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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
138/184

ルパの犯した禁忌

今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。

『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。

体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。

今後もよろしくお願い致します。

 クラナたちは急いで民衆を部隊の中に組み込んだ。

 編成が終わったのは真夜中だった。

 クラナは疲労の限界を超え、フラフラで自室に戻った。

 だから、重要なことを忘れていた。

「で、クラナ様、あなたが私に何をしたか言ってみてください?」

 部屋に入るとルパがベッドの上に胡坐で腕組をして待ち受けていた。

「あっ…………!?」

「とりあえず、判決。死刑です」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!」

 クラナは膝をつき、地面に額がこすれる寸前まで頭を下げた。

「えい!」

 ルパは躊躇わずにクラナの頭を踏み付けた。ゴン、という音がして、クラナの額は地面に激突した。それで終わらず、ルパは足を動かし、クラナの頭をグリグリとした。

「もう一度言いますね? クラナ様、私に何をしましたか?」

「渠内に一発入れて、気絶させました」

「そうですね。本当に苦しかったんですよ。それに痣になってます」

 ルパは服を捲って青くなっている渠を見せた。

 しかし、クラナはそれを確認できない。この間もルパは足でクラナの頭をグリグリしていた。

「あの、ルパちゃん?」

「なんですか?」

「そろそろこの態勢、許してもらえませんか!?!」

 強引に動くことは出来るかもしれないが、できない。心が折れていた。

「まったく司令官がこんな姿をしているなんて威厳に関わりますね」

「それはルパちゃんが…………!」

「んっ? 何か言いました?」

「なんでもありません!」

「私が目覚めた時、どれだけ怖かったか分かりますか?」

「………………ごめんなさい」

 ルパはやっとクラナの後頭部から足をどけた。しゃがんで視線をクラナと合わせる。

「余罪もありますよね。私も自分のことでクラナ様に対して、気遣いが出来ていませんでした。けど、私の薬箱から薬を盗むなんていい度胸していますね?」

「ひっ!」

「とりあえず、盗んだ薬は没収です。今のあなたに効果的な薬を渡しますから」

「えっ? ありがとうございます…………」

 クラナは何もお咎めがなかったことに驚いた。

「勘違いしないでください。勝手に薬を使ったことは怒ってますからね。私に相談してくれればよかったのに…………」

「言ったら、戦うことを止められる思って…………」

「止めたいですよ。でもクラナ様は止まらないでしょ? なら、その範疇で私は最良の選択をするしかないじゃないですか」

 ルパは泣きそうだった。

「体調、正直に教えてくれますか?」

「…………はい。ずっと頭が痛いです。耳鳴りも止みません。関節は動かすたびに痛みます。熱もあります。視界もたまに霞ます。あと、それから…………」

 クラナは言葉を詰まらせる。それは恥ずかしさからだった。

「それから?」

 ルパには予想がついた。

「三日くらいお腹を下しています…………」

「そうですか…………クラナ様、明日はどうするのですか?」

「最前線に出ます。もう後がありませんから」

 クラナは迷わず答える。

「分かりました」

 ルパもすぐに答えた。

「なら、私も前線に立ちます。使った後に慌てられても困るので今のうちに言っておきますけど、明日、私は『戦乙女』の力を使います」

「戦乙女?」

「超遠距離から敵を射抜いたあれですよ」

「駄目です!」

 クラナは即答した。

「あれは絶対にいけない力ですよね!?」

「クラナ様、自分が体調不良を押して、戦場に立つのに私には無理をするなというのですか? クラナ様が命を懸けているのに私を止める資格がありますか?」

「それは…………なら、せめてあの力の正体を教えてください。そうしないと不安が増えます」

「クコキシル麻薬をご存じですよね?」

「大陸最悪の麻薬ですよね。各国が合同で撲滅をしようとしているほど危ない」

「昨日私が吸引したものにはクコキシル麻薬が含まれています」

「!!?」

「クコキシル麻薬には強烈な快楽と強い依存性、そして、鎮痛作用がありますが、ここに幾つかの薬を加えると脳を強制的に活性化させるのです。微風が暴風のように感じる聴覚と感覚、はるか遠くを見たはずなのに目の前を見たような視力、僅かな匂いに反応できる嗅覚、その代わり味覚は完全に死にますけどね。そして、筋力は限界まで跳ね上がります。痛みを感じないので骨が折れても筋肉がズタズタになっても動き続けます。人の域を逸脱した存在になります。私たちはこれを『神化薬』と呼んでいました」

「そんな力に代償がないはずがありません」

「もちろん代償はありますよ。そもそも、私と共同生活をしていた同世代の子供たちは全員、薬を投与され始めてから一週間、長くても半年で発狂して死にましたから。投薬に一年耐えた者だけが『戦乙女」になります」

 クラナは絶句した。

「ローエス神国は子供を誘拐したり、お金に困った家庭から買ったり、熱心な教徒から娘を差し出させて、『戦乙女』を作り出していました。

「なんで戦乙女なんですか? 男性の方が強くなるはずです」

「それは男性より女性の方がこの薬を許容量が遥かに多いからです。昔、男にも投薬実験をしたらしいのですが、ついに成功しなかったらしいです。薬には耐えられても超人的な力を覚醒させる『神化薬』に溺れて、敵味方構わず攻撃してしまう獣になってしまったらしいです」

「そんな薬を使ったら、ルパちゃんだって廃人になるかもしれないじゃないですか!?」

「無理な乱発をしなければ大丈夫です。私はクコキシル麻薬を研究して、薬を改良しました。能力は弱体化しますが、体と精神への負荷は軽減できています」

「なんでルパちゃんがクコキシル麻薬を所持しているんですか。それがバレたら、ルパちゃんは…………」

「私は危険なものだからと言って、目を背けるのはどうかと思います。人はやけどの危険を冒して、火を生活の中に取り入れました。危険なものが必ず害になるとは限りません。というわけで、クラナ様にこれを渡しておきます」

 ルパはクラナに小さな包みを渡した。

「強力な解熱作用と鎮痛作用がある薬です。クコキシル麻薬も入っています」

「!?」

「ですが、幻覚作用や依存性はありません。中和されています。そういう風に配合しました。受け取りますか?」

 クラナの中に迷いがなかったわけではない

 しかし、ルパから盗んだ薬の効き目が薄くなっているのは事実だった。麻薬の副作用がなくても、強引な解熱と鎮痛の反動が来ることは明白だった。

 ルパを見ると差し出した手が震えていた。その心境を理解する。本当ならこの薬を断って、ベッドで横になっていてほしいのだろう。

 クラナはルパに対して心の中で「ごめんなさい」と言って、包みに手を出した。 

「受け取ります」

「そうですか…………。交換条件はわかっていますよね?」

「はい、でもその『神化薬』の使い過ぎには注意してください」

「クラナ様も薬には限界があることを理解してくださいね。万能薬なんてないんですから。…………明日のことを考えたら、中々寝れそうにありません。一緒に水を浴びに行きませんか?」

「私もです。その後、一緒に寝てくれませんか? 二人なら少しだけ寝られそうです」

 その日、二人は一緒のベッドで寝た。人の温もりが二人の不安を少しだけ軽減させた。

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