看病、訪問者、そして衝撃
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
ルパの自室。
クラナはルパに支えてもらって何とか自室に戻ると、ベッドに倒れこんだ。
ルパはクラナの衣服を脱がせ、お湯と布を持ってきた。
「失礼します」。
布をお湯で濡らせるとクラナの体を拭き始める。
「痛いですか?」
「大丈夫です…………」
ルパはクラナの体を拭き、傷を消毒し、清潔な布を充てた。
「何か食べ物を持ってきますね。何なら食べられますか?」
「何も食べたくありません」
「駄目です。何かは口に入れてください」
ルパはいくつかの果物をすり潰して、牛乳と混ぜた飲み物をクラナに渡す。
クラナは起き上がり、何とかそれを飲み干す。
「こんな状態でも止めないんですね…………驚いています…………」
クラナは独り言とも取れるような声量で言った。
「止めたいですよ。でもこれはクラナ様が選んだ道です。クラナ様が無理と言わない限り私はもう止めません…………」
「ありがとうございます…………」
「さぁ、薬を飲んで寝てください」
薬を飲むとクラナは少しだけ穏やかな表情になり、眠りにつく。
それを確認するとルパは倒れこんだ。
「まったく人の心配をしている場合じゃないですね…………」
この日、ルパは朝から何も食べていなかった。『神化薬』の副作用で嘔吐することを極力避けるためだった。
ルパは残った果物を手に取り、齧った。
「何も味がしない…………」
ルパは果物を食べ切った。戻しそうになり、それを強引に水で流し込んだ。
「私も体を拭きたいです…………」
ルパはフラフラとドアに向かった。
コンコン、とドアを叩く音がした。
敏感になっていたルパの感覚は過剰に反応しビクッとなった。
「一体誰ですか…………?」
ルパが扉を開けるとそこには同世代くらいの少女が立っていた。
「…………すいません。誰ですか?」
ルパが見たことのない少女だった。
「あなたの噂を聞きました。どうか、父の力になってください…………」
少女は深々と頭を下げた。
ルパは難しい顔になった。
「事情を聞かないと訳が分かりません」
「私は…………」
それを聞いた時、ルパは少しだけ考えた。
「…………分かりました。協力します。ですが、あなたやあなたのお父様は後悔しませんか?」
「これは父の願いです」
少女は震える。
「そうですか」
ルパは強力な鎮痛作用のある薬物を渡す。
「これは薬と呼べるものではありません。一時的に痛みからは解放されますが、使用者の命を全て食い尽くします。使うのが怖くなったら、捨てて構いません」
ルパが協力を承諾したのは少女や少女の父親の為ではなかった。それがクラナの負担軽減になる可能性があったからである。
ルパから薬を受け取った少女はもう一度、頭を下げた。少女は泣いていた。
突然の来訪者は去っていった。
「なんだか、もう動くのが面倒です…………」
ルパはクラナの体を拭いた余りのお湯で布を濡らした。お湯は完全に冷えて、水になっていた。
体を拭き終えるとルパはクラナのベッドに入り込む。
「お互いボロボロですね…………もう少し頑張りましょう…………」
クラナに触れると不安感が少しだけ解消される。少しだけ寝ることができた。
次の日の朝、クラナが目を覚ますとルパの姿はなかった。体は怠いが、何とか動くことは出来る程度に回復していた。
コンコン、とドアを叩く音がした。
「入っていいですか?」
ルパの声がしたのでクラナは「はい」と言った。
「あはようございます。朝は何か食べられますか?」
ルパは肉やパン、野菜や果物を持って入ってきた。
「はい、少しなら食べられます」
「良かったです」
クラナはパンを半分と干し肉を一齧りした。
「これも飲んでください」
ルパは昨日と同じように果物をすり潰して、牛乳と混ぜた飲み物を渡した。
「いただきます」
クラナは強引にそれを飲み干した。
食事を終えるとクラナは剣と手にした。それは酷く重かった。
あと何日持つだろう、とクラナは自分の体の限界を考える。
「大変です!」
アーサーンの慌てた声がした。
「どうしたのですか?」
「クラナ様、とにかくこちらへ!」
アーサーンに言われて、クラナは物見矢倉に上った。
遠くに見える光景を見てクラナは絶句した。
「ユリアーナさん…………!」
クラナが見たのはリテリューン皇国に囲まれ、生きたまま磔にされているユリアーナだった…………