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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
125/184

ガンルレック要塞攻防戦四日目③~希望的観測~

 クラナの初采配は見事の嵌り、勝利することが出来た。

 これで終われば、よかった。

 しかし、悪いことが二つ起きた。

 一つ目は日が暮れてから、すぐに起きる。

 ルルハルトは別の方法で揺さ振りをかけてきた。

「敵襲だ!」

 見張りの兵士の一言で、緊張が走る。

 クラナは急いで高台へ急行した。ルパも一緒だった。

「敵襲というのには、余りに少ない人物だった」

 クラナは敵の意図が分からなかった為、攻撃命令を出さなかった。

 リテリューン皇国軍は一斉に篝火へ火をつけた。

 そして、「あるもの」を照らした。シャマタル独立同盟軍は戦慄した。

 それは生首だった。兜をつけたままだった。その兜をシャマタル独立同盟軍の兵士ならだれでも知っている。


 それはフィラック・レウスのものだった。


「ルパちゃん!」

 クラナは咄嗟に、ルパの視界を遮った。

「クラナ様、どいてくれますか?」

 しかし、ルパはクラナを退けて、前に出た。照らされる生首を凝視する。

 クラナはかける言葉が見つからなかった。

「酷いことをしますね…………」

 ルパは呟く。

「父さんを殺したと思わせるための小細工です」

「……………」

「…………クラナ様、私が現実逃避をしていると思ってませんか?」

「えっ!?」

「私は冷静ですよ」

 ルパは平坦な声で言った。

「変だと思いませんか? 父さんを討ち取ったなら、今日の朝一番でその首を晒せばいいはずです。その方がこちらの士気を下げられるでしょうし、昼間の光の方が顔が良く見えます」

「確かにそうですね」

「そうしなかった理由は何だと思いますか? 簡単ですよ。父さんを討ち取ったと思わせたいのです」

 ルパの分析は必ずしも正確とは言えなかった。フィラックが生きていると思いたい気持ちが大きく働いた上での分析である。


「ここにあるのはシャマタルの宿将、フィラック・レウスの首である」

 リテリューン皇国軍の兵士が叫んだ。

「この男の最期は実に惨めだった! 泣きながら、命乞いをし、さらにはクラナ・ネジエニグを差し出すと言い出した! とんだ恥さらしだ!」

 リテリューン皇国軍の兵士たちは、声をあげてわざとらしく笑った。

 ルパの眉毛がピクリと動いた。彼女は、自分の父がそんなことをしないと分かっていた。父が死んでいないと信じていた。父を愚弄する人間を許せなかった。

「ちょっとうるさいですね…………」

 クラナは、ルパの隣にいたにも関わらず、その声の主がルパだと理解するのに数秒かかった。それほどルパの声は冷たかった。聞いたことのない声だった。

 ルパは肩から掛けていた小さめの鞄の中から、細長く丸められた紙の筒を取り出した。その先端に火をつけ、逆側を口にくわえた。その煙は独特の匂いがした。

 近くにいたクラナは咳き込んだ。

「ル、ルパちゃん、それは一体…………!」

 ルパの瞳が怪しく光っていた。

「神を否定しながら、またこの力を使うことを懺悔致します」

 ルパは祈りを捧げる仕草をした。

 そして、静かに弩を構えた。

「何をする気だ?」

「こんな距離、当たるわけがない」

 そんなことをシャマタルの兵士たちが口にする。

 それに構わず、ルパは弩を放った。

 矢は真っすぐに飛んでいき、先ほど叫んでいたリテリューン皇国の兵士の右肩に命中した。

 その兵士は悲鳴を上げた。

「少しずれてしまいました。そこの方、それを貸してもらっていいですか?」

 ルパは近くの兵士に声をかける。兵士はルパに威圧され、弩を渡した。

「申し訳ありませんが、こっちの弩に矢を用意してもらってもいいですか?」

 ルパは代わりに矢を放った弩を渡した。

「さて、コツは掴みました」

 ルパは再び弩を構えて、放った。

 先ほど矢を受けた兵士の声が途絶えた。今度は頭を貫いた。

「次」

 ルパはまた矢を放つ。別のリテリューン皇国の兵士が頭を貫かれる。

「次」

 ルパは感情もなく、繰り返す。リテリューン皇国軍は大混乱に陥った。背中を向けた者にも、ルパは容赦なく、矢を放った。リテリューン皇国は思わないところで一方的に被害を出すことになった。

 しかし、ルパも無事ではなかった。

「…………つ、ぎ…………」

 ルパは肩で息をして、異常なほど発汗していた。瞳は虚ろだった。誰が見ても正常ではなかった。

「やめてください! ルパちゃん!!」

 クラナが止めに入った。やっと止めに入る決心がついた。躊躇ってしまったことを後悔した。

「敵は逃げていきます。これ以上、傷つけなくていいです…………これ以上、傷つかなくていいです!」

「クラナ様…………」

 ルパは何かが切れたように弩を捨てる。そして、クラナに体を預けた。

「すいません。足に力が入らないので、支えてもらいますか?」

 ルパは震える右手で、また細く丸められている紙の筒を取り出した。今度は色が違った。

「ルパちゃん、それは?」

「さっきの薬物の副作用を軽減させる薬物です」

 ルパはそれに火をつけて、吸引する。

 すぐに発汗と震えは止まった。

「改良したつもりでしたけど、やっぱりこれは反動がすごいですね」

 ルパは何事もなかったように言う。

「ば、馬鹿なことはしないでください!」

 クラナが怒鳴った。

 兵士たちは驚く。

「ルパちゃん、あなたは一体…………」

「申し訳ありません。私はまだクラナ様に話していないことがあります。それを今は言う時ではないとも思っています。だから、聞かないでもらえますか?」

 ルパは少し冗談っぽく言ったが、声には緊張があった。クラナはそれを感じ取る。

「ルパちゃんが私に何かを隠していたとしても大切な友達です。でも、無茶はしないでくださいね。ルパちゃんに、無茶をさせたって聞いたら、フィラックが帰って来た時に怒られそうです」

と返した。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

 ルパはクラナに預けていた体を戻す。

 これで一騒動が終わり、静かな夜が訪れると兵士たちは思った。

「た、大変です!」

 しかし、悪いことは続く。

 走ってきたのはアーサーンの元へ行ったはずの兵士だった。

「アーサーン様が負傷しました!」

 それを聞いた時、クラナは思わず口を押えて目を見開いた。

 

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