえた。


「総大将の警備が薄いんじゃないか?」

 戦斧を持った大男がクラナの目の前に現れた。

 ガンルレック要塞軍の大攻勢の間を突いて、ベルリューネが手勢と共にクラナを強襲した。

「すぐにみんなに知らせないと…………!」

 ハウセンが慌てて、行動しようとするが、

「駄目です」

 クラナはフラフラと立ち上がり、剣を構えた。

「今そんなことをすれば、この大攻勢が終わってしまいます。この人は私が止めます…………ルパちゃん、一緒に戦ってくれますか?」

「…………もちろんです」

 ルパは弩を構えた。

 ハウセンは迷いのない二人の行動に驚く。クラナもだが、それに呼応するルパも尋常ではないと思った。

「総司令官に遅れるな!」

 ハウセンの怒声でガンルレック要塞側の兵士が動き出す。

 ベルリューネの手勢とぶつかった。

「おいおい、俺の相手は小娘二人か」

「「……………………」」

 クラナとルパは武器を構えて、何も言わなかった。

「ふん、腹を括った面白くない目だ。どっちかが死ねば、どんな顔をするだろうな? おっと総司令官殿は生け捕りにしないといけなかったな」

 ベルリューネは醜い笑顔をルパに向けた。

「私を簡単に殺せると思わないでください」

「生意気な小娘だ。こちらから行くぞ!」

 先に動いたのはベルリューネだった。狙いはルパだった。

「させません!」

 クラナが二人の間に割って入った。

「お前にこれが止められるか!?」

 ベルリューネは戦斧を振り下ろした。

 それをクラナは剣で迎え撃つ。

 見ていた者はクラナが両断されると思った。

「ちっ! まともじゃねぇ!」

 クラナは戦斧を弾き返した。

「俺が殺すだったら、どうするつもりだったんだ!?」

 ベルリューネはルルハルトの命令がある以上、クラナを殺せない。だから、戦斧を振り下ろす勢いを加減するしかなかった。だから、クラナでも受け止めることができた。

「実力差があることは分かっています。あなたに勝てるなんて大言壮語は言いません。それでも私はここで退くわけにはいきません」

「お前、馬鹿か!? 司令官がいなくなったら、戦いは負けだ!」

「私が陣頭に立つことでガンルレック要塞は一つになりました。ここで兵士に、民衆に背を向けるわけにはいきません!」

 クラナが前に出る。

 ベルリューネが応戦する。

 ルパは静かに弩を構え、引き金を引いた。

「おっと!」

 ベルリューネは躱す。

「お前の司令官に当たったら、どうするつもりだ?」

「そんなヘマはしません」

 ルパは別の弩を手にする。

「次は当てます」

「小娘どもが!」

 一人なら勝てない。でも、ルパがいれば、勝てる。クラナはそう思って、剣を振った。

「はぁ~~」

 ベルリューネは深い溜息を吐いた。

「諦めるか…………無傷で捕まえるのは!」

「えっ?」

 クラナは次の瞬間、吹き飛んだ。

 何をされたか、それを理解するまで少し時間が必要だった。戦斧の腹で思いっきり、叩かれたのだ。まったく反応が出来なかった。

 壁にぶつかり、クラナの体は停止する。呼吸が出来なかった。

「少しでも俺とやり合えると思ったか?」

 クラナはベルリューネと自分の力量の差を理解しないといけなかった。

(早く立たないと…………)

 しかし、立ち上がれなかった。

「ネジエニグ殿!」

 ハウセンが叫んだ。手助けをしたくても目前の敵で手一杯だった。クラナを守る兵力は無い。本陣の全員が交戦中だった。仮に駆けつけてもベルリューネを止められる力量がある兵士などいなかった。

