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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
129/184

クラナとルパ、ルピンを語る

 四日目の夜。

 クラナは寝れなかった。

 そうなることは予想していた。

 興奮、恐怖、不安、安堵、様々な感情でクラナの頭の中はグルグルしていた。

 クラナは気を紛らわす為にシュタットから届いたガンルレック要塞の地図を机の上に広げる。

 地図の上に石を置き、城壁が突破された際、どのように戦線を作るか考える。

 それがあまり意味の無いことだと分かっていた。クラナにはリョウのような画期的な策を思いつく知識も、ルピンのように緻密な策を構築する技術も、フィラックやアーサーンたちのように対応する経験もない。何とか今日一日を凌ぎ切ったが、自分がどれだけ周りに支えられて戦っていたかを痛感した。

「自惚れないこと、それだけは気を付けましょうか」

 クラナは自嘲する。

 不意に部屋のドアが軽く叩かれた。

 感覚が過敏になっていたクラナはビクン、と跳ねた。

 少し不安に思いつつ、ドアの方へ向かう。

「誰ですか?」とクラナは問いかける。

「私です。開けてくれますか?」

 声の主はルパだった。

 クラナはすぐにドアを開けた。

「夜遅くにすいません。寝ていましたか?」

 クラナは首を横に振った。

「ルパちゃん、私を気遣って来てくれたのですか?」

 クラナは申し訳ないと思った。

「違います」

 しかし、ルパは即答で否定した。

「私が寝れないから来たんです」

 ルパがクラナのベッドの中に入ってくる。

 クラナもベッドに戻った。

 ルパの体は震えていた。

「今は一人でいたくないです。一人でいたら、悪夢で気が触れてしまいそうです」

「ルパちゃん…………」

 クラナはルパを抱き締める。

 ルパは難しそうな顔になる。

「…………あれ? クラナ様、熱がありませんか?」

 ルパはクラナの体温がいつもと違うことに気が付いた。

 クラナはビクッとする。

「そ、それは気にしなくていいんです!」

「いえ、気にしますよ。そうだ、今から私、部屋に戻って…………」

「この部屋から出て行ったら、入り口を家具で塞いで入って来れないようにしますからね! 大丈夫です。ルパちゃんから貰った薬は飲んでいますから。結構、楽になったんですよ」

「クラナ様、冗談抜きで真面目に話しますね。私は体調不良のクラナ様を戦場には立たせたくありません。でも、あなたは止まらないでしょう。昔のあなたは止まっていました。生きているのに死んでいた。あの戦争があなたを動かした。リョウさんがあなたを動かした。私、結構悔しかったんですよ。私や父さんや母さん、アレクビュー様でも動かなかった心を突然出てきた男なんかに動かされて、やっぱりあれですか? 恋は偉大ですか?」

「わ、私は最初からリョウさんのことを好きだったわけじゃありませんよ! ちょっと、気になっていましたけど…………出会いはあまり良くありませんでした。初対面で胸を揉まれるし…………」

「はぁ!?」

 ルパはらしくない声を上げた。

「じ、事故ですよ! 故意じゃありません」

 クラナはすぐに訂正した。

「それに私を変えてくれたのはリョウさんじゃありませんでした」

「じゃあ、誰ですか?」

「ルピンさんです」

「…………ルピン・ヤハランですか。クラナ様、ヤハランのことを少しだけ聞かせてくれませんか?」

 クラナは少し驚く。ルパが初めてルピンのことを聞いてきたからだ。アーサーンと会ったことで何か変化があったのだろうか、と思った。

「私、初めはファイーズ要塞の司令官なんて無理だって訴えたんです。ルピンさんはそんな私に言葉をかけてくれました」

「優しい励ましの言葉ですか?」

 クラナは苦笑する。

「いいえ、『あなたは虫以下ですか?』みたいなことを言われました」

「酷いですね」

「でも、私にそんな厳しい言葉をかけてくれる人はルピンさんだけです。リョウさんやユリアーナさんたちも私には気を使って話してくれます。容赦の無い言葉で私を叱ってくれたのはルピンさんが初めてです」

「クラナ様って罵倒されると興奮される方ですか?」

「違います! ルピンさんには色々と教えてもらったって話です! 容赦の無い言葉攻めで泣いたことだってあるんですからね!」

「でも、そう言ってくれる人は貴重ですね。今回の遠征にヤハランがいたら、何かが変わっていたと思いますか?」

「もしも、を言っても仕方ないですけど、絶対に変わっていたと思います。今頃、リョウさんとルピンさんの力でルルハルトさんと決戦になっていたかもしれません」

「ヤハラン…………いずれ、会って色々なことを聞きたいものですね。私もクラナ様が信頼するなら話してもいいと思えてきました」

「そうですね。ルパちゃんとは気が合うかもしれません」

「どうやってクラナ様を虐めるか、楽しい話になりそうです」

「ローエス神国を抜け出すと性格が歪むんですか!? アーサーンはあんなに常識人なのに…………」

「一回裏切ろうとしてますけどね。あの方はローエス神国の人らしくありませんね」

「そうなんですか?」

「はい、私、そして恐らくヤハランもローエス神国から逃げないといけない理由が出来てしまったので脱国しました。あの方は違います。自分の意思でローエス神国から抜けたのです。それは簡単に出来ることではないです」

「ルパちゃんが人のことを褒めるなんて珍しいです。ルピンさんのことを聞こうと思ったのもアーサーンに会ったからですか?」

「そうです。私も止まっていたのかもしれません。この戦いが終わったら、自分の過去に向き直ろうと思います。みんな、前に進んでいるのに私だけ止まっていたら、いけませんね………………話をしていたら、少しだけ気持ちが楽になりました。どうにか寝れそうです」

「そうですか。私も少しだけ気持ちが紛れました」

 二人の会話はそこで終わった。



 次の日。

「クラナ様、そろそろ起きてください」

「うっ…………」

 ルパの声でクラナは目を覚ました。

「おはようございます。今日が始まりますね」

 ルパが言う。

「はい、今日も生き残らないとですね」

 クラナは立ち上がった。多少の頭痛と体の疲れはあったが、動くのには問題なかった。



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