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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
144/184

ガンルレック要塞攻防戦八日目①~伏兵~

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 そして今…………

 シャマタル独立同盟陣営。

「ルパちゃん、アーサーン…………」

「なんですか?」

「なんでしょう?」

 クラナの声は震えていた。

 二人ともクラナの次の言葉を予感はしていた。

「ユリアーナさんが助かる可能性はありますか?」

 予感は当たったが、返す言葉がなかった。

 二人は沈黙する。

「そうですよね…………」

 クラナは取り乱したりしなかった。自分自身の一言、一動作にどれほどの影響があるかを理解していた。

 深々とユリアーナに対して頭を下げる。

 その光景はユリアーナに見えていた。

「立派になりましたね…………」

 ユリアーナはクラナの姿を見て安心した。

 感情的になって攻めてくれば、ルルハルトの術中に陥った。

 しかし、クラナはそうしなかった。ユリアーナが要塞を抜けてから何があったか、それは分からない。

 それでもクラナの姿は頼もしく見えた。

 ルルハルトもシャマタル独立同盟に動きがないと分かると兵士に何かを耳打ちした。

 その内容は簡単に想像できた。

(大丈夫、自分がいなくてもクラナ様はやっていける)

 そう思えた時、ユリアーナの心は穏やかになった。

「時間だな」 

 フードを被った処刑人の言葉で二本の長槍が構えられる。

 ユリアーナは瞳を閉じた。

 やり残したとはある。言い残したことはある。やりたいことはある。言いたいことはある。

 未練はたくさんあった。

 それでも自分の人生を思い返すと悪くなかったと思えた。

 人質として送られたシャマタル独立同盟ではとても優しい人たちに出会えた。

 盗賊として暴れまわり、捕えられて、処刑されそうになったところをグリフィードとルピンに救われた。

 白獅子の団はとても居心地が良かったし、みんな、シャマタル独立同盟の為に戦ってくれた。

 成長したクラナに出会い、今も成長している彼女を見れた。

 初恋の人と再会し、短い間だったが、夫婦にも成れた。

「いい人生だったわよね…………でも…………」

「やれ!」

 長槍がクラナに迫る。

「もっと生きたかったなぁ…………」

 二本の長槍はクラナを貫いた。事情を知らない者たちは誰もがそう思った。

 ルルハルトでさえ、そう思った。

「えっ!?」

 気が付くとユリアーナは地面に落ちていた。

 死の恐怖からおかしくなったのか。

 それとも死んでおかしくなったのか。

 などと思ったが、どちらでもない。

「生きてる?」

「呆然としている場合か!」

 処刑人がフードを脱ぎ、叫んだ。

「あんたは………………ルーゴン!? まさか、裏切ってリテリューン皇国に…………!」

「ち、違う! いったい何を話せば…………!」

「今は死地、ならば、やるべきことは一つではないかな?」

 今度の声は聞き覚えがあった。聞き間違えるはずなんてなかった。

「フィラックさん!」

 もう一人の処刑人がフードを取ると見知った隻眼の男がいた。

「今はただ戦い.この死地を抜けよう。ユリアーナ殿、戦えるか?」

 フィラックはユリアーナに剣を渡す。

「もちろん!」

 ユリアーナは剣を受け取った。

 同時に辺りに兵士たちも臨戦態勢になった。敵ではなかった。

 それはフィラック、ルーゴン、シックルフォールの兵士だった。

「まったくどうなっているの!?」

 訳も分からないうちにユリアーナは迫りくるリテリューン皇国軍と交戦状態に入った。

 


 クラナたちがいる物見矢倉。

「父さん…………!」

 ルパは今にも泣きそうだった。

 クラナは状況が分からなかった。

 しかし、直感で動くべき、と判断した。

「グリューンさんに連絡をしてください! 緊急出撃です! 各隊も準備出来次第、総攻撃に出ます!」

 この時のクラナの決断は早かった。

 ユリアーナを助けたい、という気持ちが一番に来ていた。

 しかし、それだけではない。

 クラナは冷静にこの混乱がリテリューン皇国を敗走させる好機だと判断した。

「かしこまりました!」

 アーサーンはすぐに出撃準備に入る。

 下を見るとすでにグリューン隊が出撃した。

「ルパちゃん、行ってきますね」

「父さんをお願いします!」

 クラナは自身の体調不良など忘れて体を動かす。

 何が起きているのか全てを理解できたわけではない。

 それでもここが突然出現した勝負どころだと判断した。

「ハウセンさん、出ます」

 ハウセンはリテリューン皇国の混乱を見て呆然としていた。

 ほとんどの者が動けなかった。

 ガンルレック要塞軍を動かしたのはクラナだ。

「は、はい!」

 ハウセンは二十にもならないクラナの決断力を魅入った。

「これが英雄…………」

 ハウセンはクラナの背中を追う。


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