ガンルレック要塞攻防戦六日目①~クラナ・ネジエニグ対ルルハルト・ラングラム~
六日目は朝から騒がしかった。
リテリューン皇国軍の総攻撃の鐘がなる。
ルルハルトは今日でこの戦いを終わらせるつもりだった
クラナはシャマタル独立同盟軍を防衛に主戦力を当てた。左翼にはダステイ中隊長と六百の兵士、右翼にはグリラフ中隊長と六百の兵士を配置した。共に元シャマタル独立同盟第十連隊のユーフ連隊長の元で活躍した中隊長である。中央の七百の兵士はクラナが直接指揮をする。
その他に予備兵力としてアーサーン隊とグリューン隊を配置した。
シャマタル独立同盟本隊・アーサーン隊・グリューン隊を含めて総兵力三千五百弱。
対するリテリューン皇国軍は総兵力三万。
十倍近くの兵力差があった。
強みがあるとしたら、シュタットの考えた防衛線、地の利だけである。
市街地戦の為に急造ではあるが、柵を設置した。
弓隊は高台を抑えているので、有利に戦える。
クラナは深呼吸をし、なるべく気持ちを落ち着かせる。
十分に戦えると思った。
「緊急報告! 左翼の守備兵が第二防衛線まで突破されました!!」
しかし、現実はそうならなかった
「!?」
クラナはすぐに声が出せなかった。
リテリューン皇国の侵攻速度が速すぎた。
「馬鹿な防衛の為の柵があったはず!」
ハウセンが怒鳴る。
「破壊された模様です!」
「なんでそんな速度で…………あっ!」
クラナは突破された箇所を見る。そこは要塞内で唯一、広い直線の道が敷かれている箇所だった。要塞内での戦い、歩兵同士での戦いを想定した防衛線は機動力に対応できなかった。
「たぶん牛を突進させて、柵を破壊して、その後に騎兵を…………いえ、そんな起きてしまったことを考えている場合じゃありません。相手が騎兵を使っているなら、左翼の守備兵は東第四地点まで後退させます」
クラナが指定した場所は道が狭くなり、道が複雑に入り組んでいる場所だった。
「そうすれば、敵の騎兵は機能しなくなります。すぐにダステイ中隊長に連絡してください」
「司令官代理、そんなことをすれば、敵が喉元まで来ますよ!」
クラナの言葉にハウセンは異を唱える。
クラナの指示した『東第四地点』とは昨日考えた防衛線の内、左翼の最終防衛地点だった。
「分かっています。しかし、そうしないと今のままでは兵力が分散し、各個撃破をされてしまいます。今は一瞬の決断が命取りです」
クラナは即答する。ハウセンはそれ以上何も言えなかった。
自分より若く、女であるクラナに気圧された。
ハウセンはクラナのことをあまり高く評価していなかった。周りに優秀な人材が多い為、英雄になれたと思っていた。
しかし、今のクラナは不測の事態に瞬時に反応して見せた。
(これが凡人に出来ることだろうか?)
ハウセンの内側でクラナの印象が変わり始める。
シュタットの言っていた『英雄』について考えたくなる。
「分かりました。伝令には私が行きましょう。要塞内の地理には詳しいです」
しかし、今はそんな時間はない。
この戦いが終わった時、クラナ・ネジエニグと自分自身が生き残っていたら、『英雄』を見ることができるかもしれない。
だから、ハウセンは自分に出来ることをやる。
「お願いします」
ハウセンはクラナ対し、少しだけ『英雄』の素質を予感した。
「今後は知らずとも今はあなたが必要だ」
ハウセンは左翼に急行する。
ダステイ中隊長に会うことができ、クラナの言葉を知らせた。
「分かった。我らは防衛の最終地点まで退こう」
ダステイは疑うことなく、撤退を決めた。
左翼は最終防衛線に兵を再集結し、リテリューン皇国軍を迎え撃つ。この迎撃は成功し、ガンルレック要塞軍の崩壊は辛うじて防がれた。
しかし、全体の崩壊の危機が去ったわけではない。
クラナとルルハルトが総指揮を執る戦いは始まったばかりだった。