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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ガンルレック要塞攻防戦三日目④~術中~

 先行するルーゴン隊はリテリューン皇国軍の最後尾を捉えていた。

「見ろ、敵は逃げていくぞ! すでに戦意はない。打ち破れ!」

 ルーゴンの号令でルーゴン隊は敵陣へと突っ込んだ。

 リテリューン皇国軍は脆かった。戦う者はなく、全員が逃げる。

「倍以上の敵を我らが圧倒しているぞ。攻めろ攻めろ! 敵の司令官、ラングラムを見つけ出せ! 奴を生け捕りにして、公開処刑にしてやる!」

 ルーゴンは勝ちを確信していた。彼に付き従う兵士たちも勝利を疑わなかった。

 しかし、その確信が覆り、絶望するまでにあまり時間はかからなかった。

「これはどういうことだ?」

 ルーゴン隊は攻め、敵を打ち破っているはずが敵に囲まれていく。


「馬鹿は扱いやすくて助かる。弓隊、構えろ」

 ルルハルトが言う。さらに続けて「放て」と言い放った。

 リテリューン皇国軍から無数の矢が撃ち込まれた。

 その一斉掃射はルーゴン隊の足を止めた。

「お前のその無能さが味方を危険に晒すのだ」

 ルルハルトは戦列の先頭に出た。

 すでにルーゴン隊に退路はなかった。

「まさか、あの男がラングラムか!? 敵の司令官は目前だ。皆の者、かかれ!」

 ルーゴンは号令したが、誰も動かなかった。

 半数は死傷し、残りの半数は膝をつき、剣を落としていた。すでにルーゴンを除き、戦意のある者はいなかった。

「おい、何をしている!?」

「愚かな指揮官よ。気付かないか? お前たちは術中に嵌り負けたのだ」

 リテリューン皇国軍の弓隊が再びルーゴン隊に狙いを定めていた。ルルハルトの命令一つで矢が放たれ、ルーゴン隊が全滅するのは明白だった。

「一思いにやったらどうだ!?」

 ルーゴンは怒声を張った。

「言われるまでもない。お前たちはすでに用済みだ」

 ルルハルトが二度目の一斉掃射の命令を出す直前だった。

 遠くで騒ぎが起きる音がした。

「報告します! 敵の援軍が来襲! 敵の援軍が来襲!」

 その報告にリテリューン皇国軍は動揺するが、それは一瞬だった。

「この程度で狼狽えるか?」

 ルルハルトの声は決して大きくなかったが、戦場に良く通った。

 その冷たい声がリテリューン皇国軍を沈黙させる。

「そうだ。勝つことに変わりない。慌てる必要はない。だが、思ったより敵の行動が早い。これより我らは敵の援軍を叩く」

「その者たちはどうしますか?」

 シックルフォールが尋ねる。

「放っておけ。どうせ、もう何も出来はしない」

 ルルハルトの言葉通りだった。

 ルーゴン隊はすでに行動の限界点を超えていた。

「もし女の司令官がいたら、生け捕りにしろ」

 ルルハルトは、そう命令を下す。

「それはユリアーナ・ゼピュノーラのことですか?」

 シックルフォールは怪訝そうな表情をする。

「いや、もう一人のクラナ・ネジエニグの方だ。あの女を捉えれば、この戦いの目的は達成する」

「言っている意味が分かりませんが」

「分からなくていい。リョウ、あいつは私と同じだ。金や権力には興味を示せないが、大切な者が死ぬことを嫌う。それが自分の最愛の者となれば、その傷は計り知れないだろう」

「解せません。リョウ、という名前の将も兵士も私は知らない。いったい何者ですか?」

「この大陸で最も警戒すべき男だ」

 ルルハルトはそれ以上、何も言わなかった。

「全軍包囲陣を再構築する。目標は敵の来援、恐らく、シャマタル独立同盟軍だ。指揮はお前に任せる」

 ルルハルトはシックルフォールを指名した。

 敵、と認識すらされなくなったルーゴンは膝をついたまま、俯き、動かなかった。自分には英雄になる才覚がないことを理解していた。それでも偉大過ぎる父と並びたかった。その為に努力はしたが、結局は一軍の指揮をする器にはなれなった。

