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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
128/184

シュタット司令官の決断

 四日目の戦闘終了後。

 シュタットの本陣。

「各所で味方が奮起し、リテリューン皇国を撃退しましたね」

 ハウセンが興奮気味に言う。

 クラナは自分の出来る限りの策を使ってリテリューン皇国軍を撃退しただけではなく、出陣して逆撃を食らわせた。

 アーサーンは始めこそ、苦戦したが終わってみれば、ルーゴン隊を上手く指揮してリテリューン皇国から奪われた拠点を奪い返した。

 グリューンに関してはさすがの一言だった。

 リテリューン皇国の攻勢を完膚なきまでに返り討ちにした。

「その様だな」

 しかし、シュタットは冷めた口調だった。

「今が有利だからと言って勝利が我らにあるとは思わないことだ。我らは既に全力で敵に当たっている。これ以上、予備戦力は持っていない。ラングラムは我々に全力を強いているようにも感じる。我らの限界が早まるように狙っている…………ハウセン、これを見ろ」

 シュタットはガンルレック要塞の内部地図を広げた。

 ハウセンはその地図を初めてみた。

 地図事体は普通の市街地の地図だったが、そこにはいくつもの印があった。

「今、この要塞を守る兵力はギリギリだろう。城壁は防衛線としては広すぎる。それにこの要塞は強固と言うわけではない。城壁は決して高くない。堀や自然を利用した要害も存在しない。当たり前だ。この地が戦地になることはイムレッヤ帝国の建国から現在まで無かったのだからな。要塞の防衛能力は百年前から何も変わっていない。しかし、それは城壁の話だ。要塞の大規模改修には中央の許可と莫大な費用が必要だが、市街は別だ。建物を作るのに中央の許可は必要ない。それに城壁を新たに作るよりはるかに低い費用で防衛の強化が可能だ。この要塞は城壁が落ちた後も市街地で防衛戦を形成できる。私が赴任した時から徐々に街を作り替えた」

 言われてみて、ハウセンは印が防衛線を形成していることに気が付いた。

「防衛の要所に存在する建物は石造りだ。火計で焼かれることもない」

「閣下、凄いです! この要塞にこんな防衛機能があったなんて………いつか、このような事態が起きると予想していたのですか?」

「私にそんな先見の目はない。だが、要塞の司令官になった以上、その役割は要塞を守るために最善を尽くすことだ。敵が来ない、と決めつけて何もしないのは凡人ではなく、愚者だ。私は凡人であっても愚者ではない」

「閣下はご自分のことを凡人と言いますが、私にはそう思えません」

「いいや、私は凡人だ。だから要塞一つを守るのに手いっぱいなのだ。…………ハウセン、この要塞の地図を各城壁の指揮官、ネジエニグ殿、アーサーン殿、グリューン殿に送れ。東西南北、いずれかの城壁が突破された場合、印のある市街地へ撤退せよ、と。防衛方法も全て説明せよ」

「そんなことをすれば、この要塞の詳細を教えることになります。今後、この要塞はその機能を失うことだって考えられます」

「構わん。今後、など今は考える余裕がない。それに今、最も奮戦しているシャマタル独立同盟は少し前まで我らの敵であった。そんな彼らが私たちの為に戦っているのだ。信用してこれぐらいするのは当然であろう」

 シュタットの言葉に力が入った。

 ハウセンは直ちに各方面に伝令を送った。

 伝令が返ってくるのは早かった。

 クラナ、アーサーン、グリューン、三人の指揮官からはいずれも「了解」という返答だった。

「シャマタルの良将、シャマタルの英雄、カタイン殿の懐刀。どの方も私が指揮するには恐れ多い」

 シュタットは苦笑する。

 こんな窮地なのにシュタットは生きていることを強く感じていた。

 辺境の要塞の司令官、それが自分の最後の役職でパッとしない人生だったと自覚していた。

 それがこのような大戦に巡り合えたことで眠っていた何かが目を覚ます。

 自分は凡才だと自覚しながらも、天才と相対することに恐れはなく、高揚感があった。

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