「おい、死ぬなの? 俺がうちの大将に怒られる。少しそこで大人しくしていろ」

 ベルリューネはルパに向き直る。

「あなた、よくもクラナ様を…………!」

 ルパは怒りで震えていた。弩を放つ。

「そんな直線的な攻撃当たらねぇよ! 死ねや!」

 ルパを戦斧が襲う。

「言葉を返しますが、そんな直線的な攻撃、当たりませんよ」

 ルパはギリギリのところで避けて、小剣を鞄から取り出した。

「そんなおもちゃで何が…………!」

 ベルリューネは本能的に距離を取った。

「毒か?」

「………………」

 ルパは何も答えなかった。正解だった。

 ルパの両手の握力は極端に弱い。そんなルパが敵を殺すためには弩のような武器以外には毒しかなかった。

「陰湿な戦い方をする小娘だな」

 ベルリューネはルパに向き直る。

「待ってください…………ルパはやらせません…………!」

 クラナは何とか立ち上がった。フラフラとしながら、剣を構えた。

「クラナ様、逃げてください!」

 ルパは叫んだ。

「ごめん、ルパちゃん。私、もう歩く力も残っていないみたい、です…………」

 クラナは苦しそうに笑った。

「そんな状態で何ができる!?」

 ベルリューネはクラナを蹴り倒した。

 次の一撃から起き上がる余力はクラナに残っていなかった。そのまま動かない。

「おい、死んだか?」

 ベルリューネがクラナに近づく。

「クラナ様から離れなさい…………私が相手です…………!」

 ルパは紙筒を取り出した。それは純度の高い『神化薬』だった。吸引した瞬間、疲労が飛び、何でもできるような気分になった。

「一応作っておいて良かったです。懐かしい感覚ですね」

 ルパは猟奇的な笑みを浮かべた。

 ベルリューネはルパの異常にすぐ気が付く。

「おいおい、人間やめたのか?」

「そうかもしれませんね」

 ルパは二本の小剣を鞄から取り出す。そして、鞄を捨てた。

「行きます」

 ルパは正面から突っ込んだ。

「おいおい、正気かよ!?」

 ベルリューネは応戦する。

 しかし、違和感に気が付く。

 動きの俊敏さではベルリューネの方が上なのだが、戦いの主導権をルパに握られていた。

 動きを先読みされているようだった。

「なんだ、この小娘は!?」

 ベルリューネは予期しない苦戦を強いられる。

 対して、ルパは余裕だったかというとそんなはずはなかった。

 体は限界を超えて動かしていた。過敏になりすぎた感覚が気持ち悪い。早くベルリューネを殺さないと副作用でどうなるか分からなかった。

 ルパは左手の小剣を投げた。ベルリューネがそれに少しだけ気が逸れるとルパはベルリューネの懐に飛びこんだ。

「しまった!?」

「終わりです!」

 ルパは右手の小剣をベルリューネの腹部、鎧の隙間を狙って突き立てる。

「そ、、そんな…………」

 ルパの右手は小剣を持っていなかった。剣は地面に落ちていた。昔の後遺症で極端に握力が弱くなっている手を限界だった。

「脅かしやがって!」

 ルパは首を掴まれる。体が宙に浮いた。

「放しなさい!」

 ジタバタするが、こうなってはどうしようなかった。

「最初は高く売れそうなガキだと思ったが、やめだ。俺の勘がお前は危険だと言っている。この場で殺そう」

 ベルリューネは地面に落ちている小剣を拾い上げた。

「ほらよ!」

 ベルリューネは敢えて、ルパの肌が露見している腕に小剣を刺した。腕はすぐに青黒く変色していく。

「………………!」

 神化薬の影響で痛みはあまり感じなかった。

 しかし、毒が回れば、死ぬ。

 ルパは視線で鞄の場所を確認する。

「考えていることは分かるぜ!」

 ベルリューネはルパを地面に叩きつけた。脳が揺れたすぐには立ち上がれなかった。

「この中に解毒薬が入っているんだろ。残念だったな!」

 ベルリューネは鞄を遥か遠くに投げ捨てた。

 ルパは動けなかった。

「さて、毒で死ぬのを見ていたいが、もう少し持ちそうだな。やっぱ、普通に殺すか」

 ベルリューネは戦斧を肩に乗せて、ルパに近づく。ルパは睨み返す。

「まだ、そんな目ができるか。やはりお前は殺すべきだ…………!」

 ベルリューネの足に何かが絡みついた。

「ルパちゃんは殺させない…………!」

 クラナがベルリューネの足にしがみついた。

「殺されないと思って調子に乗ってんじゃねぇよ」

 ベルリューネは何度もクラナの頭を踏み付けた。

 それに耐えていたクラナもついには意識を失う。

「もう大人しくしてろ。さてと…………! おいおい、嘘だろ」

 ベルリューネがルパの方に向き直るとルパは再び小剣を握って立っていた。

 地面に叩きつけられた時、骨が折れたはずだ。毒は確実に回っている。

 それでもルパは再び立ち上がった。眼はベルリューネに対する敵意で満ちていた。

 ベルリューネは久しぶりに「ぞわっ」とする感覚に襲われた。

「こいつは確実に殺さないと駄目だ」

 ベルリューネから馬鹿にした口調は消え、冷徹な戦士の顔になる。

 戦斧を構え、そして、ルパに対して襲い掛かる。

 ルパは動けなかった。立っているだけで限界だった。

「ベルリューネ!」

 叫び声と共にベルリューネに向かって剣が飛んできた。

 ベルリューネが振り向く。

 そこにはユリアーナが立っていた。

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