ガンルレック要塞攻防戦三日目③~共闘作戦~
シャマタル独立同盟軍二千五百が出撃の準備を整えていた。
クラナは兵士たちの前に立つ。
「最初に伝えます。今回の出撃の目的は敵の大将ルルハルト・ラングラムを討ち取ることではありません」
兵士たちは少しだけ騒ぐ。
「この出撃の目的は窮地の味方を救うことです」
クラナは言い切った。
「司令官」
一人の兵士が手を挙げる。
「何ですか?」とクラナは返す。
「味方とはイムレッヤ帝国軍ですか?」
兵士の声には不満があった。
「そうです」
クラナは即答した。
「我々は祖父の代からイムレッヤ帝国を戦ってきました。すぐにお酒を飲んで、笑い合うのは難しいかもしれません。でも、将来、私たちの子供たちの代、イムレッヤ帝国との戦争が歴史になった時なら、笑い合うことが出来るかもしれません。私たちにはとても重要な役割があります。この戦争に勝って、イムレッヤ帝国との間に結ばれた同盟をより堅くする必要があります。ここで私たちがイムレッヤ帝国を助けることには大きな意味があります。私たちは三千に満たない寡兵です。でも、私たちが新たな歴史を作るのです。だから、イムレッヤ帝国との初めての共同作戦を成功させる必要があります。もし、もしこの戦いに不満があるなら、遠慮無く言ってください。私は無理強いをしません」
少しだけ沈黙が流れた。
「不満はある」
一人の兵士が言った。
「しかし、こんな不満のある戦いで司令官にもしものことがあったら、俺は自分が許せません。だから、この戦いに参加します」
一人の若い男の宣言に他の兵士も「そうだ」と続いた。
「あいつは…………」
アーサーンが呟く。
「知り合い?」
ユリアーナが尋ねる。
「リグラフという男です。ユーラン殿の連隊で生き残った中隊長です」
「へぇ、若そうなのに中隊長なのね。中々、優秀ってことかしら?」
「剣の腕なら、私より上です」
「ふーん、今度、手合わせでもしてみようかしら?」
「さすがに殺しても死なないゼピュノーラ殿には勝てないと思いますが」
「それって褒めているのかしら?」
ユリアーナはアーサーンを睨んだ。
「世間話はこれくらいにしておきますか」
アーサーンは逃げる。
それと入れ違いで、ユリアーナにクラナが近づいた。
クラナはユリアーナに手紙を託した。
「ユリアーナさん、危険なことを頼んで申し訳ありません」
「気にしないでください。でも、一つだけお願いがあります」
ユリアーナは極めて真剣な表情で言った。クラナは緊張する。
「私が帰ってくるまで、リテリューン皇国軍に勝たないでくださいね。カタインさんに急いで戻ってもらうのに、リテリューン皇国軍が白旗を振っていたら、カタイン様に怒られそうです」
ユリアーナは笑った。
「そうですね。でも、もしかしたら、戦勝祝いの準備をしているかもしれません」
クラナは強がって見せた。
「その時はリョウに文句を言いながら、お酒を飲みましょ」
「それは美味しくお酒が飲めそうですね」
クラナは無理やり笑って見せた。
ユリアーナはクラナを抱き締める。
「…………クラナ様、必ず生きて会いましょうね」
「はい」と言って、クラナは抱き締め返す。
ユリアーナは南門へ向かう。
クラナはその背中を見送った。
「…………我々も行きましょう」
アーサーンが言った。
クラナたちは移動を開始し、グリューンと東門で合流した。
「イムレッヤ帝国の失態に付き合わせて申し訳ありません」
グリューンが謝罪する。
「同じ戦場で友軍を助けるのは当然です。行きましょう」
シャマタル独立同盟軍・グリューン隊は要塞から出撃する。
シャマタル独立同盟軍・グリューン隊の動きをシュタットは静観していた。
一応、ルーゴン、クラナ、グリューンから行動することに対して、使いが来ていたが、誰の行動に対しても許可は出していなかった。
「まさか、シャマタルやグリューン様まで、足並みを乱すとは思いませんでした」
ハウセンは失望に言葉を漏らす。
「いや、ルーゴンはともかく、シャマタルとグリューン殿はあれでいい。こちらが指示を出していたら、間に合わなかった。今ならまだ、ルーゴン将軍を救出できるかもしれない。我らは敵の別働隊が要塞に迫らないか警戒する」
シュタットは防衛に回り、ルーゴン将軍のことはシャマタル独立同盟軍とグリューン隊に任せた。
「私だけでは不安だったのですが、あなた方も同じことを感じたのならば心強いです」
とグリューンが言う。
「それは私の言葉です。これは恐らく罠です。ルーゴン将軍を救わないといけません」
「分かりました。あのような男でも大事な戦力です。今は時間が惜しい。行きましょう」
クラナとグリューンは移動しながら、ルーゴン隊が敗退している際にどうするかを話した。
「私の隊が敵に突入します。ネジエニグ殿はその隙にルーゴン将軍を連れて退却してください」
グリューンが言う。
「これは我々、イムレッヤ帝国軍の失態、あなた方に必要以上の負担をかけるわけにはいきません」
「グリューンさん…………」
「心配はしないでください。私の上官は人使いが荒いので、無茶は慣れています」
グリューンの提案に、内心でホッとしている自分がいることに、クラナは嫌悪した。それでもその申し出を断れなかった。
笛が鳴った。それは複数方向からだった。
哨戒の為に先行していた騎兵からだ。
「どうやら囲まれつつあるようですね」
クラナが言う。
「敵に包囲される前にルーゴン将軍に追いつかないといけません。しかし、敵の動きは思いのほか早いようです。間に合えば、良いですが…………」