ガンルレック要塞攻防戦八日目②~大攻勢~
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
ルルハルト本陣。
「いったい何が起きている?」
ルルハルトが静かに言った。
しかし、その表情は誰も見たことがないほど怒りに満ちていた。
周囲の兵士は何も発言できなかった。
普段は軽口をたたくベルリューネでさえ、押し黙った。
「あいつらを逃がすな! 殺せ!」
ベルリューネが知る限り初めてルルハルトが怒鳴った。
兵士たちは慌てて行動を起こす。
ベルリューネもここにいたら、堪らないと逃げ出すように戦場へ向かった。
ユリアーナたちは戦闘は意表突き、始めこそ優勢だったが、次第に数の不利が顕著になり、押され始める。
「まったく普通の剣は重いわね…………」
「すまない。いつもユリアーナ殿が使っている剣に似たものはリテリューン皇国軍にはなかったのでな」
「別にフィラックさんを責めているわけじゃありません」
「おい、しゃべっている暇があったら、手を貸せ!」
ルーゴンが怒鳴った。
「なんで私に命令しているの!? そもそも、あんたが勝手な…………」
「一応、味方同士だ。今は共闘しろ」
シックルフォールが言う。
「味方って、あんたは敵…………あ~~、もう! 訳わかんない! 絶対生きて、ここを切り抜けて、全部聞いてやる!」
ユリアーナは必死に剣を振るった。
「まったく老体にこの乱戦は堪える」
フィラックは肩で大きく息をしていた。
注意力が下がり、左から迫る敵兵の発見が遅れた。
しまった、と思った時だった。
敵兵の頭を矢が貫いた。
「父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
遥か遠くからルパの声がした。
「ルパがやったのか?」
フィラックはルパが一つに決断をしたことに気が付いた。
「頼もしい娘に成長したな。一言二言、言いたいことができた」
フィラックは剣を構え直す。
「隻眼の老人だ。打ち取れ!」
二人の兵士が同時に襲い掛かった。
「フィラックさん!」
ユリアーナは叫ぶが、助けにいけない。ユリアーナも敵に囲まれ、手いっぱいだった。
「老人か、確かにな。だがな…………」
フィラックは二人の敵兵の攻撃を受け流すと二回剣を振る。
その二回で敵兵二人を切り伏せた。
「これでもアレクビュー様に付き従い、何度も死地を潜ってきた身、簡単にはやられないぞ」
「すごい…………」
ユリアーナはフィラックが乱戦で戦うところを初めて見たが、無駄のない動きは歴戦の戦士だった。
ユリアーナたちが奮戦していると辺りが騒がしくなった。
グリューン隊が到着したのだ。
「敵は混乱している。一気に攻めかかれ!」
グリューンの声が聞こえた。
「グリューンさん、無事だったのですね!」
「それはこっちの台詞です! さすがに死んだと思いました」
グリューン隊の到着を皮切りに続々と味方が到着した。
その中には、
「ユリアーナさん!」
クラナの姿もあった。
「すいません。一度はあなたを見捨てました」
クラナは頭を下げる。
「あの状況なら当たり前です。それになぜか生きていますし、気にしないでください」
ユリアーナはクラナの姿には触れなかった。
疲労の色が濃くて、顔は青白い。目元には大きなクマが出来ている。
「さぁ、反撃ですよ! リョウたちの救援が来る前に終わらせちゃいましょう!」
「リョウさんたち、無事だったんですね!」
クラナの表情が明るくなる。
「クラナ様の手紙を見るまでは廃人同然でしたけどね。もう大丈夫です」
「ユリアーナ殿、これの方があなたはいいだろう」
アーサーンがそう言って、ユリアーナ専用の剣の予備を渡した。
「あなたも無事で何よりだわ」
「大変でしたよ。フィラック様もあなたもいなくなり、仕事が増えた」
アーサーンは苦笑する。
「まだ働いてもらうわよ!」
ユリアーナは使い慣れた軽さの剣を抜いた。そして、敵陣に走っていく。
「まったく、先ほどまで処刑されかけられていたのに大した人だ。ユリアーナ殿に後れを取るな! お前たちの隊長ルーゴンも生きていたぞ。隊長の前でお前たちの力を見せてやれ!」
ガンルレック要塞軍は混乱するリテリューン皇国軍に攻めかかる。
左翼も右翼も中央も勢いが止まらない。
特に中央にはクラナ、ユリアーナ、フィラック、アーサーン、グリューン、ルーゴン、シックルフォールら、主戦力が集中していた。
リテリューン皇国軍の中央を次々に打ち破る。
「あんたたちは…………」
ユリアーナはある男たちを発見する。
昨日の晩、服を破かれ、蹴られ、殴られた。
その当事者たちと戦場で出くわした。
「ほら、敵を討ちたいんでしょ?」
ユリアーナは剣を構える。
「死にぞこないが!」
男たちはユリアーナに襲い掛かるが、ユリアーナの動きには無駄がなかった。最小限の動きで男たちの剣をすり抜けると切り伏せる。
「なんだが、体が軽いわね。死の直前から帰ってきたからかしら?」
「何を呑気なことを言っているんですか?」
アーサーンがユリアーナの隣に来た。
「あなたはそろそろ引いてください」
「なんでよ? まだやれるわよ」
「剣一本でどこまでやるつもりですか? 鎧も付けていないのに」
「あ~~、だから、体が軽いのね。今度から鎧なしで行こうかしらね」
ユリアーナは笑いながら言う。
アーサーンは苦笑し、「大した冗談ですね」と言う。
「でも分かったわ。私は退くわね」
ユリアーナは最前線から撤退する。
ユリアーナがいなくなっても勢いが弱くなることはなく、ガンルレック要塞軍は次々にリテリューン皇国軍を打ち破った。