「ただ戦死するだけならまだしも、敵にここまで利用されるとは…………」



 シャマタル独立同盟軍とグリューン隊は敵の意表を突くことに成功した。

 グリューン隊はその強さを発揮し、優勢に立つ。

「さすがですね」

 グリューン隊が切り開いた道にシャマタル独立同盟軍も続いた。

 しかし、アーサーンは違和感を覚える。

「クラナ様、宜しいですか?」

 アーサーンに言われて、クラナは少しだけ馬の速度を下げた。

「なんですか?」

「どうも敵の抵抗に必死さがありません。もしかすると私たちを包囲陣の深くまで誘い込むつもりかもしれません」

 アーサーンの言った通りルーゴン隊までの道は呆気なく開かれた。

「ルーゴン殿、無事か!?」

 グリューンがルーゴンに歩み寄る。

「なんで来た…………!?」

「なんだと?」

「お前はあのカタイン将軍に才覚を認められた人間だろ! 俺とは違う。これが敵の罠だとなぜ思わなかった!?」

「思ったさ」

「なら、なぜ…………」

「ここはすでに死地…………本懐だ。皆の者、聞け! 死地でやるべきことはなんだ!?」

 グリューンは自らの隊に問いただす。


「「「ただ戦うのみ!!!」」」


 グリューン隊の兵士は口を揃えた。

「ネジエニグ殿、私が敵陣に風穴を開けます。必死に付いてきてください」

 クラナはゾクッとした。

 グリューンはこんな状況で笑っていた。

「カタイン将軍も化け物ですが、あの男もまた化け物、ということでしょうか」

 アーサーンが小声でクラナに言った。

 霧は濃さを増し、視界は悪くなる。しかし、鎧の擦れる音が迫っていた。

 クラナたちは完全に包囲されていた。

「リテリューン皇国軍に私たちの恐ろしさを教えてやれ!」

 グリューンの号令で、グリューン隊は突撃する。

 その猛攻は凄まじかった。

 グリューン隊と初めに接触したのは、シュキザという隊長が指揮を執る大隊だった。

「なんだこいつらは!?」とシュキザは恐怖の混じった声で叫んだ。

 グリューン隊とシュキザ大隊の間に戦闘と呼べるものはなく、グリューン隊が圧倒した。

「ひ、退け、一旦、態勢を…………」

「遅い…………!」

 グリューンは最前線に立ち、シュキザを強襲した。

 言葉の途中でシュキザの首が宙に飛んだ。

 地面に落ちたシュキザの首を後続のグリューン隊が蹴り飛ばした。

「グリューンさん、あんまり前に出ちゃまずいでしょ」

 グリューン隊の兵士の一人が苦笑しながら言う。

「悪いな、つい昔のことを思い出すと血が熱くなる。私は少し下がるとしよう」

 


 ルルハルト本陣。

「ほ、報告します! 敵の攻勢が熾烈を極め、シュキザ大隊長、ヒフェトワ連隊長戦死!」

 兵士は慌ただしく報告した。

「驚きましたな。これは少々警戒するべきでしょう」

 ベルリューネが言う。

「所詮は小さな戦術的勝利だ。大局を覆すことは出来ない」

「そうでしょうな。しかし、こちらの計算を狂わせるくらいは出来るのではないですか?」

「それはない」

 ルルハルトは即答する。

「すでにシックルフォールに命令を出している」

 シックルフォールはシャマタル独立同盟軍とグリューン隊の退路を予測して、兵を伏せていた。

 グリューン隊は次々に敵を破ったが、すぐに新手に対応しなくてはならなくなる。

 快進撃を続けるグリューン隊の足が少しずつ鈍り始める。

「これはさすがにまずいか…………」

 グリューンは呟く。

 クラナも今の状況が全滅に向かっていることは理解していた。

 その上でどうすれば良いかを考える。

 といっても、クラナがこの瞬間に画期的な策を思いつくことは難しい。クラナはリョウの言葉を思い出し、この状況を打破すべき策を思い出す。


「いいかい、クラナ。敵が優れていたら、定石とは違うことが効果的なことがあるんだよ」


 そんな言葉をクラナは思い出した。

「アーサーン、少しの間、外れます。良いですか?」

 クラナの申し出にアーサーンは理由を聞くことも、疑問に思うこともなく「分かりました」と答える。

「ありがとうございます」

 クラナはグリューンの元へと向かった。

「グリューンさん!」とクラナは声を張った。

「ネジエニグ殿?」

「このままでは全滅してしまいます。私の策に乗りませんか?」

「…………聞きましょう」

「敵は私たちの退路を予測して、兵を伏せています。だから、相手の予期しない進路を取れば、敵は乱れると思います」

「なるほど、それは面白い」

「いけませんか?」

「いえ、このまま全滅するよりは試す価値があるでしょう。進路は私たちが決めて宜しいですか?」

「お任せします」とクラナは答えた。

 それを聞くとグリューンは「反転しろ!」と叫んだ。

 グリューン隊は危険な敵前反転を素早く行い、進行方向とは真逆へ攻勢をかける。

 その先にはルルハルト本陣があった。

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