ガンルレック要塞攻防戦六日目③~アーサーン、動く~
今回の連続投稿で『雄飛編』を完結させます。
『雄飛編』完結まで毎日23:00~24:00の間に投稿する予定です。
体調・仕事の関係で投稿が滞ることがあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後もよろしくお願い致します。
時間は少し遡り、グリューン隊がリテリューン皇国軍の左翼を突破した直後。
アーサーンはクラナから自由な権限を貰っていた。僅かな兵を動かし、リテリューン皇国軍の動向を観察させていた。
アーサーンはグリューン隊に突破された敵の左翼の次の動きが速かったことが気になった。
「まるで予定通りの動きのようだな…………これはクラナ様の策が見破られたかもしれない。となるとグリューン隊が危ない…………」
アーサーンは少ない時間で思考する。
もし自分が敵の司令官だったら、精強なグリューン隊をどのように殲滅させるか考える。
結論はすぐに出た。
「出陣だ。それから急いで…………」
アーサーンは兵士たちに「ある物」を用意させ、出撃する。
「友軍の窮地を救うぞ!」
アーサーン隊が駆けつけた時、グリューン隊は包囲されていた。
「やはり、弓や投石でグリューン殿を討ち取るつもりか! そうはさせない、煙幕を張れ!」
アーサーンは用意させた煙幕を使った。
「なんだ!? 新手か! おい、弓隊、投石隊、早く放っちまえ!」
ベルリューネが慌てて、指示するが、すでに煙幕がグリューン隊を消していた。
「感謝する!」
両軍が煙幕の中での戦闘になった。
こうなると強いのはグリューン隊だった。
狙いを付けられずに困惑しているリテリューン皇国軍の兵士に襲い掛かる。
接近戦の練度は比較にならない。あっという間にリテリューン皇国軍は敗走する。
「見つけたぞ、ベルリューネ!」
グリューンがベルリューネに襲い掛かった。
「てめぇと一騎打ちは予定にねぇんだよ!」
ベルリューネはグリューンの剣を三度受け流し、退く。
「逃げるのか!」
「なんとでも言え!」
グリューンは追撃を断念する。もし、煙幕が晴れた先で敵が待ち構えていたら、今度こそ討ち取られてしまう。グリューン隊、アーサーン隊は標的をベルリューネからリテリューン皇国軍の中央に変えた。
中央の戦いに参加し、戦線を押し返す。両隊の加わった中央の戦いはガンルレック要塞軍が優勢だった。ついにリテリューン皇国軍を敗走させる。
それはこの日の戦闘で唯一の勝利だった。
ルルハルト陣営。
ベルリューネは憂鬱な気分で帰還した。
「何があったか、聞かせてみろ」
ルルハルトは少しだけ苛立っていた。
ベルリューネはルルハルトが苛立っているところを初めて見た。
背中に嫌な汗をかく。
「俺はあんたの言うとおりにやりましたよ。あんなに早く援軍が来るなんて予想できなかった」
「それでも数ではお前の方が勝っていたはずだ。退く必要があったか? その場で戦い続ければ、敵を殲滅できた」
「俺たちは奇襲されて混乱したんですよ。そんな戦い方をすれば、こっちだって損害が増すばかりだ」
「だから退いたか? 結果がこの様だ。中央は押し返され、今日中に決着が付けれれなくなった」
「決着が明日になっただけです。明日は待たないでしょうよ」
ベルリューネはルルハルトの目を見れなかった。
次の瞬間、何を言われるか、と生きた心地はしなかった。
「まぁ、いい。過ぎたことは仕方ない。各戦線、戦闘をやめさせろ。今日はここまでだ」
ルルハルトにとって、ここまで思い通りにならないのはキグーデ平原の戦い以来だった。
「ここにリョウはいないのになぜだ…………?」
ルルハルトは呟く。
中央の戦いで勝利し、今日を生き残ったガンルレック要塞軍。
しかし、損害は大きかった。
左翼は最終防衛線まで押し込まれた。
右翼は善戦したが、疲労は著しい。指揮官のグリラフも負傷した。
中央の戦いは勝利したもののリテリューン皇国軍の指揮官は誰も討ち取れなかった。明日、兵力を増強し、再攻撃をしてくるのは明確だった。
全体の戦局はガンルレック要塞側にとって、極めて不利な状況だった。