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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
113/184

ガンルレック要塞攻防戦三日目②~クラナの手紙~

 クラナは急いで自分の部屋へ向かった。

 そして、すぐに紙と筆を用意した。

 リョウに手紙を書きたかった。

 しかし、クラナは筆を持って、固まってしまった。まだ描きたい内容は固まっていなかった。

 それでも時間がないことの焦りから、筆を動かし始める。


『リョウさんへ

 今回の件はリョウさんのせいじゃありません。気にしないでください。私は大丈夫です。だから、責任を感じないでください。リョウさんは悪く…………


 そこまで書いて、クラナは筆を止めた。

「こんなことを書いたって、リョウさんは絶対に責任を感じちゃいます。リョウさんを庇えば、庇うほど、書けば書くほど、リョウさんを追い込む気がします」

 クラナは再考する。


『リョウさんへ

 リョウさん元気ですか? 私は元気にやってます。リョウさんがいなくてもフィラックやアーサーンがいるので大丈夫です。だから焦らずに…………」

 クラナはまた筆を止める。

 そして、首を横に激しく振った。

「全然、大丈夫じゃないですよ! こんな強がり言っても結局リョウさんは…………」

 クラナは再再考する。


『リョウさんへ

 ルルハルトさんが要塞へ来襲しました。私たちは要塞の利を生かして、防戦しています。リョウさんやカタイン将軍が来援するまで、要塞を死守します。詳しいことはユリアーナさんに聞いてください』



 ガンッ! とクラナは机に頭を叩きつけてしまった。

「ユリアーナさんに聞いてください、って…………なら手紙を書く必要なんてないじゃないですか! あ~~、もう、何を書けばいいのでしょう…………」

 クラナは頭を抱えて、突っ伏した。

「まったく何をやっているのですか?」

 声がして、クラナは振り向いた。

「ルパちゃん!? 寝たんじゃないんですか!?」

「寝てましたよ。けど、周りがうるさかったので、目が覚めました」

 ルパはわざとらしく大きな欠伸をした。

「皆さん忙しそうに動いているのに、クラナ様は一人で呆けて、突っ込んで、楽しそうですね」

 ルパは書きかけの手紙を見ながら言う。

「た、楽しくはないですよ!」

「…………クラナ様、手紙の内容以前の話をしてもいいですか?」

「な、なんですか?」

「そんな震えた手で書いたのが分かる手紙を貰ったら、リョウさんは押しつぶされますよ」

「えっ!?」

 クラナは書きかけの手紙を見た。全ての字が歪だった。自分の手を見ると震えていた。

「…………ルパちゃん、私が言うことを代筆してもらってもいいですか?」

 クラナは咄嗟に言う。

「それでいいと思いますか?」

 ルパは鋭く返した。

「…………良くないです。でも、どうしたらいいか分かりません」

「クラナ様、もっと素直に書いたらどうですか? リョウさんを必要以上に庇わなくてもいいですし、クラナ様自身が必要以上に強がらなくてもいいと思います。もう少し肩の力を抜いてください。それに震えが止まらないなら…………」

 ルパはクラナを後ろから抱きしめた。

「人の温もりって安心しますよね。これで少しはまともな字が書けるんじゃないんですか?」

「ルパちゃん…………」

「時間がないですよ。手紙を書くのでしょ?」

 クラナは深呼吸をする。手の震えは止まっていた。


『リョウさんへ

 今までリョウさんと距離が近すぎて、こんな風に手紙を書いたことはありませんでした。リョウさんが隣にいないのはとても不安です。一年間、リョウさんの妻として肩を並べて歩んでいたつもりでした。でも、戦場に出た時、リョウさんの存在はやっぱり遠くて、一年前の戦争の時と同じように背中を見ることになってしまいました。だから、今回のことは好機だと思っています。私は必ずルルハルトさんに勝ちます。そして、次に会う時はリョウさんと肩を並べられるようになりたいです。生意気で、大それたことを言っている自覚はあります。でも、私はそんな存在になりたいです。まだ、何も分からなかった私をリョウさんが支えてくれたように、今度は私がリョウさんを支えたいです。次に会う時は、頑張ったね、と私を褒めてください。私は、別に大したことなかったですよ、と返しますから

                                    クラナ・ネジエニグより』


「長いし、カッコつけすぎじゃないですか?」

 ルパはきっぱりと言う。

「もっと優しい言葉を言ってもくれてもいいと思いますけど!?」

「優しい言葉ですか? 分かりました。じゃあ、改めて…………どんだけ、リョウさんのことが好きなんですか? 私は恋をしたことがないですけど、ここまで恥ずかしい手紙は書けないと思いますよ」

「…………優しいってなんでしたっけ?」

 クラナは顔を真っ赤にする。

「うぅぅぅぅ…………分かりました。書き直しますよ…………」

 クラナは書き終わった手紙を捨てようとした。

「でもクラナ様らしいと思いますよ。私にはともかく、リョウさんにはクラナ様の思いが届くんじゃないんですか?」

「そう思っていたなら一番初めにその言葉を言ってくれませんか!?」

「協力したんですから、少しくらい遊ばせてください。あと、それから、念のため、この袋に手紙を入れておいてください」

「これは?」

「防水・防火に優れた素材で作られたものです。ユリアーナさんなら、水や火の中に飛び込むくらいの無茶をしそうですから」

「それは否定できませんね。んっ? なんでユリアーナさんが行くことを知っているんですか?」

 クラナは極めて真面目な表情で言った。

 ルパは珍しく焦った表情になる。

 クラナはルパがうまい言い訳を探していると気付いた。

「ルパちゃん、私たちの会話を聞いていましたね」

 クラナは先回りして言った。

 ルパは観念して、溜息をついた。

「徹夜だと頭が働きませんね…………はい、聞いていました。怒りますか?」

 ルパは珍しくクラナに対して弱気な表情をする。

「怒る理由がありません。…………なら、知っていると思いますけど、フィラックは出撃しません。安心してください」

「ありがとうございます…………」

 そう言ったルパの表情は悲しそうだった。


 コンコン、とドアを叩く音がした。


「クラナ様、準備が整いました」

 それはアーサーンだった。

「分かりました」

 クラナの表情に緊張が浮かんだ。立ち上がり、ドアへ向かう。

「クラナ様」

「はい?」

「自分の出来ることをよく考えて、最善を尽くしてください」

 ルパは少しだけ震える声で言った。

 クラナは違和感を覚えたが、時間が無かったので問うことは出来ず、

「分かりました」とだけ答えた。


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