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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ガンルレック要塞攻防戦三日目⑦~要塞への帰還~

 クラナたちはフィラックの作った隙を利用して、なんとか戦場を脱出した。

 一団は全力でガンルレック要塞を目指し、辿り着く。

「早く開けてくれ!」

「リテリューン皇国軍が来る!」

 兵士たちが叫ぶ。

 鐘が鳴った。それは開門の合図だった。

「開門!開門!」

 門が開けられると、続々と兵士たちが要塞内へ駆け込んだ。

「クラナ様も早く」

 アーサーンが言った。

 クラナは全軍の最後尾で遠くに見えるリテリューン皇国軍を眺めていた。

「フィラック様のこと、申し訳ありません。出過ぎた真似をしました」

 アーサーンは頭を下げる。

「いえ、あなたが正しかったです。あなたが居なければ、私は間違った、愚かな決断をしてしまうところでした」

 クラナは震える声で言った。

 アーサーンはクラナが泣くのを堪えているのに気付く。

「…………さぁ、中へ。まだ全てが終わったわけではありません」

 クラナは「そうですね」と短く返して、要塞内へ帰還した。

 要塞は騒がしかった。たどり着くと倒れる者が続出した。

「誰か、シュタット司令官に連絡して救護班を呼んでもらえ! クラナ様、私は兵たちを見てきます」

「分かりました。お願いします」

 アーサーンはクラナの前から姿を消した。

 アーサーンに代わり、クラナに近付く者がいた。

「ネジエニグ司令官」

 それはグリューンの声だった。

 クラナは振り向く。

「レウス殿のこと、申し訳ありません」

 グリューンは頭を下げた。

 クラナは一度深呼吸をして、表情を作った。

「…………済んだことを悔いている時間はありません。グリューンさんが無事で安心しました」

「お気遣い痛み入ります」

 グリューンはもう一度、頭を下げる。

「ところでルーゴンさんは?」

「そういえば、いませんな」

 グリューンは辺りを見渡すが、どこにもいない。

「おい、そこのお前」

 グリューンは比較的軽傷の兵士を呼び止めた。

「お前たちの隊長はいつ帰ってくる?」

 兵士は口を閉ざす。グリューンを恐れているようだった。

「別に何と答えようともお前を罰したりするつもりはない」

「…………はい、ルーゴン様は恥辱に塗れて生きるつもりはない、と言い、敵陣の中へ飛び込みました」

「愚かな!」とグリューンは怒鳴りたくなったが、どうしようもないと思い、言葉を飲み込んだ。

「…………そうか、もう行っていい」

 兵士は足早にその場を立ち去った。

「状況は良くありません。ですが、我が主やリョウ殿が戻ってくるまで必ずこの要塞を死守せねばなりますまい」

「その通りです。ユリアーナさんがリョウさんのところに向かいました」

「それは心強い。ゼピュノーラ殿が行ったのなら、追っ手など問題ないでしょう」

「私もそう思います。必ずリョウさんたちを連れて戻ってきます。そうすれば私たちの勝ちです」

 クラナは敢えて声を大きくした。兵士を鼓舞するためである。さらに続ける。

「皆さん、状況は厳しいです。でも、戦わないといけません。戦わなければ、あなた方は死にます。あなた方が死ねば、あなた方の両親や妻、子供、友人も死んでしまいます。それを許してはいけません。私たちには守るものがあるはずです」

 兵士たちは顔を上げる。

「ネジエニグ司令官の言葉が聞こえたか!?」

 グリューンが続ける。

「友軍であるシャマタル独立同盟軍にここまで言わせておいて、イムレッヤ帝国軍人として、恥ずかしくないのか!? 何も感じないのか!?」

 少しの沈黙が流れた。

「そんなことはありません!」

 兵士が叫んだ。

「俺たちはただ黙って殺されはしない! 負けたりはしない!」

「そうだ、俺たちは勝利する! リテリューン皇国軍を蹴散らし、ルルハルト・ラングラムを討ち取る!」

「この戦争を俺たちの手で終わらせてやるんだ!」

 座り込んでいた兵士たちは立ち上がる。

「よかった…………」とクラナは思わず、漏らした。しかし、怒号がクラナの本音をかき消した。

 皆は興奮していたので、クラナの足が震えていたことに気が付かなかった。

 クラナは怖かった。フィラックを失い、リョウもユリアーナもいない。彼女が屋敷飛び出し、出会い、支えてくれた人たちが今はいない。

「ネジエニグ司令官、ありがとうございます」

 グリューンは感謝を口にする。

「私は自分に出来る最良のことをやっただけです。…………すいません、ここのことは任せても良いですか?」

 クラナは一度、落ち着きたかった。

 両足に力が入らず、いつボロが出るか分からなかった。

 グリューンはそれを察し、「かしこまりました」と返答する。

 クラナは人前から姿を消し、誰も居ない高台へ上った。

「ルルハルト・ラングラム…………」

 遠くに見えるリテリューン皇国軍を見つめる。

「私では、あなたに勝てません。でも、私たちなら戦えると信じています。私はシャマタルとイムレッヤが共闘できると信じています」

 フィラックの思いを無駄にしない為、再びリョウたちに会う為、クラナはルルハルトと対峙する。

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