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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
126/184

ガンルレック要塞攻防戦四日目④~東門の攻防戦、アーサーンの虚偽~

 この日の東門の戦いは開戦当初から苦戦を強いられた。

 東門にはリテリューン皇国に何カ所も橋頭堡を作られていた。

 無理もない。東門の指揮官だったルーゴンが生死、行方が不明。死傷者も多く出した。

 戦意はないに等しかった。

 それでもアーサーンは自身が引き連れてきた五百の兵士と共に奮戦し、どうにか東門の防衛をしていた。

「アーサーン様、とてもじゃありませんが人が足りません!」

 それでも各所の防衛戦は限界に近かった。

「一度折れた者たちを立ち直らせるのは至難のことか…………」

 アーサーンは奥歯を噛みしめた。

「ルーゴン隊へ会いに行ってくる。少しの間、持ち堪えてくれ」

 アーサーンは言い残し、ルーゴン隊の元へ向かった。

 ルーゴン隊は今日の開戦直後に大半が敗走して戦線に復帰する気配がなかった。

 アーサーンがルーゴン隊の者たちの元へたどり着くとそこにいたのは半死人のように生気の無い兵士たちだった。

「お前たちは何をしている!」

 アーサーンの怒声に数人が反応したが、その反応は鈍かった。

「ここはお前たちの戦場だろうが。なぜそれを放棄する!?」

「もうおしまいだ。敵はあんなに大軍、俺たちが頑張ったって、どうせ他が突破される。敵はあのラングラムだ。ルーゴン将軍だって勝てなかった」

 アーサーンの予想していた通りルーゴン隊の士気は壊滅的に低かった。

 アーサーンは心の中で「リョウ、許せ。クラナ様、ユーラン殿、お許しください」と呟き、口を開く。

「確かに並の指揮官なら絶望的であろうな。しかし、今、この要塞には私がいる。先の戦争でイムレッヤ帝国を水面下で防いだ私がな」

 その言葉に何人かが顔を上げた。

「あなたがイムレッヤ帝国を防いだ?」

「そうだ。クラナ様は所詮、御旗。実際の指揮は私が行っていた。そして、あの戦争が始まってから終わるまで最前線に立ったのは私だ。オロッツェ平原の戦いでは壊滅した友軍を救い出し、ファイーズ要塞攻防戦ではあの歴戦のエルメック将軍に痛手を負わせた。私を恐れたエルメック将軍は主力が抜け、圧倒的有利な状況だったにも関わらず、ファイーズ要塞に私がいたから攻撃を躊躇った。あのエルメック将軍ですら私を恐れたのだ」

「あのエルメック将軍が恐れた…………」

 イムレッヤ帝国の兵士でエルメックの功績を知らない者はいない。アーサーンはその名前を使って、ルーゴン隊を騙す。

「私の言うとおりにしていれば、勝てる。お前たちは敗残兵ではなく、この戦いを勝利に導いた英雄にしてやろう!」

 アーサーンはらしくない、と思いつつ、演説じみた言い方でルーゴン隊の懐柔を試みる。

「しかし、だとしてもそれなら北門が危ないのでは?」

 一人の兵士が指摘した。

「そうだ。北門にはお飾りの指揮官しかいないことになる。ここが守られても北門が落ちるぞ」

「その心配はない。クラナ様には天才的な軍事的才能があった。私がそれに気付き、クラナ様に私の持つ秘伝の兵法を叩き込んだ。クラナ様はそれを十分に発揮し、見事天才イムニア・フォデュースに勝ったのだ。お前たちの味方にはエルメックが恐れた私とあの天才に勝ったクラナ様がいる。これでラングラム程度に負ける理由がどこにあるか! はっきり言おう。私にとってはお前たちイムレッヤ帝国の方が手強かったぞ。私が苦戦した帝国兵士として力はこんなものか!」

 ルーゴン隊の兵士が顔を上げるのを確認するとアーサーンはさらに続ける。

「今のお前たちはただの敗残兵だ。しかし、この戦いが終わった時には英雄になっていることを約束しよう。私と共に戦え!」



 東門、最前線。

「もうダメだ! これ以上は持ち堪えならない!」

 東門は崩壊寸前だった。

 負けたと誰もが思った。

「余所者だけに戦わせるな! イムレッヤ帝国の兵士の、ルーゴン隊の意地を示せ!」

 声と同時にルーゴン隊が来援し、リテリューン皇国軍を押し返した。

「すまん。今までよく持ち堪えた!」

 続いてアーサーンも到着した。

「アーサーン様、どのようにしてルーゴン隊を奮起させたのですか?」

「口にするのも憚れるような嘘でな」

「は?」

「いや、今はそんなことはどうでも良い。一時下がって、休息を取れ。怪我をしているものはその手当もだ」

「かしこまりました!」

 アーサーンはリテリューン皇国軍に向き直った。剣を抜いた。

「まさか私がイムレッヤ帝国の兵士を指揮して、南方のリテリューン皇国と戦うことになるとは数奇な運命もあるものだ」

 ルーゴン隊の参戦は戦局を変えた。勢いのままにリテリューン皇国軍を押し返し、占拠されていた拠点を次々に奪還する。

「いいか、間違っても敵を深追いするな。この東門を占拠している敵を殲滅するのが最優先だ」

 ルーゴン隊の勢いは止まらず、夕刻までに全てのリテリューン皇国軍の橋頭堡を潰すことに成功した。

 リテリューン皇国軍を完全に撃退する。

「勝った! 勝ったぞ!」

 ルーゴン隊から声が上がった。

「良く戦った!」

 戦闘終了後、アーサーンはルーゴン隊の兵士たちの手を取って労った。

 兵士たちはアーサーンに尊敬の念を向ける。

 アーサーンは内心で「今なら少しだけクラナ様の気持ちを理解できるな」と思い、苦笑する。

 ルーゴン隊の兵士が去った後にアーサーンは大きく息を吐いた。

 他国の兵士を指揮し、勝ったことにホッとした。

 心に少しの隙が生まれた。

 不運にもその隙を突かれてしまった。

「お前が大将だな。覚悟しろ!」

 死体の中から突如、一人の兵士が立ち上がり、弓を構えた。

「いかん、アーサーン様をお守りしろ!」

 しかし、アーサーンの兵士の動きは鈍かった。疲労が限界に達していた。

 リテリューン皇国の兵士に矢を打たせてしまった。

「うっ…………!」

 その矢をアーサーンの右肩を貫く。

「おのれ!」

 アーサーンに矢を放った兵士に対して十倍の矢が放たれ、リテリューン皇国の兵士は絶命する。

「アーサーン様!」

「騒ぐな。心配ない。すまないが、軍医を呼んでくれ」

 アーサーンは肩で息をし、異常な発汗していた。

 それを見て、兵士たちはすぐにただ事でないと理解した。

 軍医が駆け付け、深刻そうな顔をする。

「これは毒ですね」

「治せそうか?」

「それは…………」

「難しいだろうな。毒の成分が分からない以上、解毒のしようがない」

「申し訳ありません」

 アーサーンの顔色はどんどん悪くなっていた。

 手の施しようがなく、無駄に時間だけが経過していく。

 駄目か。アーサーンは朦朧とし始めた意識の中で覚悟した。


「ちょっと通してもらえますか?」


 その声の主にその場の全員が視線を向けた。

 そこに立っていたのはルパだった。


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